第60話 心霊スポット
ある日の休み時間。
僕が自分の席でお菓子を食べていると松木さんが声をかけてきた。
「真尋くん、ちょっとお願いがあるんだけど」
「ん?何かな」
松木さんがお願いことなんて珍しい。
「週末土曜日の午後って空いてる?」
「うん、空いてる。特に用事はないね」
「よかった。あのね去年同じクラスだった人たちに心霊スポットに行こうって誘われてたの。うちのクラスで誘われてるのは私と安藤さん。それで一緒にどうかなと思って。由香ちゃんや遥ちゃんたちにも声をかけたんだけど無理みたいなんで」
そういえば、由香・真紀・遥・明子の四人で買い物行くって言ってたな。
僕は全然かまわないけど。どうしたもんか。
「行く場所は〇〇公園。真尋くんは知ってる?」
「知ってる。有名な心霊スポットだよね。ここから山の方へずっと行った所」
「うん。有名な場所だから沢山の人数で行くみたい」
そんなに怖いなら行かなければいいのに。
「僕は行ってもいいよ。でも僕が行っても大丈夫なのかな」
「それは大丈夫。10人以上で行くみたいだよ」
「すごい人数だね。まるで遠足だ」
○○公園は山間にある森林公園で県内でも有数の心霊スポットだ。
公園内のトイレで首つりがあったとか、公園内で殺人があったとか色々な噂話がある。
このあたりの若者は必ず行くんじゃないかな。
僕は行ったことないけど。怖いし。
「それじゃ、前川・安藤・松木で参加申請しておくね」
「え、申請しなきゃいけないの?」
「ううん、一応報告するだけ」
本格的な心霊スポットに行ったことないから楽しみだ。
少しばかり怖いけど。
いやかなり怖いかも。
ちびらないように。
週末土曜日14時。
駅前に高校生の一団が集まっている。
男10女6の合計16人。すげー人数。
僕は松木さんと安藤さんしか知らない。
集合時に挨拶だけしておいた。みんなも名前と簡単な自己紹介をしてくれたが、誰一人覚える事ができなかった。
まぁ、しょうがないよね。名前何てすぐに覚えられないよ。魅力的な女の子ならばすぐに覚えるけど。
それにしても大人数だな。
16人もいればどんな心霊スポットでも怖くないだろう。
さっそくその公園に向かうバスに乗り込んだ。
バスの乗客のほとんどは僕たちの集団だ。他の乗客は何事だとビックリしてるだろう。まさか心霊スポットに向かうとは思うまい。
バスに揺られて40分。ずいぶん遠くまで来たものだ。
〇〇公園停留所の前に16人の高校生が立ち並ぶ。
リーダーっぽい男子生徒に連れられて公園内に移動した。
現在の時刻は15時。まだ空は明るい。
肝試しではないので全員で移動する。
山間にある公園なので人は少ない。
公園を一周するようだ。ここの公園はでかいから大変そう。
「真尋くん、大丈夫?」
松木さんと安藤さんに心配される。
彼女たちは僕が怖がりで心配してるのではない。
では何を心配しているか?
「大丈夫。いつでもかかってこい!」
僕は手に持っている殺虫剤を持ち上げる。
この殺虫剤は強力だ。どんな虫でもぶっ殺してやる。
「もし、襲われたら私たちが退治するからね。あまり無理しないでね」
無理はしない。というか出来ない。襲われたら体が勝手に反撃しちゃう。
「虫がきたら任せる。霊がでたら僕に任せろ」
「お化け怖くないの?」
「めちゃくちゃ怖い」
「怖いのに任せていいの?」
「そんなの怖くても男の仕事だ。怖くて鼻水垂らしてもちゃんと守るから許してほしい。でも虫がきたらお願い」
「いいよ。幽霊から守ってくれるならいいよ」
「お願いだから虫からは僕を守ってくれ」
お化けはいるかいないかわからないけど、虫は確実にいるからね。
実体があって襲ってくるからね。
あいつらホントにヤバいからね。
僕は殺虫剤を構えながらみんなに続いた。
森林公園だけあって、公園内は木が多い。
つまり公園内は薄暗いのだ。
日が差してる内はまだいいが、夕方になれば一面真っ暗になるだろう。
「なんか雰囲気あるね」
「昼でこんなに雰囲気あるのに、夜中だったらどんだけ怖いんだろう」
松木さんと安藤さんは話す。
僕は2人について歩く。
常在戦場。
つまり僕には油断の欠片もないのだ。
公園奥の公衆トイレでみんながおもむろに写メを取り出す。
君たちはトイレマニアなのか?と思ったが、このトイレが有名な幽霊の出現ポイントらしい。
トイレに幽霊とかイヤだな。用を足してる時に覗かれちゃう。
痴漢・痴女の幽霊だ。
パシャパシャ
いや、だからってそんなに写メとらなくてもいいんじゃない?
変質者と間違われるよ。
思う存分に写メをとったみんなは、そのまま休憩に入る。
休憩も何も写メ撮ったくらいなんだが。
噂のトイレで用を足してみよう。
トイレ内は意外に綺麗であった。
虫も天井に張り付いているだけで襲ってはこなかった。
トイレから出ると一人の女子がみんなに何やら説明をしている。
その女子が個室で用をたしてると壁の向こうから声が聞こえたらしい。
メンバーの声ではなく、爺さんのような声だったと。
それって覗きじゃないのか?って思ったけど、トイレ周辺には人影がなかった。
心霊現象だと騒ぐメンバーが可愛く思えた。
お前ら爺さんの声なんて怖いか?
壁にいる10センチくらいの蛾のほうがはるかに怖いだろ。
「2人は何か聞いたりした?」
念のため確認をする。
「私たちは何も聞いてないよ。誰か悪戯したんじゃない?トイレの裏に回ってさ」
「この怖くて寂しい雰囲気にやられて幻聴を聞いたんじゃない?」
2人はまったく信じてないようだ。
まだ暗くなってないから怖さが足りないのだろう。
真っ暗でそんな声聞いたら、僕が叫ぶから安心してほしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます