セルフカット
人間、駄目だと気がつくのは唐突で、点火された導火線は瞬く間に燃えていってしまっていた。
我ながら子供だなと思う。ちょとした事で感情的になったり、目の前に食べ物があるととりあえず口の中に押し込んでしまう。……衝動を抑える事が苦手な子供だ。
故に、かつての私の部屋は物で溢れかえっていた。衝動買いをした漫画やゲームに積読、各種用途に沿った掃除用洗剤に買ってから使った記憶のない調理器具、書いた方がいいと言われていた日記帳などなど。
本棚には大量の漫画と積読の小説にビジネス本。アルミラックには小物に大型テレビに数種類のゲーム機本体。押入れにその内使うであろう消耗品の数々。戸棚には食器より缶詰や小分けのお菓子がぎっしりと詰め込まれていた。
それが普通であり、よくある人間の一人暮らしだと思っていた。
……だからこそ、『断捨離』を知った時、真っ先に処分すべきなのは自分自身だと思ってしまった。
だってそうじゃないのかと思う。別に殺しや虐待などの社会的問題があるわけではない。よくある普通の部屋とその持ち主の二点において、部屋の物をなくすより、物を増やそうとする者をなくすほうが効率が良いのではないかと思う。
まぁ、自己判断とはいえ、持ち主が鬱などで精神をヤッている可能性もある。それによく聞くではないか。親より先に死ぬのは良くない事だと。そう考えればとりあえず初手自害は色々な観点から愚策と判断し、いつでも死ねる様にと通販でロープを買っておいた。お値段約千五百円。思ってたより高かった。
さて、自分の処理を後回しにした場合、処分すべき物は消去法として部屋にある物となった。
物を捨てるのにあたって明確なルールとしては一年以上使ってない物をとりあえず捨ててみるという事。とはいえ、物の断捨離話なんてものは面白い事なんてない。別に思い入れのある品に一話分のドラマがあるわけでもなく、次々捨てていき、部屋がスッキリしましたちゃんちゃんで終わりだ。
だから私は部屋の大半の物を捨てた。沢山捨てて、その時が来た時に自分をゴミ袋に詰め込んで処分できる様に。
……あぁそうだ。まだ捨てれないものがあった。
ここまで暇潰しに読んでいる人なら分かると思うけれども、私は創作者であり人間だ。そして悲しい事に自画自賛できる精神の肩を組んで来る承認欲求君もいる。何ならその反対側には他者と比較をして焦らせたり苛ただせたりさせる嫉妬君もいるもんだ。早く絶交した方がいいと思う。
ではその二人と絶交する方法は何かと考えた時、浮かぶのは決まってSNSなるもの。手軽に他者と繋がれるのは魅力的だが、群れる事が必ずしても救われるわけではない事を自分の内の隅では理解している。
ただ、そう簡単に切り離せないのが悩ましい事。何故なら相手は見ず知らずの誰かであり、先程処分した心無い思い出の品とは違うのだ。赤の他人・匿名の誰かだと切り捨てるのは簡単かもしれないな、相手によってはそれでも仲の良い友人と思える人だっている。その人諸々切り捨てるのは流石に心苦しい。
その結果、折衷案として合流関係を最小限にしたり、多くを見ない様にしていた。
「あぁ、もう駄目だな」
……まぁ、そんな涙ぐましい頑張りも、日々の積み重ねとちょっとした出来事で駄目になってしまうものだ。
平日の日付も変わる真夜中。明日も仕事でもう寝ると勤しんでいた私はほんのちょっとだけ高かった化粧品を落とし、運悪く蓋が開いて三分の一を駄目にしてしまった。買ったばかりというのもあり、ショックといえばショックなのだがタイミングが悪いという事に、もう少しで無くなりそうなシャンプーとコンディショナー、少しだけ残ってるミックスナッツ、顎関節の痛み。それらの後押しという形で私はそれらを処分し、パソコンを起動してはSNS関連のあらゆるを削除した。別に交流が盛んで合ったわけじゃないし、元々多くを語るアカウントでもなかった。……言ってしまえば消えても直ぐには気が付かれない。いた事すら忘れられていそうなアカウントだ。
驚く程ではないにしろ、このご時世において、人との繋がりがボタン一つで簡単に断ち切れしまう。
……故に私はある程度の自己完結を保つためにSNSのアカウントを消した。正直、消した翌朝にはあれこれ言い訳をつけて復活させようともした。けれども自分のダメな所はよく理解している。理解しているからこそ、自分の分身となるアカウントを復活させるわけにはいかない。
「自分を殺せない分、しっかりと自分を殺しておかないと」
またいつか何らかの気の変わり様で現れたもう一人の私は他人の空似で済ませたい。一般人は二度目の復活なんてないのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます