第111話 天使来る

 とある、クリスマスの数日前の日。夕食の時間、彼が覚悟を決めたように床に手と膝をついた。それぞれが一体どうしたんだという表情を向ける。



「あの、その……皆さんに言わなければならない事があります」

「どうしたんですか?」

「まって、嫌な予感がするわ……」

「クロ?」



僕には彼が何を言おうとしているかなんてわかっている。彼は……全員と付き合いたいと言いたいのだ。


流石の彼もこういった事を言う事はためらわれたのか、僕にと愛の告白しあった日から、少し時間が経っている。



「俺と全員、付き合ってください!!」



オデコを勢いよく床にたたきつけた。コハクちゃんは驚き過ぎて箸を落とし、火蓮ちゃんはやはりと頭を抱えて、アオイちゃんは無表情ながら驚いているので口を開けていた。




◆◆



「どうしましょう、どうしましょう、どうしましょう……」

「……四股と来たか……まぁ、予想はしてたけど……」

「……四股……シンキングせざるを得ない」




まぁ、あの場では普通に断られたというのは言うまでも無く、取りあえず保留にしたいというのが三人の意見だ。僕は別に構わないけど、今の所は四股でも良いとか、何も言わずに傍観に徹している。




「萌黄は四股についてはどう思うのよ」

「えっと、どうだろね……」

「そう簡単に承諾は出来ないわよね……」




「萌黄もクロ好きだったんだね……」

「あ、うん、実は……」

「そう……皆お揃いだね」

「そうだね……」



火蓮ちゃんは四股について頭を悩ませ、アオイちゃんは急な天然発言をする。そして、コハクちゃんは……


「ううぅ、どうしてこうなったんですかっ?」



計画が破綻して絶望するラスボスのように彼女頭を抱えていた。それぞれ、彼女になるか、否か、保留にするか、何かお揃いで嬉しいか、悩んでいるようだ。


この状況で僕はハーレム肯定なんて言えない……


ハーレムを肯定して、しかも何番目でもいいなんて……皆は順番を凄く意識するけど、そんなに一番とかいいのかな?


やっぱり何番でも彼と皆と一緒ならそれでいいと考える。そう、何番でも良いのだ、順番なんて、順番なんて……



あれ? と言う事は……唯一の彼女ポジ?!



つまりは一番!? いやいやいやいや、一番とかパンの耳位にどうでもいいことであって! いやでも、ラスクにしたら美味しいけど!?


いやでも、い、一番かぁ……


今の所、だけど……それでも一番。何というか、心が躍ってしまう。それが顔に伝わって表情筋が……



「……萌黄? なんか、顔変だよ……ダイジョブ?」

「あ、うん。大丈夫だよ!?」

「そう……?」



アオイちゃんに気づかれた。危ない危ない、ここで自分だけ彼女ポジなんて皆にバレたら物凄く嫌味になってしまう。今の所は、バレない様に皆と歩幅を合わせる感じで行こう。








◆◆




 いつからだろう。彼をどうしようもなく想ってしまうのは。ずっと、ずっと、ずっと想っている。誰よりも私が想っていると自信を持って言える。独占したくて仕方がない、愛し合いたくて仕方ない。


 私は彼がいてくれればそれでいい。それだけで何もいらないと時折考えてしまう。その考えはしてはいけないものだろうけどそう考える。でも、彼がみんなと一緒に居たいと言うならそれでもいい。


 皆の事も好きだからと言う理由も勿論あるけど。それでも、何よりも彼が優先される。


 だから、皆で……と私も思う。彼が皆が良い想うなら、それでも良いと思う。きっとそれも楽しいから。


――でも、もし、皆が私を拒んだら、彼も私を拒むのだろうか。

 

言いようのない恐怖が私を襲う。彼が居なくなったら私は本当の意味で壊れてしまうと分かっている。危うい存在だと自分で分かっている。紙一重で私は普通を保っているだけ。


これがいつまで続くのか私は、怖くて仕方なかった。



◆◆




 占い師から連絡があった。銀堂コハクに向かって何かが近づいていると。



 本来のストーリーなら銀堂コハクは覚醒する前に天使が現れて、天使によって心の中に入られて精神の中で戦うというのがストーリー。


 たが、人間の精神は弱くてもろいから彼女は自らに自己暗示をかけて強いと錯覚させて攻撃を凌ぐ。魔力ではなく精神の戦い。しかし、彼女は何とかしのぐが防戦一方で死を意識する。


 そこで、他の魔装少女達も彼女の精神の中に来て一緒に戦って、精神の中から追い出す。これで銀堂コハクは仲間の大切を感じ、覚醒する。そして倒す。これによって絆と言うのが生まれるのだ。


 だが、既に彼女はパワーアップしているし、絆だって本来より生まれている気がする。それに中間パワーアップをすると精神の中に入られるという能力を無効化に出来る。既に強化されていることはあっさり終わってしまうのだろうか? 天使は精神に入るというのが強いが直接的な戦闘能力は強くない。

 

 つまり、実質彼女達四人でボコボコに出来ると言う事を予想している。




◆◆




 世界に大穴が開いて、そこから天使が舞い降りる。それはただ、輝き町を照らしていく。町の人々はその光に魅せられるが次の瞬間には光が矢のように降り注いだ。百、いや千程の矢。


 流星群のように降り注いでいく。だが、光の矢は大きな水と光の壁に寄って阻まれた。町への被害はゼロになる。


 その次の瞬間には稲妻が登って行き、天使の翼を討つ。羽の穴が開き、天使が痛みに顔を歪めるが直ぐに翼を再生させる。大穴が塞がれ空中を飛行し、銀堂コハクに近づく。


 怪しげな光と共に彼女に近づき彼女に触れるが……合わない磁石を近づけたように弾かれ、光も砕かれるように霧散した。


 本来ならここで天使は彼女に入るはずだった。だが、既に彼女には十六夜と言う心の支えと愛があり覚醒もしており、精神への侵入が出来なかった……



「これはッ! 星霊のッ!?」



自身に刻まれた魔王の片鱗の記憶が星霊の力を観測する。彼女だけではない。自分が相手にしている四人全員から観測されているのだ。



天使はこのままで死ぬと想像が出来た。だからこそ、一旦逃げた。



僅かなズレ。十六夜が歩んできた道のずれがここに来て、ピークに達してただ最悪を回避するだけでなく、回避したがそれが飛び火のように……近くで見ている十六夜へと向かう。



天使は十六夜からは星霊の力を感じない。と分かり、隠れて見ている十六夜の元に向かって、十六夜の精神の中へと退避することを判断する。



天使は彼女達は十六夜の方を庇いながら戦っていると気づいた為、彼女達の芯だと気づいた。ついでにコイツを消せば戦況がひっくり返る可能性に天使は賭けたのだ。



――怪しげな光と共に天使は十六夜の中へと入った。



◆◆




 そこは、黒の世界だった。人間の精神とはその人の思想や深層心理が深く影響する場所であり、精神の本人の特徴が強く現れる場所である。



 そこに天使が居た。彼の前には精神体の十六夜が居た。ここで彼を殺せば現実でも殺すことが出来る。



 天使の剣を持ち、十六夜の胸を貫こうとしたが……次の瞬間にははじかれた。否、手その物が切れていたのだ。



「ッ?!」



 彼の手には剣が握られていた。黒い剣が。彼は剣をふるい天使の翼を落としにかかる。



「ッ、剣だと?! ただの精神の世界ではないのか?!」



天使は手を再生させて、剣を顕現しそれをガードする。両者の剣が擦れ、火花が散る。黒い剣と白い剣が交差する。



「この世界で剣を作り出すなどあり得ない?! お前は一体何者だ?!」

「……何者でもない」

「ただの凡人がここで剣を使う等と……ここは精神しか意味をなさない世界。私はこの世界でも力を使えるが……何故ッ?! まさか、精神を構成するものに剣と言う概念が一つにあるのか?!」



外から飛来した天使はともかく、精神内では本人の精神だけが力を成す。正史は銀堂コハクは自分自身に無理やり暗示をかけて攻撃を躱し、耐え、仲間が来るまでの時間を稼いだ。


彼女は仲間が来ることを前提にしていたのだ、だからこそ彼女はその時、仲間を信頼していることに気づく。


ここで大事なのはあくまで彼女の精神を構成するものは、あくまでも人並みの概念や女の子の概念。



だが、ここに彼は違う。


――いや、もしかしたら、全種族の男と言う存在は違うのかもしれない。


剣はロマン、魔法はロマン、必殺技やスキル。そう言ったものがすでに頭の中に、心に、精神に刻まれて、それが現在の自分と言う存在の一つになっている。


今までの経験や夢が力となるのだ。授業中の妄想、三角定規の穴にペンのフックを掛けて戦闘機のようにして空に飛ばせる妄想。そういったものが精神の力になる。


だからこそ、精神の剣を振るうことが出来る。


ここは精神の世界。外から飛来した天使はここに入った時に、自らの直接的な肉体を精神に合わせた肉体に変更して入り込むため力は使えるがダメージを負う。


普通ならそんなことに気を配る必要がない天使。だが、目の前には不条理の存在。死と言う意識が彼に駆け巡った。



「デュクシ!」


彼が剣を振り叫んだ。その瞬間、天使の手が飛ぶ。まさに閃光に一撃。幼い時にスーパーの無料段ボール置き場から拝借し、それを素材に作り上げた、魔剣カスタネット。そして、それを振るときに自分自身で効果音を言うという昔の彼の癖がそうさせている。


これをすることで彼は良い波に乗る。精神が加速する。


自信の常識を超えた一撃に呆然とする天使。手を再生させるがだとしても驚きを隠せない。



「現実であったならば絶対に出せない至高の剣……これは、精神が肉体や常識を超越している……クソがッ!」



天使が剣をとり十六夜へと振りかぶる。剣と剣が何度も交差して火花が散る。天使には追いつくだけで精一杯。


天使は飛び、羽をはばたかせ光の矢を千放つ。黒騎士の剣が光を放ち、腕を振り剣に矢をあてて全てを消し去って行く。彼の精神が加速して、剣も加速していく。



「……デュクシ、デュクシ!」



其れは精神体にも影響し、天使には全く入り込む余地のない異次元の極致へと



未だ進化は止まらず、ドンドン良い波に乗り、精神が加速する。だが、黒騎士はこう思う。


速さが足りない。


『――速く、もッと速く……』



剣で翼に穴をあけてぶった切って再生速度を大幅に上回る。


「ッ!!!」



剣を両手に顕現する。


「デュアルストームダブルクロス・オーバーレイ・ブラックシュバルツブラック・ごぎょう、はこべら、ほとけのざ・モード」



大袈裟に言うが端的に言うと両手剣である。それで天使をバラバラにした。嘗ての何となくで作った、カッコいいと思った言葉の羅列。その時は意味なんて無かった。だが、ここでは意味を成す。何故なら、それは彼の構成する精神の一つであるのだから。



黒騎士は両手を掲げて力を高める。



「ドラゴニックストリーム・ジ・アブソリュート・オーバードライブ・スピリチュアル・ヘカトンケイルダイナミック・オーバーレイ・フューチャリング・カオスインフィニティ・コスモスタナティス・オブ・エクスカリバー・ビーフ・オア・チキン・エレメンタリースクール・ジュニアハイスクール・オルタナティブ・ストライク……」



台風でもあり雷でもあり、小学校であり、中学校であり、牛であったり鳥であったりそう言ったものが群れとなって天使に向かった。



精神に入り込んだ天使が完全に吹っ飛んだ。黒騎士はフッと笑った……



「俺のドラゴニックストリーム・ジ・アブソリュート・オーバードライブ・スピリチュアル・ヘカトンケイルダイナミック・オーバーレイ・フューチャリング・カオスインフィニティ・コスモスタナティス・オブ・エクスカリバー・ビーフ・オア・チキン・エレメンタリースクール・ジュニアハイスクール・オルタナティブ・ストライクに抱かれて消えろ」



「十六夜君?」



「え?」




そこには十六夜のピンチと思って彼の精神内に駆け付けた。魔装少女達が見てはいけないものと見た顔をしていた。





◆◆




「どうすんのよ?」

「そんなの僕に言われても分からないよ」

「重症……」



僕達は全てが終わったと後に家に帰った。天使は彼が倒したようでそれは良かったのだが……僕たちは見てはいけない物を見てしまったのだ。


「十六夜君! 元気を出してください! ドラゴニックストリーム・ジ・アブソリュート・オーバードライブ・スピリチュアル・ヘカトンケイルダイナミック・オーバーレイ・フューチャリング・カオスインフィニティ・コスモスタナティス・オブ・エクスカリバー・ビーフ・オア・チキン・エレメンタリースクール・ジュニアハイスクール・オルタナティブ・ストライク。とってもカッコよかったです! それとュアルストームダブルクロス・オーバーレイ・ブラックシュバルツブラック・ごぎょう、はこべら、ほとけのざ・モードもとってもかっこよかったです!! 私感激しました! あれは、春の七草を取り入れてオシャレでした!」

「あ、あ……あ」



彼は目のハイライトを無くして椅子に座り、『あ』しか言わない。相当メンタルに来ているようだ


「このまま、ワンクールくらいあのままじゃないでしょうね……」

「どういう意味……?」

「ごめん、こっちの話……」



コハクちゃんの急な天然により益々メンタルが削れる。



「こうなったら、あーし達で癒してあげよう」

「そうね。いつも助けてもらってるし」

「でも、何すればいいかな?」

「うーん……尽くしてあげればいいんじゃないかしら? 十六夜、メイド好きそうだからメイドの格好してお世話するてきな?」

「おお、いいアイデア……」



と言うわけで彼を励ますことになった。






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