一人で
猫は自分の死に姿を見せないらしい。
それは病院に行きたくないから不調を隠すとか事故にあったのか生殖本能ゆえか。どちらにせよ飼い主の前から姿を消して、そのまま帰って来なかったのには変わりない。
「……死ぬ時は私も誘ってよ」
家で猫を飼っている。買ったとか拾ったとかではなく貰った。去勢はされており、手間が省けたとか思う所は色々あるけれどその分優しくしてやろうと思った。
「シャチョー、ご飯だよー」
名前はシャチョー。社長とも書く。別に職場の上司に似ていたとかそういうわけではない。社長という役職が大事なのだ。
本来会社は社長がいてこその会社だ。社長が経営方針を決め、それに賛同した社員が会社と自分達の生活の為に働く。専務や部長とかは会社が大きくなり、社長一人では管理出来なくなったから生み出された役職に過ぎない。
世の中にはブラック企業という法律違反の職場が存在するわけだけれども、ブラックであろうがホワイトであろうが、会社に対して意見ではない文句や罵倒はお門違い。自分が働く環境に対して悪く言うのは社長の足を引っ張る。ましてや自分の首を締めるのと同義。文句や不満等があるのなら合わなかったとやめるしかないのだ。
「シャチョー。最近ご飯食べなくてなったよね…」
社長がいなければ社員は生きてはいけない。
猫に依存しているのもどうかと思うけれど、今生きていられるのはシャチョーの世話をしないといけないからだ。
両親との連絡なんてここ数年数える程しかしていない。友人達は結婚やら趣味や旅行やらで毎日が楽しそう。仕事は可もなく不可も無いのに自分が生きているという感覚が湧いてこない。
新しい娯楽も、細やかな贅沢も人間にはしてくれない。
こうして猫と戯れる時間だけは自分は飼い主として感じられ、客観的に見れば猫に生かされているとも感じる。
「シャチョー…私が生きていけるのはシャチョーがいるからだよ……私より先に死なないでね。……死んだら私、生きていけないから」
呼びかけに対しても無反応のシャチョー。まぁ、猫だし人の言葉も理解できてないだろう。
それでも、
「シャチョーの為に生きたいし、いなくなるのなら私も連れて行って欲しい……」
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