第4話

「すみません……」


照れた私を見てお客さんは微笑んでくれた。


「話を聞いて貰って有難うございます」


いつも通りの完璧な営業スマイルに修正し直す。


「ではプランについてですが、お花を買う目的から伺っても宜しいですか?」

マニュアル通りの定型文で質問する。


「はい。恋人に送る花なんです」


お客様は、はにかみながらに応えてくれた。

すぐに私はメモを取り始める。


「恋人にお花を贈るなんて素敵ですね」


少し照れた様子のお客様は、有難うございます、と小さな声で話した。


「先程の、花は全部違うってことも恋人に教えられました」

「恋人さんはお花がとってもお好きなんですね」

「はい。とても」


私は、お客様の顔を見る。何だろう。この違和感。

お客様の顔は微笑んでいるはずなのに。

凄く悲しそうで、寂しそうなのはなぜ。


「恋人さんの一番好きな花って分かりますか?」


用意された言葉を並べる。


「一番好きかは分からないですけど、この前、青いアスターを貰いました」

「青いアスターですか」


一般的にお供えされることが多いアスター、菊の花。

贈り物に用いられることもあるが、大抵の場合は仏壇の前で見ることが多いだろう。


『今思い出したんですが、その時「これは自分だから」と言っていました。花の知識は皆無なので自分にはさっぱり分からなかったんですけど……』


恋人さんの発言に気になることを感じ、先ほどの違和感の正体に予想がついた。


「なるほど。決まりました。恋人さんに送る花」

「本当ですか?」


驚いたようにお客様は声を大きくする。


「はい。今お持ちします。それと少し、私の話を聞いてもらえますか?」


お客様は黙って頷いた。

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