xバイト

 例えば子供の掌に乗る五センチにも満たない数グラムのUSBメモリには三十二ギガバイトのデータが入れられる。


 例えば大人の爪程の大きさの数グラムもないメモリーカードには二百十六ギガバイトのデータが入れられる。


 例えば葉書程の大きさで十数グラムあるフロッピーディスクには二メガバイドのデータも入らない。



 ———時代は進歩しているといえば聞こえがいい。



 それはそうだ。お父さん世代では携帯なんて電話ができるだけに対して、メールができる様になってる、写真やゲーム、インターネットなんかが出来るようになるのに対して、携帯も小さくなったり便利になったりする。


 この前買ったテレビは超薄型なのに画面がお婆ちゃんの家のブラウン管より画質が綺麗だった。

 そのテレビからは広辞苑こうじえんは言葉が増えるのに対して今の厚さを維持してるとか言ってたのをその時飲んでたリンゴジュースの味と一緒に覚えている。

 そういえばこの前見たクイズ番組に出たクイズキングは、リアクションとセットで印象付けて覚えるとか言ってたからそうなのだろう。


 だからきっと僕は忘れないのだろう。

 あの日の失恋を。

 あの日の別離を。

 あの日の幸福を。

 あの日の後悔を。

 あの日の喪失を。

 ……失ったのに忘れないとか変な話だ。


 外は快晴できっとピクニック日和。きっと近くの公園ではそれなりの人が集まったり、空の写真を撮って『めっちゃ晴れた!』なんてSNSで写真を上げたりするのだろう。

 なんとなく椅子を蹴ってみた。その結果、小指を強打したのか涙が出てきた。だからこそ僕は椅子を蹴ろうとする度に小指の痛さを思い出すのだと思う。


 ——この容量不明の21グラムのおせいで。

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