使い古された言葉

 ベランダで二人、月を眺めていた。

 うっすらとまばらに雲が流れているが月がやけに明るく、雲にかかったとしてもその輪郭りんかくを見間違う事はなかった。

「……月が綺麗ですね」

 君が突然、私に向かってそう言った。君と目が合えば少し照れ臭そうに笑っていた。

 正直、私は原作を読んだことはないけど、それが『愛してる』を直接言わない遠回しの愛の告白の言葉だとは知っている。

 昔はそう言った言葉に風情があったらしいがはあまりそうは思わなかった。

 それは誰彼だれかれが使うもう使い古された言葉。それも私みたいに原作を読まなくても、元ネタをある程度知らなければ相手に届かない。——そんな言葉に今更ときめかない。

「私『は』愛しているよ」

 私も原作を知らないにわかだからその言葉使い古された言葉の返しはこうとしか言うしかない。

 使い古された言葉とはいったけど、私の方がもっと使い古されている。

 ——けれどその分、味があるのは君のその顔をみれば分かった。

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