第119話 黒い彼女

 私達は暫く抱き合った後に、そっと離れた。互いに全部をさらけ出してしまって何と言うか、恥ずかしさや色々感じてなんも言えない。


 本当に全部を出してしまった。全裸をさらす以上の事をしてしまったと思う。


 互いにベッドに座りながら話を切り出せず、時間だけが過ぎていく。



「取りあえず、その……ここから出ないといけないのかなと思うのですが……」

「そ、そうですね」



彼が何とか切り出す。眼を合わせるのも困難でそっぽを向きながらの会話。そこで家のドアがノックされる音が響く。


私も彼もそれに気づいて、私がドアの方に向かって、開ける。



「あ!! 居たぁ!!」

「っ……先輩……」



火蓮先輩や萌黄先輩、アオイ先輩がそこには居たのだ。どんな顔を向けて良いのか分からなくて、目を逸らしてしまった。三人に何を言われるのか、怖くなってしまった。


「バカぁ! 心配したのよ!」



火蓮先輩が私を抱きしめた。アオイ先輩も萌黄先輩も目に涙を浮かべていた。



「急にいなくなるんじゃないわよ! もう、本当にばか!!」



二人も私を抱きしめてくれた。不思議と私も涙が溢れて、十六夜君も私達の抱き合う姿に泣いていた。



◆◆



 僕たちは彼女を見つけて現代の世界へと戻った。どうして、彼女を見つけられたのかと言うと噂を聞いたからだ。新人冒険者がいきなりSランク昇格、僕からしたら何が何だか分からなかったが凄い事らしい。


 そして、その新人の特徴が銀髪碧眼の美女で背中に男を背負っている。それはきっと彼女であろうという事でその場所に向かい、聞き込みをして彼女を見つけたんだ。見つけた僕たちは心配や色んな感情で泣いてしまった。


 コハクちゃんは泣きながら全部を話した。彼を取られたくない、自分が裏切られるかもしれない。色んな感情が暴走してしまった。自分が弱かったとボロボロに泣き崩れた。


 コハクちゃんも彼も自分勝手だったと謝った。コハクちゃんはこんな身勝手行動をしてすいませんと、彼はハーレムとか気軽にいってすいませんと、二人して、土下座をしながら何度も額を打ち付けた。

 

 火蓮ちゃんもアオイちゃんも激おこぷんぷん丸状態だった。まぁ、僕もちょっと怒った。どれだけ心配したのか、悩んでいるならどうして言わなかったのか、彼にも原因が無いとは言えないから少し、お灸を据えた。


 でも、彼女の変化に気づけなかった、何もしなかった僕達にも責任があると火蓮ちゃんは言った。信じられないならこれからもっと互いを知って行こうとアオイちゃんは言った。僕は慰めながらいつまでも一緒に居るつもりだと言った。


 

 すると、コハクちゃんはもう、赤ん坊のようにギャンギャン泣いてしまった。収集付くのかと思う位、泣いて、泣いて、泣いた。最後には仲直りと言うか、慰めて彼女を落ち着かせて……もう一度、帰ることにした。


 そんなこんなで眼が真っ赤に腫れた彼女と火蓮ちゃんを先頭に帰りの帰路を歩く。異世界の景色とか色々見ながら、普段味わえない雰囲気を感じながら。



「冒険者ライセンスって言うのがあるんでしょ? 見せてよ」

「あ、はい、どうぞ」

「ふぅーん、親の顔より見た異世界ライセンスって感じね……」


コハクちゃんと火蓮ちゃんがカードのような物を見ながら話している。コハクちゃんを真ん中にしてもう片方の隣にはアオイちゃんが居て彼女も興味深そうにカードを見ている。


僕は三人の後ろで彼と一緒に歩いている。今回の事できっと彼も色々考えているだろう。


今回は無事に着地出来た感じだけど、これで終わりなのだろうか。このまま皆、仲良く彼の彼女になって終わりなのだろうか。嵐の後の嵐が来るんじゃないか。僕にはそう感じてならなかった。




◆◆





 黒い暗い暗闇の中で私は誰かと向き合っていた。影のような物でよく見えないけどそこに誰かが、私と似ている誰かが居ることは分かった。


「なぜ、信じたのですかっ……? 彼は信じられるのはわかります。でも、それが皆を信じる理由にはならないのです」

「皆さんはあれほど信頼して心配もしてくれた。それが分かったから、信じられないにしても、信じようとすることが大事でそれが誠意だと思いました」

「なんっ、ですかッ……それは……」

「貴方もきっと、分かっているのではないですか?」



その影に話しかけると、苛立ちや不安を隠せない表情を向ける。そこで薄暗いが初めて彼女の顔が見えた。



黒と紫が混ざったような魅惑的な髪の毛。瞳の色はピンクと紫が入り混じった綺麗な瞳。だけど、彼女の風貌はだった。正確に言うと目元が若干垂れて、少し幼い、中学二年生位の私の姿。



「やっぱり……あなたは私だったんですね……」

「……」

「私は我儘です。だから、一方通行では満足できない。真の意味で彼と愛し合いたいから、それに皆も好きだから。私は……」

「イライラするのです……そんな綺麗そうな答えを出されて、皆がそれに満足したら、まるで、……この感情は、私は醜い、汚い、不必要で、不純なものになるじゃないですかッ……私はどうなるのですか……このまま何処かでヒッソリと見ていればいいのですか?」

「……それは」



そこで、ドンドン彼女との距離が離れて行った。まるで、私と彼女は同じであったのに離れた存在になったように、決別したように私達ドンドン離れて、そこで、もう、私は彼女を見ることは無かった。



◆◆



 僕たちは何時もの彼の家でいつもの寝間着、いつもの寝室で布団を敷いて、そこに四人で座っていた。コハクちゃんは改めて僕達への謝罪をした。



「ご心配をおかけして、本当に」

「もう、謝罪はいらないわ」



それを火蓮ちゃんが遮って止めた。


「いつまでもそんな辛気臭い顔されても困るのよ。主に、私の十六夜がコハクがしょぼくれてると連鎖的に元気なくすの。いい? もし、迷惑をかけたと今でも思っているとしても、コハクは謝って私達はそれを許したの。何度も謝り続けるのはそれは美徳でも何でもないと思うわ。だから、いつも通りして」

「……火蓮先輩」

「だから、しょぼくれないで! いつもみたいに胸ワザと揺らして、マウント取るのがコハクの持ち味でしょ!?」

「私にそんな持ち味はありません……」



未だに、彼女は引きずっている。そう簡単にいつも通りにはならないだろう。彼女も戻って良いのか、反省して暫くおとなしくしようとか考えていたのだろう。でも、火蓮ちゃんのおかげで少し、笑みが戻った気がする。


少しずつ、いつもの雰囲気に戻り始めて、他愛もない話をしながら眠りについた……


はずだったのだが……僕は夜にふと目が覚めてしまった。どうしてかなんて分からない。多分だけど、誰かが夜中なのに立っている気がしたからだ。眠くて、でも、うっすらと瞳を開ける。


暗くてよく見えないけど


「こ、はく、ちゃん? ……こんな、遅くに……」


本当によく見えないけどその人は……全裸だった……と思う。そして、すぐに部屋から出て行った。コハクちゃん、何をやっているんだろうと思ったんだけど隣を見ると彼女が火蓮ちゃんの隣で寝ている。



え? じゃあ、今の誰? 寒い季節で全裸ってあり得る? そもそも、何で女の子がいるの? おかしくない?



ゆゆゆゆゆっゆ、幽霊が、ワンチャンあり!?



あれ? 途端に怖くなって来た……どないしましょう? 隣にはアオイちゃんが寝てい……できれば彼女の布団に……でも、起こしてしまうだろうし


「ガタガタガタガタ……」



アオイちゃんも驚いてるぅ!?


彼女は僕が起きていることに気づいて、閃光の如く共有してすぐにでも恐怖を緩和させたい感情がまるわかりだった。


「カモン、マイ、フトン!」

「お邪魔します!」


同じ布団で僕たちは抱き合って、恐怖で震える体を互いに慰め合った。


「あれ、ヤバない?」

「いや、僕たちは何も見てないだよ。幻覚だよ」

「そだよね、偶々二人同時に全裸の女の幻を見ただけだよね?」

「うん、そうともさ。あれ? そんなことってあるのかな?」

「あるんだよ。もう、寝よう」




◆◆


 俺は目覚めた。コハクの事が色々あったが彼女だけでなく、昨日のことは全員と付き合ったりするのであれば全員気にしないといけない。もっと、これまで以上に愛を伝えて、不安などを軽減していかないといけない。


 真摯に想いを伝えて、最高で愛に溢れて……


 今日から、また始めようと意思を固めていると自身の布団が盛り上がっていることに気づいた。もしかしたら、誰かが寝ている俺の布団に潜り込むというラブコメのありがちの展開なのかもしれない。


 ここで、照れるのは簡単だ。いや、多分照れるだろう。しかし、ここは滅茶苦茶褒愛を伝えていくべきだ。



 取りあえず布団をめくって、些細な事でも愛を伝えるくらいしかできない。俺に出来る事はきっと、話して伝えることしかできないんだと今回の事で分かった。俺は鈍感ではないと思うけど、だからと言って全部が分かるわけではない。


 もっと、知って伝えて、それをドンドン積み重ねて本当の意味で幸せになって見せる。掴みとって見せるんだ。ハーレムって奴を……



 そして、布団をめくると……同時に部屋のドアも開いた。布団の中には全裸の美女、ドアの先には美女。顔立ちが似ている二人。



「おはようなのです、ダーリン……」



「おはようございます、十六夜君、そろそろ朝ごはん……」



 俺は、ここから幸せを掴みとる…………


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モチベになるので宜しければ、感想、レビュー、☆、よろしくお願いいたします。(土下座)

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