第62話 つるっとしてもちもち
公園の入り口まで走って戻った。
猛ダッシュで逃げた男子は道端に座り込んでいる。
そんな男子を見て女子は激おこプンプンだ。
「何で私たちを置いていくの!」
「あぁ、悪い。だってヤバかっただろ?」
ヤバイ所に置いていくのはもっとまずくないかい?
「男のくせに女の子置いて逃げるなんて最低!」
「みんな酷いよね」
「前川くんだけだよ、私たちを守ってくれたのは」
別にそんなつもりはなかった。
虫が怖かったからだ。だから君たちに先頭を任せたのだ。
「でも本当にバケモンがでるなんて考えてなかったんだよ」
「そんな言い訳聞きたくない!」
「あんなの怖いにきまってるじゃないか。しょうがないだろ」
「あんたたちは一生童貞だよ。女も守れない男について行く人なんていない」
口喧嘩が始まった。
まずみんな冷静になろうぜ。
君たちは仲の良いグループじゃなかったのか。
あと、守った事になっている僕は童貞だ。
先に逃げてしまった男子たちは言い訳で必死だ。
そんなやり取りの横で安藤さんが叫んだ。
「どうしよー、スマホ落とした」
え!?
「どこに落としたの?」「走ってる時?」「最後に使ったのはどこ?」
もう暗いから探すの大変だぞ。
「多分、最後に座ってたベンチかも。時間見て椅子に置いたから」
あー、そうだね。置いてるの横で見たかも。
「どうしよう。取りに行けないよ」
「明日取りに行く?」
「拾われちゃうかもよ」
安藤さん涙目。だがそれも可愛い。
よし、
「僕が探してくるよ。みんなここで待ってて」
僕の探しに行く発言にみんなビックリ。
でも僕はさっきの生首を人形だと確信しているのでそこまで怖くない。
「安藤さんが困っているんだからね。僕が何とかするさ」
「だも真尋くんだけに怖い思いさせれないよ」
「大丈夫だよ。僕が怖いのはお化けじゃなくて虫だけだから」
おおぅ、みんなの前川凄いって視線が気持ちいい。
もっと崇めてもいいんだよ!
「私も行く。私の携帯だし、真尋くんだけに怖い思いはさせれない」
「私も行くよ。怖くたって真尋くんは守ってくれるんでしょ」
「うん、そうだね。ちゃんと守るよ」
安藤さんが答え、松木さんが続く。
結局、他の女子も一緒に探すと言い出し、男連中もついてくる事になった。
皆で先ほどの道を戻る。
一応、途中にスマホが落ちていないか確認しながら歩いた。
先ほどの場所にたどり着いた。
みんなをその場に留めて僕一人で進む。
安藤さんのスマホにコールしてもらったら、先ほどのベンチからスマホの着信音が聞こえる。
やっぱりベンチか。
はい、スマホ回収っと。
ここですぐに引き返さない。生首の確認だ。
僕はゆっくりと滑り台をライトで照らした。
生首が暗闇に浮かび上がる。
生気のない目、血だらけの口や首、ざんばらの髪。
うん、さっきと何も変わってない。そして動いていない。
ちょっとでも動いたり音がしたりと、異常が感じられたら走って逃げるだろう。
でも全く動かない。
「やっぱ人形か」
ぼくは生首に近づいた。
滑り台に鎮座されている生首は人形であった。
つまり、誰かの悪戯。まんまと引っかかった。
僕はみんなを呼んだ。
「おーい、生首は偽物だよ。お化けじゃない」
みんなが恐る恐る近づいて生首をみる。
美容院によく置いてある生首だ。口や首の所が赤くマジックで塗られている。
「誰かの悪戯みたいだね。まったく、寿命が3年位縮まったよ」
”ひどい、心臓が止まるかと思ったのに”と女性陣は文句を言ってる。
男性陣は”怖くなかった”とか、”実は余裕あったんだよね”と言い出している。
今更遅いぞ。
女性陣からの評価は残念ながらダダ下がりだよ。
「はい、安藤さん。見つかってよかったね」
スマホを安藤さんに返した。
安藤さんは目に涙を浮かべて感謝している。
怖い思いしたからね。
「ありがとう。真尋くんがいなかったらどうなってたかと思うと……」
「ほら、涙を拭いて。僕がいてスマホも見つかった。ならばそれでOKだよ」
「ありがとう」
なんか安藤さんがもの凄く感動してるんだけど。
逆にこっちが悪い気がしてきちゃう。
「真尋くん、もの凄く男らしかった。逃げるときもみんなの後ろで守ってくれた。スマホを探すのだって率先して声をあげた。なんかすごくイケメンだったよ」
いや、いつもイケメンだけど。
「前川ハーレムってこうやって出来ていくんだ」
「俺たちも負けちゃいられないな」
「無理無理。あんた達、真っ先に逃げたでしょう」
「そうだよ。前川くんがいなかったらどうなってたことやら」
みんなが僕をよいしょする。
ハハハハハ。
その後ゆっくり公園の入り口に戻る。
先ほどと同じように松木さんと安藤さんと手をつないで。
両手に巨乳。
最高だな。
心なしかさっきより強い力で手を握られている気がする。
公園入口に戻ると、ちょうど帰りのバスが着いていた。僕たちは慌てて乗り込む。
席に座って今日の出来事を振り返る。
中々濃い一日だった。
2人掛けの隣の席では安藤さんが眠っている。
というかみんな寝てるな。
バタバタしたからね。疲れちゃったんだね。
安藤さんの膝の上では僕の手がしっかりと握られている。
さっきから気になってるんだけど、手をつないでる僕の手の甲が安藤さんの太ももの上に置かれていることだ。
手の甲をすりすりして太ももの感触を堪能しているわけ。
すごく生きがいいんだよ。こう、なんていうか水をはじきそうな感じ。
つるっとしてるけど、もちっとしていて最高。
帰りのバスの中で僕はずっとにやけていた。
寝ている安藤さんが悪いのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます