第16話 最強の敵、真王

風の使い手六人は、飛行甲板を破壊し、ジェット戦闘機を離陸させなくして、艦載機による爆撃や核攻撃の根を絶った。

 機銃掃射や水神軍の兵士による機関銃攻撃が間断なく続いたが、真王の雷撃と神一の風破、そして火王の火炎竜、土鬼の土の龍が暴れまわり、機銃を破壊した。

 戦いは三十分ほどで決着がついて、六人が艦橋の中へ突撃しようとした、その時、天真が姿を現して真王の前に立った。

「真王よ、わが妻になる気は無いか?」

 天真の声は、しゃがれていて、黒ずんだ顔は闇の力に魅入られた為か更に老けて見えた。

「馬鹿を言わないで! あなたの妻になるくらいなら死んだほうがましよ!」

 真王が険しい顔で天真を睨みつけた。

「ふん、ならば死ね!」

 言うなり、天真は鋭い氷の槍を無数に作り出して、真王に向かって雨のように降らせた。

真王は、雨と降る氷の槍を、雷撃で一瞬のうちに粉砕すると、すぐさま天真に雷撃を浴びせ返した。天真はその雷撃を厚い氷の壁を呼び出して防ぐと、冷凍破を繰り出した。

 天真と真王の戦いは激しさを増しながら、両者互角の戦いが空中で続いていて、神一達は、それを見守るしかなかった。

 すると、天真の冷凍破を、真王がかわしたその瞬間、天真の右腕の義手がロケットのように飛んで、真王の首元に取り付くと、ギリギリとその首を絞めつけていった。

「ううっ!」身動きが取れなくなった真王の前面に躍り出た天真が、両腕を顔の前でクロスさせて、一気に振り下ろした。「闇の奥義“無間”!」

 その瞬間、天真の眼は赤く光り、その目がぐんぐん大きくなって、真王は、その目に飲み込まれていくような錯覚に陥った。そして、その赤が視界いっぱいに広がると、次第に赤から青へ、そして深い暗黒へと変化していった。

 真王がもがきながら、雷撃を放とうとしたが、身体はピクリとも動かなかった。もがけばもがくほどに、巨大な重力に押しつぶされそうな圧迫感を感じた。既に五感は消えて、冷たい宇宙空間に投げ出されたような、寒さ、息苦しさ、ピクリとも動かせぬ身体の無力感、はがゆさ、全てを失ったような喪失感、それらが混然となって、真王の心を苛んでいた。

 真王は、生きたまま、苦しみだけを感じる無間地獄を味わっていたのだ。

 その時、苦痛と暗黒の世界に天真の声が響いた。

「どうだ、我が闇の術の“無間”の味は? 苦しみを取ってほしければ、我が僕となれ、神一を倒すんだ!」

 正気を失った真王の眼から光が消えた。彼女の五感が戻り、現実世界に居る自分を見つけたが、彼女の意思に反して身体は天真の命に従っていった。

 真王は、くるりと神一の方に向き直ると、一気に飛び上がり、神一達に雷撃を浴びせ始めた。

「真王、何をするんだ!」

 神一は、雷撃をすり抜けながら空へと飛び上がり、真王に近づいてその顔を見た。だが、その顔からはいつもの表情は消えて、非情の雷神が神一を睨んでいた。

「真王! 目を覚ませ!!」

 神一の渾身の叫びは、虚しく真王の身体を通り抜けていった。

「真王は、天真の術にかかって操られている。一旦引け!」

 神一が火王達四人に向かって天空から叫ぶと、状況を察した彼らは後退を始めた。

 その時、彼女の眼が青く光った。「雷撃が来る!」咄嗟に、神一は真王目掛けて風破を放っていた。真王の身体は弾け飛んだが、手加減した風破では真王にダメージを与えることは出来なかった。

 すぐに体勢を立て直した真王は、死人のような眼で神一を追い続けた。

 最愛の妻は、今、最強の敵となって神一の前に立ちはだかっていた。 

 逃げながら、神一はどうする事も出来ずにいて、真王の容赦ない雷撃は、さらに強力になっていった。

「これでは、こちらがやられてしまう。真王を倒すしかないのか……」

 神一は、激しさを増す雷撃から逃げながら、苦渋の決断をしなければならなかった。

 神一は、一旦心を落ち着かせると、高さ百メートルほどの竜巻を出現させた。その竜巻の頭の部分がググっと下りてくると、竜の動きのように自在に操って真王を攻撃した。彼の最強奥義、竜の風だ。竜の風は真王の雷撃迄も跳ね返して、その強力な風で彼女を追い詰めた。

 だが、次の瞬間、もう一つの竜巻が現れて、今度は、神一を襲った。

「何っ! お前も竜の風を使えたのか!?」

 神一と真王が操る二つの竜の風は、その猛烈な風と風をぶつけ合って空と海を震わせた。風神と、雷神と化した二人は、お互いのあらん限りの技を出し合って、激突を繰り返したが、勝負はつかなかった。

「ゆるせ、真王!」

 神一が目を閉じ、その動きが一瞬止まった刹那、「風牙!!」彼の必殺技、風牙が真王の右腕に炸裂した。真王は右腕を抑えてのけ反ったが、その腕は斬れていなかった。

「なぜだ!? 風牙に斬れない物など無いはずなのに?」

 神一は唖然としながらも、胸をなでおろす自分があった。彼は、無意識のうちに力をセーブしていたのだ。愛する真王を傷つけることなど神一には出来なかったのである。

 その時、閃光が走り、真王の非情の雷撃が、神一の身体に炸裂した。

「ウワーッ」

 空中の神一はバランスを崩して落下し、地面に叩きつけられた。神一の戦闘服は焼け焦げて、その顔は苦悶に歪んでいた。

「神一ーッ!」

 何処からともなく土鬼達が、神一に駆け寄った。

「真王、止めを刺すんだ!!」

 天真の声が響いて、真王の左手の剣が上がった。雷鳴が轟き、これまでかと神一達は目を閉じた。

 だが、次の瞬間、空中で静止していた真王の身体は、ガクッとバランスを崩し落下してきた。

 真王が最後の力を振り絞って、我が心を閉じたのである。土鬼帝が、落ちて来た真王を抱き止め、あとの者が神一を担ぐと、彼らは小型艇に乗って空母フォードから撤退していった。

 海上を急ぐ、小型艇に天真の容赦ない攻撃が続いた。彼らは、あらん限りの技を駆使してそれに対抗したが、所詮、天真の敵ではなかった。

 小型船はあっけなく破壊され、海の藻屑となって消えた。

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