第64話 ロンリーウルフ


ある朝。

目覚ましが鳴り目が覚める。

ん?おかしい。

いつもは由香が起こしにくるので目覚ましはセットしていない。

昨晩も目覚ましはセットせずに寝た。

なのに目覚ましが鳴った。

ひょっとして夜中に寝ぼけて自分でセットしたのだろうか。

寝起きの頭でそんな事を考えながら朝食を食べた。

母さんに由香がきていないか聞いたらもう家を出てると言われた。

何か用事があるのか?

ひょっとしたら由香が目覚ましをセットしたのかもしれない。

まぁ、遅刻しなかったのだから良しとしよう。




いつもの時間に登校した。

教室に入ると由香がいた。

真紀や遥、大津さんや松木さんなんかも登校している。

皆いつもより早く登校してるのかな?

集まって何かを見ているようだ。



僕に気づいた遥がぴょんぴょんしながらきた。


「おはよー。ねぇねぇこれ見て」


手に持っている雑誌を僕に開いてみせる。

そこには、由香・真紀・遥・大津さんの4人が制服姿で手を広げたポーズで写真に写っていた。

1枚ではなく何カットか掲載されている。


「何これ」

「これはね、学校帰りにショッピングセンター行ったら写真撮られたんだよ。雑誌に載るって言われてたのね。そんで雑誌が今日発売だからコンビニで買ってきた」


なになに。学校帰りのかわいい女子高生特集!?

雑誌には沢山の女子高生グループが掲載されている。

どのグループも1カットなのに由香たちは3カットも載っている。

しかもサイズがでかい。


「すごい目立ってるじゃないか。4人とも可愛く写ってるね。こんなの何時撮影したの?」

「へへー、可愛いでしょ。2学期始まってすぐだよ。本当に掲載されるかわからなかったから内緒にしてたんだー。びっくりした?」


そりゃビックリするよ。

しかも特集の中で他のグループと扱いが全然違う。

特集のセンターに掲載され、写真の大きさも他の倍以上の大きさだ。

何、この優遇ぶり。

可愛いから?グループ全員が可愛いからなの?

たしかに一人一人が可愛いからね。

なんだよ、僕も一緒に写って雑誌に載りたかったよ。



その日は休み時間になると他のクラスから見物人!?が集まり大変だった。

僕も雑誌の事知っていたか聞かれたので、僕が推薦したと嘘をついておいた。

特に深い意味はない。


遠巻きに見てるだけならいいけど、一緒に遊びに行こうとかお茶しに行こうとかナンパっぽいのも沢山いる。

由香たちはスルーしてるけど、大津さんは対応に困っているようだ。

知らない人からの声掛けにも丁寧に対応してるもん。あれじゃ疲れちゃうよ。

僕は巻き込まれるのが面倒なので、由香たちに近づかないようにしてる。

放課後も野郎どもが集まってくると思われる。

その前に僕は退散した。



家に帰りながら考える。

皆が雑誌に取り上げられて、彼女たちの可愛らしさが広まるのはいいことだ。

僕の事ではないけど嬉しく思う。

ただ、なんかムカつく気持ちもある。

そう、嫉妬心だ。

彼女たちは僕の物ではないけどなんかムカつく。

本人たちじゃなくて僕がムカツク。

楽しそうにしている彼女たちに対してもムカつく。

家に帰って不貞寝しよう。

僕は家に帰りそのままベッドにもぐりこんだ。




19時過ぎ。

母さんに夕飯だと起こされた。

由香は友達と晩御飯を食べるらしい。

そういえば昼休みに雑誌掲載おめでとうパーティーしようとか言ってる男がいたな。

そいつらと飯でも行ってるのか。

ふん、僕はしらない。

夕飯を食べて部屋に戻るとスマホが鳴っていた。

遥からの着信だった。

しばらくコールしてたけど切れた。

着信をみると由香や真紀、明子さんからも着信があった。

ライングループでは、一緒にご飯食べに行こうとか何処にいる?とか入っていた。

とりあえず無視しておこう。

みんな楽しんでくれ。

僕は一人を楽しむんだ。

なんか変なスイッチが入ってる僕。

孤独な雰囲気を楽しもうとしているのかもしれない。

そうだ、海に行こう!




晩御飯を食べた後に出かけることにした。

僕は自転車に乗って海を目指す。

夜の海を眺めて孤独を味わうのだ。

自転車で20分。

僕は海岸沿いにある公園にたどり着いた。

とりあえず自販機でコーヒーを購入する。

公園の奥にある草むらに腰かけて海を眺めよう。

草むらに殺虫スプレーを撒き、安全地帯を確保する。

座る場所の両脇には蚊取り線香をセットする。

そしてコーヒーを飲みながら海を眺める。

夜なので海は真っ暗だ。

何も見えない。

心地よい波の音だけが暗闇の中から聞こえる。



孤独だ。

僕は孤独だ。


孤独な自分の数分間酔いしれる。

しかしそれは長続きしない。

なぜならば怖いから。

暗闇の中の海は怖い。

海の底から何か這い出てきそうな雰囲気である。

場所を変えるか。

もうちょっと明るい所に行こう。

こんな暗闇は霊的な何かか、盛ったカップルに任せよう。


次に向かったのは港。

ここならば釣り客や、港湾関係者がいるので怖くないだろう。

時間を確認しようとしたが、スマホを家に忘れてきたようだ。

しかしまだ日付は変わっていないだろう。

道端に落ちていた段ボールを尻に敷いて海を眺める。

うん、ロンリーウルフな僕かっこいい。

一人ぼっちで海に来ている僕は大人の男性ぽくないか?

海風を体に感じながらボケーっとするものいいね。

少し怖いけど。夜の海は気味悪いし。

でも心地よい波の音や、涼し気な海風は気持ちいい。

僕は段ボールに横になり眠ってしまった。



そう、朝まで。




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