23/3/26 現在

「——うぅっ」

 目が覚めると同時に喉の渇きを感じた。時刻は分からないけれども、開けっぱなしのカーテンの向こうから光が入っているので深夜……ではないと思いたい。

 時間を確認しないままベットを降りると軽い眩暈と共に何となく昨晩の事を思い出す。

「飲み過ぎた……わけではないんだけどなぁ」

 確かそう、昨晩はなんとなくスーパーに行って、なんとなくお酒を買った。他にもの何か買った気がしたけれども、空腹感が無いあたり買った物は粗方食べてしまったのだろう。

 流しに置かれた浄水ボトルから水をマグカップに注ぐ。明かりも付けないまま注いだ事、ちょっとした眩暈から目測を誤り、気がついたらなみなみと注いでしまっていた。

 こぼさない様に一気に喉に流し込むと渇きと満腹感の裏に隠れていた不快感が水と一緒に流れていくのを感じた。


「……四時過ぎか」

 ここに来て時計を確認した。日曜日の午前四時十二分。確か眠ったのは昨晩の十二時前だから睡眠時間は多くても五時間程度。理想的な睡眠時間には少しだけ足りなかったななんて思うと、自分の体はベットの上に倒れ込み、まだ暖かい布団を被っていた。

 久しぶりの日曜日とはいうものの、特にやることなんてなく、あってもいつもやっている部屋の掃除や洗濯ぐらい。寝溜めというわけではないけれども、まだ眠いのと布団の温かさに縋りたくなるぐらいには四月前の早朝は寒かった。


「——喉が渇く」

 再び目を開ける。寝る前と比べて多少なり部屋は明るいけれども、先程と変わらない満腹感や気持ち悪さからおそらくそれ程時間は経ってはいないのだろう。

 ベットから降りて流しに置かれた浄水ボトルから水をマグカップに注ぐ。前回同様に明かりも付けずに注いだところ、前回同様に目測を誤りなみなみと注いでしまった。

 以前、人間の理想の水の摂取量は二リットルぐらいだと思い出す。確かマグカップいっぱいで四百ぐらい入ったはずだからこれで約八百。この短時間で半分近く飲んだななんて思った。


「五時半」

 再び時計を確認するとあれから一時間程経過していたらしい。累計睡眠時間は約六、七時間。理想的な睡眠時間は確保したとは思う。

 けれどもまだ眠い。いつもやっている掃除は隣人の事を考えて八時になってから始めている。つまりはまだ二、三時間はこれといってやる事もない。

 また布団に潜ろうか。そう思いながらも徐に冷蔵庫、冷凍庫を開けていく。

「ん?……あぁ、そういえば買ってたな」

 冷凍庫に三つのカップアイスを見つける。それは昨日、お酒を買うついでに買い物籠に投げ込んだアイスだった。夏にはまだ早いのに期間限定の文字に誘われて買ったのを覚えている。

 普段なら「また無駄遣いしたなぁ」なんて自己嫌悪しそうになるけれども、久しぶりに飲んだお酒の余韻と満腹感、酔いと渇きを覚えた状態で考えたのは嫌悪ではなく丁度良かったという肯定。アイスを一つとティースプーンを手に取り、少しだけ上機嫌になりながら部屋に戻った。


 部屋のブラインドを引き上げると外はどんよりと曇っており、耳を傾ければ雨が地面を叩く音が聞こえた。普段、朝食を食べる時は動画を見ながら食べる事が多かった為、癖でタブレットに手を伸ばしかけていた。

「……いや、別にいらないか」

 伸ばした手をアイスに向けて蓋を取る。動画を見るのも良かったけれども、休日の朝からテンションを無理矢理上げる必要がない為、目の前のアイスを楽しむ事にした。

 市販で売っているひとつ百円程度のカップアイス。いくつか種類はあれど、買う時は大体チョコレート味を買っていた。安牌という事もあり、食べ慣れた味のおかげで意識は次第に明るくなり始めた外に向いていた。

 普段なら雨など気が滅入る一端となるけれども今日は休日。別に外に出る事はほぼないし、ドラム式洗濯機のおかげで外に干す事もない。気圧による不調も今は然程感じてはいない。ならそれを気に病む理由は今は無い。


 シャクシャクとスプーンでアイスを掬いながら口に運ぶ。水を飲んだ時のスッキリ感とは違い、甘味を食べている幸福感。砂糖による依存性といえば元も子もないがそんな事を気にはしていない。

 アイスを頬張る度に口が、喉が、お腹がじっくりと冷やされていくのを覚える。時計に搭載された温度計を見れば室温はおよそ十一度。……暖房の効いていない部屋でアイスを食べるのは流石にまだ寒かったのかもしれない。

 とはいえ、食べてしまったものは仕方がない。そのままアイスを頬張る。みるみる内にアイスが無くなっていき、最後の一片までこぞっては最後の一口を口に運びきる。

「ご馳走様でした」

 アイスを食べ終わり再び流しに向かう。カップを捨て、スプーンを洗った後、目の前に置かれた浄水ボトルが視界に映る。

 浄水ボトルを手に取り、マグカップに水を注ぐ。先程同様に明かりは無いものの、部屋に差し込まれた明かりで手元は明るく、幾分か目も酔いも覚めている。

 ……それでもゆっくりと注がれた水はマグカップいっぱいに注がれ、なんなら少し溢していた。

 摂取量千二百。朝から健康意識高いなぁとケラケラ笑いながら布団に横たわる。布団はやはりまだ温かく、春前の少し冷えた空気とアイスと水で冷えた体には当然の様に心地良かった。

 時刻は六時過ぎ。意識が高い人なら勉強したりする時間かもしれない。

「……まぁ別に高くはないし、お酒飲んだし」

 意識高い系ではなく今日は自分に甘い日。まだ頑張る必要のない時間。やる時にやる。今日頑張らなくていい事は今日頑張らない。

 そんな甘ったるい考えを枕にして三度目の眠りにつこうとした。

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