飼育。

千島令法

A「私たちってここで何しているんですか?」

B「僕たちは、ご主人様のペットだよ。何もしなくていいんだ」

A「そうなんですね。でも、それが幸せなんですか?」

B「そうとも! 毎日ご飯を食べて、寝て、ご主人様に可愛がってもらえて、檻に囲まれてるから襲われる心配もない。これ以上の幸せがある?」

A「いや……無いとは思います」

B「でしょ! 僕はとっても幸せ者なんだ」

A「幸せなら構わないけど……」

B「うん、君はもっとご飯食べて太った方がいいよ!」

A「そうですか? あなたは少し痩せた方がいいと思いますけど……」

B「ええ!? ダイエットなんてしたくないよ。それにご主人様はこんな僕を特別に愛でてくれるんだから」

A「そうなんですか……」

B「えへへ、羨ましいでしょ?」

A「まあ、そうですね」

B「君ももっと食べて太った方が、ご主人様に気に入られると思うよ」

A「ああ、私はどうも太りにくいみたいで……」

B「それは残念だ。ツイてないね」

A「全くもってですね。あなたの笑った時に、揺れる全身が羨ましいです」

B「いいでしょ? 僕、可愛いってよく言われるからね。この脂肪がチャームポイントなんだ」

A「少し私にも分けてもらえませんか?」

B「ええ……嫌だよ」

A「そうですよね……」

B「毎日ご飯は六回出るから、すぐにお腹が出てくるさ! きっと!」

A「六回もあるんですか? 私そんなに食べられる気がしないのですけど」

B「その内慣れるって。それにここのご飯は美味しいんだ。毎日同じ味だけど、それも気にならないぐらい病みつきになるから」

A「ちょっと嫌ですね」

B「まぁ一回食べてみたら分かるさ。そろそろご飯の時間だからね」



――



A「美味かったでしょ?」

B「美味しかったです。お腹はパンパンなのに、まだまだ食べられると思えるほど」

A「僕のお腹も張りに張っているけど、もう一食分のはぺろりと食べられる自信があるね」

B「ふぅ。それにしても、あの美味しかったご飯は何だったのですか? お肉のようでも野菜のようでもなかったですが」

A「んー、なんだろうね。僕も何の食べ物なのか知らない。けど、美味しいなら何でもいいかな」

B「そうですか。変なものじゃなければいいのですが」

A「もう何年も同じご飯だから身体に毒ではないはずだよ。話しているとお腹減ってきちゃうから……寝るね」

B「私も寝ることにします。お腹いっぱいで寝るのって、幸せという感じますからね」

A「うん、それじゃ」

B「はい、またご飯の時間に」



――



A「やっぱりご飯美味しいね」

B「そうですね。私の胃袋も大きくなったみたいで、あなたに負けないほど食べられるようになりました」

A「まだまだ。僕には敵わないさ」

B「ふふ。私もあなたほど、ご飯食べられるようになりそうです。それに、痩せていた身体も随分と、脂肪を蓄えてきましたし」

A「そうだね、君も太ってきたね。やっぱり僕には敵わないけど」

B「ええ、そうですね。まだまだ私も太らないと」

A「じゃ寝るよ」

B「はい、またご飯の時間に」



――



A「ここのご飯はいつも最高だ」

B「ですね。最近、ご主人様も私を可愛がってくださるようになりましたし、幸せです」

A「でしょ!? ここにいると皆幸せになれるんだ」

B「しかし、ちょっと動きづらいのが、たまに傷ですがね」

A「まぁ、ちょっとね。ここも僕と君しかいないけど、ちょっと狭くなってきたよね」

B「そうですね。ちょっと動くだけで、身体当たっちゃうようになりましたからね」

A「うん、ふぁ~。ちょっと寝るね」

B「はい、私も眠くなってきたので一眠りしましょう」



――



A「僕のご飯取ったでしょ?」

B「いいえ、取ってませんよ」

A「嘘だ! 僕のご飯がいつもより少なかった!」

B「そんなことするわけないじゃないですか!」

A「いいや! 食べた! 返せ!」

B「盗ってないんですから、返せません!」

A「嘘つき! もういい! 寝る!」

B「まったく」



――



B「おはようございます。あれ? いない? ああ、そうか。次に食べられるのは私の番ですか」


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

飼育。 千島令法 @RyobuChijima

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