異世界旅行編

第113話 再び異世界へ

「へぇー、じゃあ、付き合ってんだ」

「う、うん……」



 教室で冬美ちゃんがニヤニヤしながら僕をからかうように話しかける。



「セックスは?」

「してないよ!! 何ですぐにそっちに行くの!?」

「いや、普通でしょ」

「普通!?」

「うちがあれだけしてあげたんだから、行くとこまでいってくれないと」

「それは、まぁ、感謝は凄くしてるよ? 冬美ちゃんのあの励ましは最高だったけど……」

「じゃあ、何処までなら行けるの?」

「……手つなぐくらいなら……」

「ピュアか……まぁ、明日から冬休みだし距離なんて近づくか……はぁ、速く面白い感じにならないかな」

「何を期待してるの?」

「極上の修羅場」

「えぇ……」

「アジフライ君ならなりそうな気がするからさ」

「アジフライ禁止って前にも言ったよね?」



良い人なんだけど……偶にこういうところがあるからな……


しかし、明日から冬休みか……季節の巡りは早いというか何というか、もう一年も終わり。


激動の一年だった気がするな。魔装、仲間との出会い、彼との出会い、こんなイベントが多いのは初めてな年だったなぁ……



「冬休みは寒いからコタツで一日中過ごしそう」

「それは……やめた方が良いんじゃないかな?」

「でも、実際そんな感じじゃないの?」

「一日中は無いと思うけど……」

「しっかりしてるね」




僕は流石に一日中コタツに居るというのは無いけど……火蓮ちゃんならもしかしたら、そういうこともありそう……。



そこまで話していると教室のドアが開いた。



「ほら、席に着け。今年最後のホームルームだ」



先生が入ってきた。まぁ、宿題の配布とかそんなものなんだろうけど……彼女の都の話を中断して先生の話に耳を傾けた。



◆◆




「明日から冬休みですね」

「そうね……まぁ、コタツで過ごすことが多いだろうけど」



僕達はお風呂に入った後に寝室で会話をする。コハクちゃんが過ぎ去る時間を噛みしめるように冬休みが始まることを口にした。火蓮ちゃんはなんてことないようにコタツで猫のように過ごすことを話す。



「あの、そういった過ごし方はいかがな物でしょうか?」

「いいじゃない。冬はラべマTVでアニメ一気見って相場は決まってるのよ。今、大決算だから」

「何言ってるんですか? 生活習慣は崩したらいけません」

「固いわね。冬休みってそういうものじゃない」



案の定と言うか火蓮ちゃんの冬休みの過ごし方は思った通りだ。二人がそのことで議論していく中、アオイちゃんと僕は二人で話した。



「……今年は皆のおかげで凄く楽しく終われそう」

「そうだね」

「あーしは……ずっとボッチだったから」

「そ、そうなんだ」



彼女はトラウマを思い出すように死んだ目になり、過去を話し始めた。




「……クラスのグループ連絡先にあーしだけ誘われなくてさ、連絡なんて親位しか来なくて、友達から来たと思ったら知らない訳の分からない公式サイトで……ムカついてブロックしても定期的にくるからさ、その度に友達から来たと思って……落胆して」

「あ、今年は僕たちが居るから!」

「だよね」




急にトラウマに入ってしまう彼女を上手い事救っていく。すると彼女が何かを思い出したように話し出した。



「そう言えば……メルが異世界の旅館に招待したいって言ってた」

「そうなの?」

「うん、魔族倒してくれてるお礼だって。あと、メルの家は異世界で旅館やってるらしい」

「へぇ、いつ行くの?」

「明日」

「え?」

「明日」

「ええ!?」



◆◆




と言うわけで異世界アルテミスに降り立った僕達である。海の見える自然あふれる場所であった。



「ここが異世界なのね……ステータスオープン……」

「何言ってるんですか? 貴方は?」

「もしかしたら、って思っただけよ。それにしてもこっちは熱いのね」

「そうですね。大分、現代と気温と景色も違いますね」


「あーし、何かワクワクしてきた……剣とか魔法とか、装備とか、厳選とかできそう……特に厳選したい……」

「アオイちゃん、それは無理じゃないかな?」

「分かんない。王様のお使いから、流れで船をてにいれて幻の宝を見つける……たぎってきた……」

「多分、今回はそんなイベントは無いと思うよ」



メルちゃんが先頭に立ち僕たちはそれについて行く。暑いな……汗が首筋を辿って垂れて、肌がべたつく。


「暑いね」

「暑い……」

「暑いですね」

「暑いわね」



本当に気温が高い、さらに冬服出来たから汗がべたべた。皆、通気性を上げる為に服を掴んでパタパタして風を通す。上着を脱いだりもしたりする。


「っ……」


それを見たいけど紳士のように我慢して前だけを見る彼。さて、そんな炎天下の中少し進むと大きな旅館のような物が出来た。何というか、この旅館だけ異世界に似合わない現代の普通の旅館に見えた。


「何か、現代の高級旅館に見えますね」

「そうだね……ここでMPとHPを回復……」

「アオイ、ゲームの世界から帰って来て。テンションが上がるのは分かるけど」

「凄い、高級感があるけど人はいないみたいだね」



確かに現代の高級旅館に見えるんだけど、人の気配があまりない。


「メルちゃん、ここなの?」

「せやで、ただ、毎年この時期は大盛況なんやけどな」


何か訳ありなのかもしれない。メルちゃんは扉を開けて旅館の中に入って行った。僕たちは彼女が帰ってくるまで待つことにした。


「何か、あんまり異世界って感じがしませんね」

「そうね、いきなり王様の前でもなかったしね」

「?? 良く分からないけどこの世界、あーしは気に入った」



火蓮ちゃんの発言は良く分からないけど。皆、この世界が気に喰わないとかそういった負の感情は無かったようだ。


「十六夜君はこの世界どう思いますか?」

「あ、そうですね、こう、良い感じですかね?」

「あの、どこ見てるんですか?」



彼は僕たちの姿を見ない様にそっぽを向いた、変な視線を向けないという配慮なのだろう。話しているとメルちゃんが戻ってきた。



「すまんなぁ。さ、入ってええで」



と言うわけで中に入って行くと中は和風な感じで木造建築で凄くいい感じの建物。


『いらっしゃーーーーーーーーーい!!!!!!!』

『『『いえええええぇぇぇぇぇいいいいいい!!!』』』



中に入るといきなり大歓声が聞こえてきた。どういうこと? 空を飛ぶ帽子と小さなおもちゃの軍団。



「あ、これはワイが昔に作ったマジックアイテム。おもちゃの兵隊と魔法の帽子や、両方話したり、出来るからこうやってお客さんを出迎えるのにつかっとんねん」

「あ、そうなんですか……それにしても、雰囲気が大分変りました。異世界ですね、ここは」

「ようやく、面白そうなのがあったわね」

「実に興味深い……」



コハクちゃん、火蓮ちゃん、アオイちゃんはそれぞれ反応して、期待感などを高めていく。


「ちょっと、ワイは親探してくるわ、ほな、帽子色々頼むで」

『オーイエス!!!!』


メルちゃんが居なくなると空飛ぶ帽子がくるくる回って部屋の説明をする。


『我が旅館は複数の人数で複数の部屋を予約した場合、特別サービスとして部屋割りを俺が行うというシステムになっております!!!!』


メルちゃんの話によると僕たちの為に最高級の部屋二つを抑えているらしい。部屋の名前はそれぞれ、『ブラックルーム』と『ホワイトルーム』と言うらしい。



それをこの帽子がどちらの部屋にするか決めると言う事だろうか? 変わったシステムだけでまぁ、異世界だからこういう事もあるのかな?


『それじゃあ、そこの黒髪坊主から、お前はそうだな、『ホワイトルーム』!!!!!」

『いえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!』


帽子が叫んでおもちゃの兵隊が祝福の挨拶を送る。その後に帽子はコハクちゃんの頭の上に乗った。


「おお、これは珍しい、純粋な愛に満ちている?」

「なぜ、ハテナを付けるのですか?」

「いや、これは……うーん、どちらの部屋にしたものか?」

「『ブラックルームは嫌です』、『ブラックルームは嫌です』……」

「ほう、ブラックルームは嫌か? いいのかい? とっても広くて悠々と使える部屋だぞ?」

「想い人と一緒の部屋が良いんです……」

「その想い人とは……君が頭の中で偶に新婚ごっこをしているあそこの彼だね?」

「何でそういう事言うんですか!? 重い女って思われたらどうするんですか!? 言わないでください!」

「あーはいはい。うーん、どちらの部屋にしたものか……」


彼女は怒ったようだが帽子はあっさり流す。それとあの帽子は人の記憶でも読める能力でもあるんだろうか?


