第61話 生首
ひとしきり騒いで次のスポットに移動する。
公園内には野鳥観察できる場所がある。
池の傍に木でできた小さな小屋があり、そこでバードウォッチングが出来るようになっている。
この場所の噂。
小屋の中で野鳥をみている池に入水する男性の霊がたびたび目撃されると。
過去に入水自殺を行った男性の霊が、何度も繰り返し入水しているらしい。
「今の時期は暑いから池でだれか泳いでいるんだよ」
誰かがそんな事を言ってる。
汚い池で泳ぐ人なんていないだろ。しかも浅そうだし。
しかし次の瞬間に騒いでいる皆が静かになる。
「聞こえた?」
「なんか歩いてる音?」
「枯葉の上を誰かが歩いていた」
数人が小屋を出てあたりを調べだした。
僕は何も聞いてないし、見てもいないのでみんなの行動をみてるだけ。
「真尋くんは何か聞こえた?」
「いや、何も聞いてないよ」
安藤さんに聞かれた。
「私はガサガサした音を聞いたよ。枯葉を踏むような音」
小屋の周りには誰もいなかったらしい。
僕たち以外に人影がない状況での異音。
これはミステリー!
「やばい、遊び半分で来たから呪われるかも」
「そういえばさっきから視線を感じる」
「どうしよう。お祓いとか言ったほうがいいのか?」
安心してください。
きっとみんなの気のせいです。
それよりそこの蜘蛛の巣にデカいのがいるんですが。
そっちのほうが怖いよ!
少し怖がっている安藤にはネズミか何かいたんじゃないか?と言っておく。
昼でも夜でも山の中でカサカサ音が聞こえるのはよくあるよね。
「真尋くんは意外と頼りになるね」
「意外って心外だな。僕は頼りになる男だぞ。ただし、虫はダメだ!」
「ふふ、そうだね」
「手をつなごうか」
安藤さんの手をとる。
「これで怖くない」
たぶん彼女はそんなに怖がっていないだろう。
勢いで手をつないだだけだ。柔らかい。手をつなぐだけで気持ちい。
「あ、ズルい。私も怖い」
「え、怖いの?」
全然怖がっていない松木さんの手をとる。
両手に花の状態。
両手に巨乳。
他のメンバーは音に敏感になっているのか、僕たちが3人で手をつないでいるのに気が付いていない。
「2人とも手が暖かくて安心するよ。柔らかい手にちょっとドキドキする」
「私たちだってドキドキしちゃうよ」
「そうだよ。普段、男の子と手をつなぐことなんてないから」
んー、今すぐにでもキスしたい気分になる。
「でもこうして手をつないでいれば安心でしょ。3人で安心しあえるからOKだね」
何がOKなのか僕もよくわからない。
でも気持ちいいので良しとしよう。
大分日が落ちてきた。
木々の隙間から茜色の空が見える。
盛りの中は薄暗くてちょっと危ない。
みんな持参していた懐中電灯をつけ始めた。
僕は両手に巨乳なので懐中電灯をつけられない。
というか持ってきていない。
「かおりさんと陽子さんは懐中電灯を使ってね。ぼくは持ってきてないから2人の手を握っているから」
3人並んで森の中を歩く。
もう明かりがないと歩けない位に暗くなっている。
あ、両手がふさがっていると虫に対処できない。
「虫がきたらどうしよう。でも2人とつないだ手を放したくない」
「大丈夫だよ。虫は明かりに寄ってくるから真尋くんの所にはいかないよ」
「飛んで来たら叩いてあげるから」
虫対策は2人に丸投げした。
そして僕たちは最後のスポットに向かう。
最後のスポットは遊具が色々と設置されてる広場。
そのスポットは常に霊のたまり場となっていているらしい。
明るいうちは家族連れなど人が沢山いるが、暗くなると人の替わりに霊が沢山集まってくるとの事。
「噂では子供がはしゃぐ声が聞こえたり、誰も乗っていないブランコが揺れだしたりするらしい。この公園でも最も目撃情報がある場所らしいよ」
……らしいって、実際に見た人は本当にいるのかなぁ。
付近には人影はない。まぁ、もう暗いしね。
数々の遊具が広いスペースに設置されている。
皆はスマホで写メを撮りだす。
僕たち3人は遊具脇のベンチに腰を掛けた。
「ほら、くっついていれば怖くないよ」
広いベンチの真ん中に3人でくっついて座る。
腰を引き寄せて密着状態に。
女の子のいい匂いがする。
んー、僕の息子が元気になってきたぜ!
「心霊スポットって言っても幽霊は見れなかったね」
かおりさん、見れたらヤバいよ。
「でもたまには楽しいからいいんじゃない?」
陽子さんも楽しめたのならいいんじゃないかな。
「僕はこうやって2人を抱いている事が一番の思い出になったかな」
2人を抱く手に力が入る。少しでも密着していたいから。
もう僕は、桃色ハートがドクンドクンでブシャーである。
よくわからない表現だけど。
ああああああ、来てよかったぁ。
他のメンバーは敷地内を写メしまくっている。
写ってたら怖いよね。
キャーーーーッ!
女の子の叫び声。
メンバー女子が滑り台を指さしている。
僕たちも指をさしている方に視線を向けた。
「うわっ」「マジか」「ギャー」「何だあれ!」
一斉に悲鳴が響き渡る。
女の子が指さした滑り台の上に女性の生首が置かれていた。
血だらけの顔が照らされた明かりに浮かぶ。
生気が感じられない目、長くてざんばらな髪、口元や首は真っ赤に染まっている。
「逃げろ!」
誰かが叫んだ言葉にみんなが一斉に走り出した。
僕たち3人もみんなに続く。
男子は悪態をつきながら一目散に逃げる。
女子は僕たちと固まって走った。
「殿は僕に任せろ。みんなは前からくる虫を叩き落としてくれ」
すごく怖い。めちゃくちゃ怖い。マジで怖い。
ライトで照らされた生首がはっきりと思い浮かぶ。
思い浮かぶ。
思い浮かぶ!?
ん!?
……あれ。
さっきの生首って幽霊じゃなくて人形じゃないか?
ほら。美容室によく置いてあるやつ。
カットとかパーマの練習に使うやつ。
いや、幽霊だったらマジで怖いけど。追ってくる気配ないし。
あれ絶対に美容室の人形だぞ。
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