第3話 転機

出勤2日目。電車に揺られ窓を見ると怪しげな雲が向こうの方で広がっている。

そういえば天気予報で今日は雨だって言ってたかな。

最寄りの駅に着くと、徒歩1分程度で職場につく。これも「都内屈指のお金持ちが愛用する」理由なのだろうか。


「おはようございます!」

2日目で暗い印象をつけたくないので昨日同様声を張って挨拶をした。

「おはよう、って朝から大声出さないで。こっちはまだ眠いの!」

「失礼しました!」

遠藤先生が相変わらず無愛想な顔で私を睨んできた。まぁ無理もない。私は朝番だから朝は6時出勤なのだ。

「元気があっていいじゃないの。新人ちゃん、よろしく頼むわね。」

「はい!」

園長先生は優しい声で私を慰めてくれる。

園長先生がいなかったら私は遠藤先生の仕打ちに耐えられないだろう。


園児たちが来る準備をしていると、あっという間に時計は7時を指しており、園児受け入れの時間になってしまった。

「先生、おはようございます!」

「りくとくんおはよう!」

横目に見た園児たちに挨拶を返す遠藤先生は人が変わったように顔が違う。可愛らしい笑顔を園児たちに向け、目つきも優しい。

無愛想な顔しか見てなかったからか、30代後半に見えていたが、実は20代くらいかもと思えてきた。

「何ぼーっとしてんの!入口詰まってるよ!」

「す、すみません!」

遠藤先生とは反対の方向を見ると、靴が脱げない子を筆頭に列ができていた。

「え、誰もいないの!?」

私の心の叫びは誰にも聞こえるわけなく急いで入口に向かった。

一日が始まると、外遊び、中遊び、給食、昼寝と流れるように時が過ぎ、あっという間に午後に突入した。

子供たちが昼寝している間が自分たちの僅かな時間。子供たちの連絡帳に返信をしながら色々な考えが頭の中をぐるぐると回った。

(この保育園、いわゆるブラックなのかな?)

(選んだ根拠は高給料と、環境と通いやすさ、、求めてるものをクリアしてたから応募したけど、、ダメだったかな、、?)

「新人!手止まってる!」

「はい!」

口うるさい先輩もいるし、、思ってたのとだいぶ違う、、。


私はふと一息つきたくてトイレへ行った。

ドアの鍵を閉めると、思わず大きなため息が漏れてしまった。

「イメージと違う!!!!」

私はストレス発散でトイレに思いっきり叫んだ。

職員数も少ないし、、今のところ遠藤先生以外見たことない、、やっぱり変だよこの保育園、、。

色々なことを思っていると目に涙が自然と溢れてきた。

涙が零れた瞬間、信じられないことが起きた。


バシャン!!



バケツ一杯分の水がまるまる私にかかったのだ。

あまりに突然の事だったので理解が追いつかなかったが、すぐに我に返りドアを開け、周りを見た。

「ハハハハハッ!」

低めのドスの効いた声で豪快に笑う声が聞こえた。

私の少し先に立っていたのは遠藤先生だった。

「な、、なんでこんなこと、、するんですか、、?」

あまりのショックに涙ぐみながら消え入りそうな声で恐る恐る私は遠藤先生聞いた。

「突然教室でていくから、トイレで寝てるのかと思って!ハハハハッ!」

遠藤先生から笑顔は消えず悪魔の微笑みを私に向けてくる。

「新人、そろそろお昼寝の時間終わるけど、、着替えあるの?」

「い、いいえ、、」

「やだぁ!汚い!!そんな格好で子供たちに触らないでよね!」

遠藤先生のせいなのにまるで他人事のように白い目を向けてくる。

「それじゃ、わたしはみんなの所へ行くから。新人も早く来るのよ。」

冷たい目線を向けながら言葉を吐き捨てて足早に去っていった。

私は一連の出来事に人生で1番の衝撃を受け、その場に崩れ落ち、声を出さずに静かに泣いた。

トイレの窓からうっすら雨が降り始めたのが見えた。

私は、雨粒にすらばかにされているような気がした。

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