「ホワイトルームでお願いします」

「よーし、『ブラックルーム!!』」

『いえええぇぇぇええぇぇ!!!!』



あの帽子、滅茶苦茶性格悪いな……コハクちゃんも青筋を浮かべて聖剣を抜いてしまう位怒っている。


僕たち先輩三人で彼女を止めた


「乙女の純情を弄びやがって!!!」

「落ち着きなさい、コハク」

「落ち着いて……」

「そうだよ、コハクちゃん」



コハクちゃんはガックリ肩を落としてしまった、それを見た彼は。


「部屋なんてどちらで過ごすなんて自由ですから、一緒に夜トランプでもやりましょう!」

「い、十六夜君ッ! 流石です! プラマイゼロです!」



見事にフォローをしてくれた。次に火蓮ちゃんの頭の上に帽子が乗った。



「ほぉ、これはこれは中々の想いがあるな」

「ふん、どうでもいいから。ホワイトルームで頼むわよ」

「では、寝る時に寝るだけでバストが上がるブラを付けているお前は……ブラックルーム!!!!!!!!!!!!」

「いえええええぇぇぇぇぇぇ!!!!」



「殺す!! そいつ、殺す!!!!」

「落ち着いてください!! 火蓮先輩、気持ちは痛い程分かります!」

「火蓮、落ち着いて……」

「火蓮ちゃんの努力を僕たちは笑ったりしないよ!!」



彼女は刀を二本ぬいて大暴れを開始する。あと、あのおもちゃの兵隊なんか腹立つ。


「俺は火蓮先輩の可愛い所知れてよかったです!」

「えっ? か、可愛いの?」

「はい!」

「そ、そっか。まぁ、それなら……プラマイゼロ?」



火蓮ちゃんを何とか宥めた後に、次に帽子はアオイちゃんの頭の上に乗った。


「おお、これは……」

「ホワイトルームを所望する……」

「なら、最近可愛くなりたくて鏡の前でやっている『アレ』をやって貰おうか」

「何故!? それを!?」

「すれば……ホワイトルームになるかも……」

「ううぅ……」



彼女は恥ずかしそうにしながら指をピースにして目元に持っていき、手を腰に。声のトーンを上げるが上ずってしまうが言った。


「きゅ、キュピーン☆ み、皆のアイドル、あ、アオイちゃんなんだぞ☆」

「ブラックルーム!!!!!」

「いえええええぇぇぇぇぇぇ!!!!」


「「「「……」」」」



「死にたい……」



うん。可愛い。それとあれはテレビによく出ているアイドルのモノマネだ。きっと、アイドルの真似をすれば彼の気を惹けると考えて練習をこっそりやってたんだろうけど……



彼女は両手を床について負の言葉を発す。そんな彼女を見て彼は大きな歓声を上げる。


「滅茶苦茶、可愛い!!!!!」

「え?」

「最高ですか!? 最高でした!!!」

「あ、そうなんだ……プラマイゼロ」



アオイちゃんの気分が戻った。そして、最後に僕の上に帽子が乗った。



「ほほぅ、これはこれは……」

「な、なに?」

「いや、なに、別に。で? どっちがいい?」



クソムカつくこの帽子!! ニヤニヤゲスな声できっと僕だけが彼女であると言う事も気づいているだろう。クソ!! ムカつく!!


絶対に彼女の事をいじってくる……


「どっちでも……」

「ほほう、一人だけかの……」

「うわあぁぁっぁぁぁぁ!!!! ブラックルーム!! ブラックルームだね!!!」


僕は帽子を無理やり掴んでぎゅうぎゅうに握った。


「わ、わかった。わかったから離せ!!!」



僕の部屋はブラックルームだそうです。





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