第7話衛兵の制服を着た、イカれた人物

俺は、監禁された建物から出ると財布が落ちていた。財布を手に取り、中身を確認する。手はつけられていなかった。財布をポケットにしまい、歩きだす。

長い石段を下りていくが、30分以上も下りている気がする。

明るい場所を目指し、疲れた脚を動かす。辺りは、闇につつまれている。どこを歩いているのかわからないほどだ。

20分ほど歩き続け、やっと建物が建ち並んでいるのが見えてきた。

宿屋を探していると、後ろから野太い声が飛んできた。

「おーい、君。そこの君だよ、とまれっ君ぃ」

俺のことを呼んでいるとは思わず、歩き続けた。

後ろから、厚い手が俺の肩においてきた。

「俺っすか?何ですか、旅をしてるだけなんすけど」

「旅をしてる?その格好でか。物騒だから宿屋に泊まれよ、君」

野太い声をしていない小柄な制服を着た男性に忠告される。

「はぁ。さきを急いでるんで」

歩きだそうとしたら、小柄な男性の隣にいた無精髭の方から声をかけてきた。

「ちょっと待ってくれないか。その顔はどうしたんだ」

「ああ、ミューズヘーネっていうのにやられたんすよ」

「いい顔ですね。もっと近くで見せていただけませんか」

「何いってんの、あんた。この顔のどこが──」

野太い声で無精髭の男性が気に食わないことを言ってきた。そいつの胸ぐらを掴もうと近づいたとき、腹に激しい痛みが走った。

「おっ......ま、ぁ」

目の前の男性が笑いだす。狂っていた、相当なイカれたやつだった。

「その顔ぉぉ、好きだねぇぇ~。ウヒヒヒィィ、その痛みに歪む顔、その瞳ぃぃ、そそられるぅぅぅ。あはははっ。もっとぉぉうう見せて~」

状況が理解できない俺は、腹を見るとナイフが突き刺さっていた。

身体を突き飛ばされて、倒れた。背中にも衝撃がきた。声が出ない。口から血が流れた。

「ぅぅ~」

熱が全身に広がっていく。


あついあついあついあついあつい──


何だよ、この感覚。


いたいいたいいたいいたいいたい──


手先が痺れてきた。意識が遠のいていく。視界が──。身体ももうもちそうにない。誰か、誰か誰か誰か助けて。お願いだから。

何で俺ばっか、こんな目にあうんだよ。俺の人生はここまで──。


薄れていく意識の中、聞いた覚えがない声が聞こえてくる。


──必ず助けるよ、少年。今、終わらせるから


もう、俺の──。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る