銀ノ章2
俺は、まさかのこの世界の主人公を彼女にしてしまった……
物語も始まっていないと言うのに……卒業式の日にあそこまで押し切られるとは思ってもみなかった。
彼女が何となくであるが好意を向けてくれていることには気づいていた。しかし、どう接していいか分からなくて難聴なふりをしたり、鈍感なふりをしたりして躱していた。
しかし、彼女は俺が難聴、鈍感なふりをしている事にも気付いていたようで……女の勘は凄まじい、いや、主人公の勘か……それとも俺の演技力が無かっただけか……
現在は高校に入学し、自宅で独り暮らし。火原火蓮と黄川萌黄と同じクラスだったので接点を持ち、更には海原町に行って片海アオイと少しだけだが交流を持ってバッドエンドを回避するために今から動き始めている。
この世界は『ストーリー』か『ifストーリー』なのかは知らないが今から動いて損はない。
これからの事を考えているとインターホンが鳴る。
彼女が来た……
ソファーから立ち上がり玄関に向かいドアを開ける。そこには……銀色の女神が居た。彼女の周りだけ異次元と思えるような絶対的なオーラが出ている。
「来ちゃいました」
「いらっしゃい……」
彼女は少し照れ臭そうに笑う。かなり大きめの荷物を持って彼女は家に入り、一緒にリビングに向かう。
ダッフルコートを脱ぐとタートルニット、下はサテンススカート。今は冬だからな。冬服尚は当然だが……これは凄い。
おいおい……中学生……だよな……色気が凄く過ぎて変に意識してしまう。
さらに、髪型もマッシュショートのような物になっていた……彼女は『ストーリー』ではずっと長髪で腰位まで長いのが特徴で完結まで髪型は変わることは無いんだけど。これは『原作ブレイク』って奴なのか?
「すいません。急に。冬休みなので折角だから中々会えない先輩に会いたくて」
「い、いや、謝ることないですよ」
「えへへ、そう言ってもらえると嬉しいです。ところでどうですか? 今日の私」
「あ、うん、そうですね。良いと思います」
外は寒かったようで頬と鼻が少し赤い。そして、俺が褒めると更に頬は赤くなり顔がにやける。こちらもその可愛さと尊さにニヤニヤしてしまいそうになるが何とかこらえることに成功する。
「ココアでも飲みますか?」
「いいんですか?」
「どうぞ、ぞうぞ」
「では頂きます」
彼女をコタツの方に誘導して座らせココアを準備する。何というか本当に色気が凄いな。もう、大人と遜色ないくらいの風貌とスタイル。この二つは目に毒である。ついつい視線が下に向きそうになる。
そして声のトーンと話し方。声は可愛らしくそれでいて鮮明で鼓膜にもよく響き、話し方も鼻につくことは一切なくそれでいて上品。
仕草も凄い。髪を耳にかけたり、手を吐息で温める仕草はもう守ってあげたくて仕方んがない。
只管に彼女の分析をしていると彼女と目が合う。流石に見すぎたか……女性はこういった視線に敏感であまり良く思わないって聞いた。彼女にはもしかしなくても不満を与えてしまったかもしれない。
一度、目線を逸らすが気になってもう一度見ると……彼女も俺を見ていた。そしてもう一度目が合うとウインクをする。
ちょっとあざといが可愛い。なんだこの異次元の生物は……海の生物に例えなら彼女は人魚。俺はアジ。それくらいの差がある。
そんな事を考えながら彼女のココアを持っていく。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
彼女は両手でコップを包んで飲み始めた。
く、クソが……一々可愛いんだよ。コイツ。コップを両手で包んで手を温めながら飲むって何か分からないけど可愛いんだよ!
「先輩の作ってくれたココアとても美味しいです」
「あ、ありがとうございます」
彼女は慈愛の女神が人間に微笑むような素敵な物を見せる。それは魅力的で吸い込まれそうになるが同時に屈託のない百パーセントの笑顔でもあった。
……無邪気な笑みが一番反応に困る。可愛すぎて俺の経験則からじゃ、最適解の答えが分からん。
彼女はココアを飲み終えると俺はそれを洗面台に持っていく。
「すいません。ありがとうございます」
「これくらい大丈夫です。えっとそれより……どうします……この後……」
正直、この後の予定は考えていない。いきなり家に来ていいかと聞かれて驚きながらも了承しただけだからだ。
「先輩と一緒に居るだけでいいです」
「何か、ありがとうございます……それじゃあ、テレビつけますね……」
たどたどしく俺はテレビをつける。この空間は彼女に完全に支配されていた。彼女はとんでもないことを少しからかいながら俺に言う。
いつの間にか、からかい属性が彼女に付与されていたようだ。
テレビの前にコタツもあるので俺もコタツに入る。彼女と違う方向の所から入ろうとすると……彼女は自分と同じ所で僅かに隣を手で軽くたたいた
「先輩、ここに一緒にくっついて座りましょう」
「え、いや、それは」
「嫌、なんですか?」
彼女は上目遣いで目をウルウルさせる。そんな感じにされてしまうと俺は何としてもそこに座らないといけない
「じゃ、じゃあ失礼します」
「ふふ、どうぞ、どうぞ」
ケロッとして先ほどのまでの涙ぐましい感じは何処に行ってしまったのか。彼女は嬉しそうに微笑んでいた。手のひらの上で転がされている……
彼女とほぼ距離が無い所に座る、すると彼女は俺の腕に甘えるようにくっついた。彼女の足が当たり、胸部の圧力が俺の腕に押し当てられる。
なんて、幸せなんだ……
し、しかし、俺は年上。精神的にも。ここは賢者のような心構えで精神を統一する。
「くっついちゃいました。えへへ、でも、彼氏と彼女だからこれくらい平気ですよね?」
「あ、はい、問題ないです」
「ふふ、今は学校が離れて会えないからこういった機会は貴重なのです。私、こう見えて中々会えないから物凄く寂しいんですよ? ですからもっと休日のデートとか先輩から誘ってくださいね?」
「は、はい」
「よろしい。じゃあ、もっとくっつきますね」
益々締め付けが強くなる。彼女との距離がますます近くなり、彼女の独占欲をじかに感じた。
彼女にこんな一面があったとは……知らなかった。
そして、なんて、胸焼けするくらい甘い展開なんだ。一般人が見たらブラックコーヒーの百倍位渋いのを飲まないとやってられないな。
彼女の顔は幸せそうだが時折、俺をからかうような視線も向けてくる。
意識しない様に賢者の心構えでテレビを見てるとカップル特集がやっていた。道に居る男の人にどんな彼女が欲しいか、どんな人がタイプか。女性にはどんな男性がいいか。理想の彼氏、彼女を調査するという番組だ。
『どんな人を彼女にしたいですか?』
『やっぱり尽くしてくれる人ですかね』
『尻に敷かれたいと思いますか?』
『うーん、あんまりそういった感じはしないですね』
それを見ていた彼女はくっつきながら俺に聞いた。
「私って、尽くすタイプに見えますか? それとも尻に敷きそうなタイプに見えますか?」
「ど、どうでしょう……」
「先輩、気にしないですから正直に言ってください」
「えっと、正直……尻に敷きそうと思います……」
彼女に逆らえる感じはしないからだ。美貌やそれを利用されたら何でも願いを聞いてしまいそうになる。
正直に言ってと言うから言ったのだが彼女は不機嫌そうだ
「むぅ、私は尽くすタイプです。尽くして、尽くして、尽くし尽くす。理想の後輩彼女なんです」
「ご、ごめんなさい」
「謝らなくてもいいんですけど……でも、先輩は私の事を分かってない様ですから、今日は沢山尽くしてあげますね……」
「た、沢山!?」
そんな言い方をされるとつい変な方向に意味をとらえてしまう。男の性。
「夜にお背中でも流したり……」
そこまで彼女が言うと俺は首をかしげる。確かに何としてもそのイベントはアジわいたいがそんな遅くまで居て彼女の両親は心配しないのだろうか
「え? 今日、そんな遅くまでいるんですか?」
「え? 今日は泊るって言いましたよね?」
「え?」
「え?」
俺は彼女のメールを確認する。家に来ていいですかと言う内容のメール。そこには今日は泊りますと……下の方に書いてあった。み、見逃した……
「あ、書いていますね」
「はい。ですから……今日はたっぷり夜も沢山お世話してあげますね」
「ひゃ、ひゃい」
彼女の言い回しは独特で男が意識しそうな言い回しや気を引く話し方だった。彼女の言葉一つ、仕草一つでドキドキさせられアタフタさせられる。
これからドンドン彼女に俺は……
手のひらの上で転がされそう……
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