桜の木の下を探して
——桜の木の下には死体が埋まっている。
そんな春になれば腐る程聞かされそうな台詞。意味合いとしては、桜があれほど美しく咲くのには何か理由があると不安になるという事からその木の下には死体が埋まっているのではないかという話。……これが昔の著者の作品の話というのは何人ぐらいが知っているのだろうか。ちなみに私は最近知った。
私が小さな頃は三月は春という様に暖かく、桜が咲き始める頃。あれから何年も経った今、三月になってもまだ肌寒く、桜が咲く気配が見えず、地球温暖化を憂いるものの春はまだ来ない。
そんな桜の咲かない終業式を終え、早く帰るのもなんだと、制服のまま近くの雑木林に入った。冬の雑木林は手入れがされている事はなく、私が歩く道は冬に備えた獣達が歩いただろう僅かな細い道。未だ半乾きなのか、歩く度に泥濘み、折角の式だからと綺麗に磨いたローファーを汚していく。
何をしているのか自分でも分からなくなる程歩いていると、獣道よりもほんの少しだけ広々とした空間に出る。
「……桜の木の下じゃなくても死体はある…か」
視線の先、雪が少し溶けて土が柔らかくなったところに中途半端な穴が開いていた。中を覗き込めば、冬服にしては薄着を羽織ったナニカが倒れこんでおり、飢えを凌ぐ為かお腹辺りが赤黒く染められていた。
これをただ野生動物に襲われて死んだ者の末路として片付けるには頭部の損傷が気になってしまう。そういえばちょっと前に誰かしらが行方不明になったとニュースになった記憶があるけれどハッキリとは思い出せない。
「まぁ、一応見ちゃったもんだし警察を呼ばないとな……」
溜息を吐きそうになりながらも警察に電話をし、肌寒い雑木林の中でぼんやりと警察が来るのを待った。
警察が来るまで私はぼんやりと死体を眺めていた。……私が死体を見て冷静なのはきっと以前に兄から家畜が生きている状態から加工肉になるまでの動画を見せられたからだろう。
あの生々さに比べれば、既に死んで固まっている死体のインパクトは薄く感じる。ましてやいつも食べている食肉に対して見ず知らずの死体に言う程感情は湧かない。
……桜の木の下には死体が埋まっている。
桜が死体から血を吸い上げているから綺麗な花を咲かせている。
なら、多くの血肉を得ている人間はどうしてこう綺麗になれないのか?
形としては同じなのに、どうしてこう人を殺す事をしたり、人の死をなんとも思わなくなってしまうのだろうか。
かつてエリザベート・バートリは拷問の際に流れ出た血を浴びて美しさを保っていたなんて話がある。不死の生物である吸血鬼も人間を襲って生きている。
……なら、家畜よりも人間の方が良いものなのではないか?
勿論そんな事はない……と思う。桜の木の下の死体は創作物で、吸血鬼なんて伝承。科学的根拠として証明されてはいない(少なくとも聞いた事はなかった)。
そんな話が罷り通るのなら、殺人鬼は皆んな美男美女に違いないからだ。
「あ、こっちです」
それから十数分後、私は警察の人と合流して警察署まで連れて行かれてあれこれ答えた。一時はあまりにも落ち着いていたので犯人かと疑われたものの、時期や関係性の結果否定されて一旦帰ることになった。
「……何故、学校が終わった後、家に帰らずにあの雑木林に入ったんだい?」
「……桜が咲く前に本当に死体があるかどうか確認したかっただけです」
まぁ、今思えばあそこに桜なんて生えていませんでしたけどね。
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