第15話 ポセイドン奇襲

神一と真王を乗せたジェット戦闘機は、途中、空中給油を受けて、三時間ほどで西海岸に待機している空母リンカーンに着陸した。

そこから、小型船で一時間位走った所で、二人は、ダイバースーツに着替えて下ろされた。そのスーツにはジェットブーツが付いていて海中を自在に動ける優れものだった。

「これ以上進みますと、敵のレーダーに見つかってしまいます。後は、あなた方にお任せします。あなた方の行動は監視衛星が常時捉えていますので、制圧に成功したら合図を送ってください。健闘を祈ります……」

 心配顔の米兵に送られて、二人は海中へと姿を消した。

「神ちゃん、ダイビングは初めてでしょう?」

「うん、水中では風の技は使えないし、海底まで数百メートル、深い所だと数千メートルもあるというから、不気味な怖さがあるね」

 二人が無線で話しながら前進してゆくと、遠くに潜水艦らしい船影が見えてきた。それは、乗っ取られた米原潜ポセイドンだった。ポセイドンは浮上してゆっくりと南へ進んでいた。彼らは、敢えて姿を見せる事で、米軍を威嚇していたのだ。

「真王、どうする?」

 神一は、一気にポセイドンに近づき攻撃するつもりでいるが、念のためと真王の意見を求めた。

「そうね。発見されたら潜航される。潜航されたら間違いなく核を発射すると思うから

失敗は許されないわ。入り口さえ作ってくれれば、あとは私に任せて。でも、あの鋼鉄の塊を風牙(ふうが 神一の最強の技の一つ、風の力でどんな物でも切る事が出来ると言われている)で斬れるの?」

「大丈夫! ……だと思うが、鋼鉄なんか切った事は無いから本当はよく分からないんだ。でも、風牙は物体を切るというより空間を切るんだ。理論的には切れないものは無いはずだ」

「理論的? ……」

「心配するな。気合で切る!」

「……」

 納得できない風の真王だったが、二人は、水中を高速で進み、ポセイドンの右舷から艦上に飛び乗った。

「神ちゃん、何時でもいいわよ!」

 真王が、雷雲を起こして、空中に浮きあがり雷撃の体勢に入った。


艦内では、天真の傀儡の術“無間”(むげん)によって正気を無くし、ゾンビのような目をしたアーリン艦長達が、神一と真王が潜水艦の甲板に乗り込んで来たのを、いち早く察知していた。

「艦長、右舷後方甲板に人影があります!」

「なに! 米軍の工作員だろうが、どうやってこの船に乗り込んだのだ? 急速潜航して、振り落とせ! 核ミサイル発射のカウントダウンを開始しろ!」

「了解! 急速潜航よし。ミサイル発射五分前!」

 潜水艦が大きく揺れると、ゆっくり潜航を始めた。

「神ちゃん! 早く!」

 真王の甲高い声が響くと同時に、神一が艦橋目指して駆けてゆき、前傾姿勢になると、一気に、右手を左下から右上へ逆袈裟切りに振り上げて、渾身の風牙を放った。

 

 だが、何も起こらなくて、真王が失敗かと思ったその時、艦橋の頭部にピシッと斜めに線が入ると、凄まじい金属音と共に五メートル四方はあろうかという鉄塊が滑り落ちて、甲板に激突し海中へと沈んでいった。

 次の瞬間、雷鳴が鳴り響いたと思うと、艦橋頭部にぽっかりと開いた大きな穴を目指して、二度三度と真王の雷撃が炸裂した。宙に浮いていた真王は、そのまま、船内へと突っ込んで行くと、青い光が何度も船内から吹き出して、乗組員の悲鳴がそこかしこに上がった。潜水艦は潜航を止め停止した。


「神ちゃん、中は制圧して、ミサイル発射システムは破壊したから、アメリカ軍に連絡して頂戴。発射迄一分を切っていたのよ、危機一髪だったわ」

 切断された艦橋の穴から、真王がひょいと顔を出して大声で神一に告げた。

 神一が、合図の信号弾を打ち上げると、数分も経たぬうちに上空に戦闘機が現れ、一時間ほどで、米艦隊が続々と集結して、ポセイドンを取り囲んだ。

「よくやってくれました。後の処理はこちらに任せて下さい。お疲れだとは思いますが東京迄送りますので、戦闘機に乗ってください」

 ポセイドンに乗り込んで来た、士官の一人が神一に告げた。

 空母リンカーンの艦長の満面の笑みに送られて、二人が、再び戦闘機に乗ると、疲れからか眠気が襲って来て、二人は帰還までの数時間身体を休めることができた。

 

