第13話 渋谷
土曜の朝。
僕は家を出て駅に向かう。
朝食時に由香には友達と出かけると言っておいた。嘘ではない。
何も聞かれなかったので、まさか稲川さんと遊ぶとは思っていまい。
8時50分。
駅に着くと稲川さんがいた。
「おはよう、真尋くん」
「おはよう、稲川さん。早いね。待ったかな?」
「さっき着いたばかりだよ」
まるで恋人同士のような会話だな。
そういえばどこ行くか聞いてなかった。
「どこ行く予定なの?」
「渋谷。お洋服買うから付き合って」
「渋谷!?服!?」
「そう、暇なんでしょ。いきましょー」
腕を組まれて切符を売り場に連れて行かれた。
渋谷とか行ったことないし。
田舎者が行って平気な場所だろうか?
僕がファッションセンスないのがばれてしまうかもしれない。
電車では2人のボックスシートに座り稲川さんと話をした。
「稲川さんて呼び方禁止」
「禁止?じゃあ姉さん?」
「遙。遙って呼んで」
「OK、遙」
由香や雄介は名前呼びなのに自分は名字呼びはイヤだったらしい。
渋谷に着くまでは、どんなタイプの服が好きとか趣味の話や私生活の話で盛り上がった。好みの女性のタイプを聞かれたので、胸が小さい人と答えた。もちろん遥の胸元を見ながらだ。脇腹にパンチを貰った。
彼女の家族の話になった。彼女には中学生の妹がいるみたい。やはりおっぱいは小さいみたい。
彼女の中学は隣の学区だったそうだ。小林さんとは中学時代からの親友で、高校に入ってからは、由香がその仲間に加わったみたい。
「最初に真尋くんを見たときからピピッときた。この人とは仲良くなる予感がしてた。由香ちゃんもそう」
雄介とか淳一は?って聞いたら、
「あの2人は偶然。真尋くんと由香ちゃんと遊びに行ったら着いてきた」
おいおい、雄介と淳一の扱いどうなってる!?
そんなの聞いたら泣くぞきっと。
「まぁ、気にしないで。今は2人ともちゃんと友達と思ってるから。多分」
フォローになってねーよ。2人とも泣いていい。
僕も多分友達?って聞いてみた。
「真尋くんは親友枠。大事な人。だって買い物に行く仲だよ?知らない人と買い物行かないでしょ?」
買い物行く仲って、いきなり連れ出されたんですが。
まぁ、大事な友達と言ってくれるのはありがたいけどね。
「真紀も私とおんなじで遊びに誘ってくると思う。親友同士だし」
親友枠ですか。
親友なのに内緒にしててもいいの?
「だって内緒にしないと由香ちゃんや真紀が怖いし。内緒のスリルって燃えるでしょ?だから、な・い・しょ」
遙、可愛いじゃないか。
さりげなく手つないでくるし。恋人つなぎってやつ?
今時の友達ってこれ普通なの?
あ、由香もつないできたりするから普通か。
「僕は洋服のセンスとかわからないよ。でも試着とかで遙の可愛いところたくさん見たい。そう考えると今日は楽しみだな」
んー、と目をうるうるとさせ感極まったように頬にキスされた。
「真尋くん、そのセリフはダメだよ。女の子が色々勘違いするから」
そうなの?可愛い子大好きだから、単純に見たいだけなんだけどな。
「遙が勘違いしてくれるような男になれたらいいな。僕さあんまり男らしくないでしょ。昔からそうだったから。カッコイイって言われてみたい。いつも可愛いだから」
「可愛いってゆーのも魅力の一つだよ。カッコイイも可愛いも一緒。その人の魅力を生かせれば問題ないよ」
「そうかな」
そういうのが可愛いだよー、と顔をグリグリと頬ずりする遙。
ちょ、電車の中なんですが。恥ずかしいきゃないか。
興奮する遙をなだめたところで渋谷に着いた。
まずは有名店の渋谷108。
なんだこのビル名は。108って煩悩の数か?
買い物の煩悩は108なの?
上から下まですべての店をまわる遙。
勉強してるときと違って目が輝いている。
やっぱり女の子は服選びが好きなんだなぁ。
「さっきの服とこれだったらどっちが似合うかな?」
遙は試着もバリバリするから忙しい。
「こっちのほうが遙に合うね。キュートな感じがイイよ」
あんまりわかってないんだけど返事はしておく。遥に似合ってるかを見るって約束したからね。
そんなこんなでお昼過ぎ。
「お腹すいたねー。ご飯食べようよ。今日は服選びを手伝ってもらったから私が驕るね」
「え、いいよ。自分の分はちゃんと出すよ?」
「いいのいいの。私はたくさん買い物できて気分いいから。絶対に驕りたい気分だし」
奢る、奢らないと言い合うも譲らない遙。
今回はご馳走になることにした。
こういうのって普通は男が出す場合がほとんどだけどな。
ラッキーってことにしておこう。
僕と遙はイタリアンのお店に入った。
お洒落な店内でカップルのお客さんがほとんどだ。
テラス席があったので僕たちはそこに席をとった。
遙は濃厚トマトのラザニアを選び、僕はポルチーニ茸のパスタを選択。
しばらくして料理がきた。
「これは美味そうだ」
「熱そう。でもいい匂いがする」
「「いただきます」」
熱々の平麺パスタのもっちり感がヤバイ。ポルチーニ茸の香りと旨みも最高である。
遙のラザニアもトマトのいい香りがする。
遙はスプーンに一口分のラザニアをよそい、ふーふーと冷まして僕に差し出した。
俗に言う”あーん”である。
何も考えずにぱくっと口に入れる。
「あ、美味しいねこれ」
笑顔の遙にお返しをしよう。
パスタをフォークに巻いてあーん。
遙もぱくっと返してくれた。
「真尋くんのパスタも美味しいね」
「僕、渋谷とか初めてきたから緊張してたけど楽しかった。いろんなお店があるんだね。遙はいつも渋谷で買い物してるの?」
「真紀とよくきてた。よくって言っても3ヶ月に一度くらいだよ」
服の為に渋谷まで来るとはすごい熱意である。
僕の服なんて母さんか由香が勝手に買ってくるので、自分で買いに行ったことないし。
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