ケーキの価値
私が子供の頃はケーキは特別な食べ物だった。
一年の内に食べれる日は家族の誕生日とクリスマスの数回のみ。時代のせいといえばそこまでだけれども、当時はコンビニのケーキなんてのも少なく、買うとしても専らケーキ屋で買うしかない。
専門店というだけあり、一つ一つの値段は高く、買ってもらう立場からしてはおいそれとねだれるような物ではなかった。
時は少し進み、少し大きくなった私の誕生日にまたケーキが並べられた。しかし、今までとは違い、そのケーキはホールケーキではなく既に切り分けられた物だった。
『ほら、綺麗に着るのも難しいし、何より洗い物が増えるから。…それに、沢山種類がある方が選べていいでしょ?」
確かに母の言う通りだ。買ってくれるのはいつだって母だった。それなら母の為にもその思いも納得できる。それに、今更ホールケーキじゃないとごねる歳でもなく、その日の気分で好きなのを選べるのならそっちの方が良かった。
また時は進み、私は家を出た。
別に家族と喧嘩したわけでもなく『就職先が家から遠いから一人暮らしをするね』と残していた。
前々から一人暮らしは考えていたし、実家との距離を考えても数時間で帰れる距離だ。寂しくはない。しかし、今までとは違う誕生日を迎えると思うところはあった。
「……そっか、一人なんだ」
突然湧いた寂しさに足を止める。誰にも誕生日だと伝えていない今、祝ってくれるのは他の誰でもない自分だけになってしまった。
気持ちを切り替える様にコンビニでケーキを買った。それは今まで特別な日に食べたケーキの中でも一段と小さい物だった。
「お誕生日おめでとう私」
数口で食べ終わってしまったケーキだけれども、今日は特別な日だと噛み締める様に寂しさと共に飲み込んだ。
時は進み、何でもない様ない日。
私は仕事帰りに決まってコンビニに立ち寄ってから帰った。
買う物は今日の夕飯と一本の酒缶、そして自分へのご褒美としてのケーキ。
私にとっては毎日が特別な日。
……そうじゃなきゃやってられない。
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