 目を覚ますと、既に空母レーガンに到着していた。戦闘機から降りると、艦長のボルト大佐の出迎えを受けた。そこに、火王勝も来ていて、神一に近づき、東京の人達の窮状を訴えた。

「神一、東京は、いつ暴動が起こるかもしれない状況になっている。暴動が起これば大勢の死者が出るだろう。皆、限界にきているんだ」

火王勝が、悲痛な顔で神一の眼を見つめた。

「そうか、時間が無いんだな」

 神一は短く言って、火王勝の肩をポンと叩くと、ボルト艦長達と会議室へ入っていった。

「お二人の活躍に、大統領からくれぐれもよろしくお伝えくださいとの伝言が、先ほど入りました。本当にありがとうございます」

 ボルト大佐以下、全士官が頭を深々と下げて謝意を表した。

「お役に立てて何よりです、次は空母フォードですね。あれから動きはありますか?」

「フォードの戦闘機の離発着回数が増えています。こちらの動きを警戒しているのだと思います。また、上陸して、東京に新政府樹立の為の本部を設置するつもりかもしれませんね」

「その日は近いと思います。その前に叩きましょう!」

 神一は、そう言いながら身を乗り出していた。先ほどの火王勝の言葉が、神一をせかせていたのだ。

「しかし、テロリスト達の切り札である、弾道ミサイル搭載の潜水艦が、他にも存在する可能性は無いでしょうか?」

「天真は、綿密に計画を立てていますから、その可能性は無いとは言えません。しかし、今の日本や東京の人達の事を考えると、その潜水艦をひとつひとつ潰している時間はありません。天真を倒せば洗脳は解けるはずです。天真という根っこを切る事が先決です。

 ただ、攻撃は私達に任せて下さい。米軍が総攻撃したのでは、天真も、核ミサイルを発射してしまうでしょう。私達が相手なら、天真は真面に勝負を挑んでくるはずです。

 それから、行方不明になった潜水艦や核搭載の船が無いか、世界の各国に問い合わせて下さい。天真の駒の数も把握しておくべきだと思います」

 ボルト大佐と神一は、話しながら攻撃の方向で意見は纏まっていった。


 その頃、空母フォードでは、天真が指令室で部下から報告を受けていた。

「天真様、西海岸の潜水艦ポセイドンとの交信が途絶えました!」

「何! ……。アメリカ西海岸の切り札が消えてしまったか。まあいい、アメリカは、東海岸の他の一隻でカバー出来るだろう。大西洋の二隻、地中海、インド洋、日本海、北極海、この六隻に、攻撃を加える者は、誰であろうと核の洗礼を受けるだろうと全世界に伝えろ!」

 この声明を聞いた世界の首脳は、電話会談などで対応策を練ったが、核戦争と言う最悪のシナリオだけは避けねばならないとの意見は一致したものの、具体的な対応策は出せなかった。結局、六隻の潜水艦を特定し、最悪の状況に備えて、核ミサイルでの攻撃態勢を取って、状況を見守るしかなかった。

 

 第七艦隊の、空母レーガンでは、六人の風使い(神一夫婦、土鬼親子、火王親子)が顔を揃えていた。

「本当に、あなた方がフォードを襲っても、核は発射されないんでしょうね?」

 ボルト大佐が神一に念を押した。

「大丈夫です。天真が核戦争をする気なら、既に地球は終わっています。彼の目的は、世界を我が物とする事で、破壊する為では無いと思います。ですから、私達に空母フォードへの攻撃の許可をください。無政府状態になった日本を、壊滅状態の東京都民を救いたいのです。彼らの心は既に限界に来ています。これ以上待てないのです!」

 必死の表情で、声を絞って訴える神一の目には涙が光っていた。

「分かりました。大統領の許可をとりましょう」


 それから、数時間が経ってアメリカ大統領の許可が下りた。それは、空母フォードの攻撃を許可するという、アメリカ独自の判断だった。

 神一達は、その夜、六人による奇襲作戦を開始した。

 まず、土鬼親子が船内に侵入し、土の技で兵士達を撹乱すると、夜の空に稲妻が走り、真王の雷撃が空母フォードの飛行甲板に炸裂した。続いて、火王親子の火炎竜が火炎弾を降らせると、飛行甲板は見る間に火の海となった。

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