第13話聞き馴染みのある呼び名と声

瞼を開けると、目前は白一色だった。

辺りを見渡すが一面、白一色に包まれていた。

死んだはずの俺が白一色の空間で呼吸をしていた。

瞬きをしても景色は一向に変わらない。

「......だ、誰かぁ、誰かいないかー!おっ......おいぃっ、居たら返事してくれよぉぉー」

一歩、一歩ずつ脚を前に出して歩みながら、情けない声をあげる俺。

どれだけ歩んだのか分からないほど前に、前に進んでいるのに終わりが見えない。

歩けど歩けど、変わらない景色にうんざりする。誰も応答しない。


「──ゆっくん。ゆっくん」


どこかから聞き馴染みのある呼び名と声が聞こえた。


「ゆっくん──ゆっくん、ここにいるよ。私はここよ、ゆっくん」


後ろから抱き締められた感覚がして、立ち止まる俺。

懐かしい、あの頃に感じた温かみを感じた。

幼い頃にしてもらった抱擁、あの温もりに違いなかった。

視線を落とすと見慣れた白く細い手が胸もとに触れていた。

「──さん......お、母......さん、なの......?」

「そうよ。ゆっくんのママでちゅよ~」

「そんなに幼い俺じゃないよ、もう。元気にしてた?」

「えへへぇー。なんだかみたいなゆっくんと重なって。元気よ、私はいつでもね」

「あ、ああぁ......のこと、かぁぁ」

手が離れ、母親が回り込んで姿を見せた。


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