第90話 転校生とアジ
二学期が始まった。誰もが夏休みが終わった事に絶望をしながら学校へと重い脚を向けるところである。勿論、俺だって何となくではあるが名残がある。まぁ、しかしそんなことを気にする暇はない。まだ先とは言えバッドエンドもまだあるらしいし……俺の二股恋愛事情もある。未だに認めては貰えていないがなんとなく道は進んでる気がする。
まぁ、色々考え事はある中で俺は僅かに懐かしき教室の席に到着である。前には佐々本が。
「おっす」
「おはよう」
「早速で悪いんだが宿題見せてくれるか?」
「そう言われると思って手に持っているぞ」
「おお、あざまる」
大体予測できていたので彼に宿題を渡す。あとで、宿題料として健全な全く規制とか、かからない本を頂こう。がやがやと久しぶりだなとかみんな言い合ってるな。あと、コハクを見て相変わらず可愛いとか、ちょっと焼けたとか言ってる奴もいる。確かに彼女は少し日焼けした感じがあるが……どちらにしても可愛いので特に関係はない。
この世の真理であり、会社の一般教養の採用試験に出題されても可笑しくないのが銀堂コハク可愛い過ぎるという概念。それ故に彼女は色んな男性の視線を持っていき、さらには恋に落ちさせてしまう。まさに俺の話。
だが、しかし……恋に落ちるのが俺だけとは限らない。
今日、この学園に転校生がやってくる。新キャラと言う奴だ。片海アオイも転校生という扱いになるがそれとは別にもう一人。二学期に突入したときにこの一年Aクラスに転校してくる男子生徒。
ま、まぁ、俺にはどうでもいいし、彼女もそんな男に流されないことは分かっている。しかし、イケメンとは恐ろしい物である……フツメンで敵うだろうか……
そこまで考えて先生が教室のドアを開ける。そこには滅茶苦茶イケメンが居た、女子たちはキャーキャー騒ぎ出して、男たちは中指を立てる。クッソイケメンじゃないか。金親と並んだら薄い本ができるな……。黒髪に熱血感あふれる黒い目。異世界に転生した勝ち組、日本人という印象だ。
そう言えば……前世で金親×黒鮪とか黒鮪×金親とかあった気がする……ネットで二人の同人の薄い本が話題になっていた時期があったような……考えない様にしよう。
「ええ、おはよう。夏休みの感覚が未だに抜けきらないと思うが二学期も頑張って行こう。色々と伝えることがあるがその前に転校生を紹介しなければならない。では、頼む」
六道先生に促されると黒鮪はチョークで黒板に文字をかき始めた。字が丁寧である。どうでもいいがそれもムカつく。
「俺は黒鮪タケシ。よろしく!」
「キャー」
「金親君に匹敵するイケメン!」
「これはとんでもないカップリングが出来そう!」
「紙を!」
人差し指と中指を合わせて頭の上でピッとはじくようにしてカッコつける。女の子達から絶大な支持を得ているな。男子達は
「そういえば、二学期と言えば文化祭と球技大会だよな。ハハハ」
「楽しみだなハハハ」
「夏休みにワンクリック詐欺、五十七回も引っかかたよ。ハハハ」
「俺なんかウイルスがパソコンに入って、羞恥に悶えながら父親に土下座したよ。ハハハ」
「ソシャゲのガチャに五万使ったよ。ハハハ」
「俺も天井だよハハハ」
男子達は全くと言っていい程、声が鼓膜に響いていない。いや、届いているのだろうが無視して夏休みの思い出話に花を咲かせている。多少は話を聞いてやってもいいんではないだろうか? まぁ、いきなり指をピッってやるのはちょっとキザな感じはしたが……黒鮪である彼は自己紹介の後にクラスをぐるりと見渡して廊下側の一番前の席に座っている少女に釘付けになった。
◆◆
私の名前は野口夏子。花の女子高生である。夏休みが終わり久しぶりの学校登校で私の友達である銀堂さんに会う。夏休み中も多少は連絡を取っていたが面と向かって話すのは久しぶりなので楽しみだ。
彼女は私の前の席に座る。制服がこんなに似合う人っているだろうか。久しぶりに会うとこんな女神と友達とは自分という存在の格が上がるような気がする。後……なんかバストが前より大きくなってる様な……この短期間で……気のせいだよね?
「おはようございます。夏子さん。夏休みはどうでした?」
「うん、私はぼちぼちの感じだけど……それより、魔装少女のニュース見た?」
「え!? あ、はい、きょ、興味深いですよね!」
「あんなことが起こるなんて人生って分からないよね。ネットで物凄い反響なんだって、しかも、何故か顔が上手く見えなくて、摩訶不思議だよね」
「あ、あー、そそそ、そうですね……魔装少女とか、不思議ですね」
なぜ、銀堂さんが慌てふためく感じになるんだろう? 怪しさしかないんだけど……まぁ、今は置いておこう。それより、最近の恋愛事情を聴かないといけない。
「そう言えば、夏休みで黒田君との仲はどうなったの?」
私が協力すると決めた以上、最後まで気にしないといけない。しかし、夏休み中は彼女はぼちぼちと言っていたのであんまり詳しくは教えてくれなかった。
「ふふふ、かなり進展しました。少々勢いが余ってしまいましたが……」
「ほう? どういう感じになったの?」
「その、告白をされました」
物凄い進んどるやないかい。物語が結末を迎えてしまっている。告白をされたのであれば彼女は了解を出し今頃ラブラブカップルになっているだろう。しかし、彼女は歯切れの悪い言い方をして嬉しそうであるが少々の戸惑いも感じる。でも、まぁ、先ずは祝福をしようじゃないか。
「おめでとう。よかったじゃん」
「ええ、それに関しては幸せでした……」
その後の彼女の表情は若干の苦笑いだ。
「でした? 過去形だね」
「ええ……その後、二股したいと土下座されました」
「I can't understand what you are saying」
訳、貴方が何を言っているか理解できません。思わず意味が分からず英語で聞き返すという奇行をしてしまった私。
「確かに理解できないかもしれませんが……その、事実です。火蓮先輩も私も両方好きで決められない。だから、両方付き合いたいって」
「えっと……ごめん……何を言っていいか分からない」
私の英語を瞬時に理解して何事も無いように会話を続ける彼女はやっぱりすごいと思いつつ、黒田君は何を考えているのか理解しよう頑張っているところだ。しかし、どこか理解ができない。私の常識を軽く超えてきた。
「それは……その通りだと思います」
「えっと、銀堂さんてきにはどう思ってるの?」
「私は……二股を許そうかなって……一時期は思ったんですけど……」
「え? マジ?」
「でも、やっぱり独占したいという気持ちもあり、断りました」
「あ、そうなんだ。随分濃い夏休みだったみたいだね……」
「はい。十六夜君は物凄い濃い人ですから。必然的に毎日が濃い毎日になって楽しいんですよね」
「何か卑猥……」
そこまで話して教室に六道先生が入ってきたため会話は中断になる。私達以外の生徒も皆先生が入ってくることで口を閉じる。毎回思うけど六道先生って顔が怖いな。だから、皆静かになるんだろう。
そして、二学期の始め先生自身も気を入れているんだろうから余計に怖い。そんな強面の先生の後ろには金親君に匹敵する、ザ・イケメン。あらら、これは男子達が仲良く出来ない感が出てるな。既に中指を立ててるし……これだからモテないんだよな。うちの男子は。
まぁ、女子も皆目をハートにしてるから男子だけを攻めるようなことも出来ないけど。私的には彼は確かにイケメンだが特に何とも思わない。銀堂さんも特に何とも感じていないようで何となく窓の外を見て……黄昏た感じを出していた。
いや、滅茶苦茶絵になる……
転校生は
銀堂さんは窓の外を見ているため、彼の視線には気づかない。銀堂さん、確かに麗しい姿だけど頭の中ではかなり庶民的なこと考えてそう。
――今日の献立どうしようかなぁ
みたいな……さて、黒鮪タケシ君、略してマグロ君としておこう。彼は銀堂さんの席の前に来ると彼女に話しかける。そして、彼女も彼に気づいた。え? 何? 見たいな感じで彼に銀堂さんは顔を向ける。
「君の名前を教えてくれ」
「銀堂コハクですが……」
「俺の名前は黒鮪タケシだ」
「はい、聞いてました」
「そうか……俺と……いや、後で話をさせてくれ」
「はぁ……」
彼女は首をかしげて若干困ったような顔を向ける。彼は一旦、話を切り上げて再び前に行くと先生の指示で自身の席に向かっていった。まさかの黒田君の後ろが彼の席……おいおい、ちょっと面白くなって来たんじゃない……いや、いけない、こんな事を考えてはいけない。確かに面白そうな展開だがそう思ってはいけないのだ。何故なら人のこういった事を面白がるのは良くないからだ。
うんうん、ダメだよね。と考えていると銀堂さんは私に話しかけてくる。
「夏子さん」
「ん? どうしたの?」
もしや、先ほどの人とは元許嫁の関係とか、親の知り合いとかそんな関係なのでは!? いや、ワクワクとかしてない。決して。
一体、彼女はどう思っているんだろう? まぁ、黒田君一筋だろうけど、何かを感じたりはしたのだろうか?
「今日の晩御飯、カレーとから揚げどちらがいいでしょか?」
「ああー、カレーって金曜日って感じがするから、今日はから揚げでいいんじゃない」
「なるほど、そうします!」
マグロ君のことはどうとも思っていなく、頭の中は献立でいっぱいのようだ
■
さてさて、久しぶりの二年Aクラスで僕はワクワクしている今日この頃。夏休みは魔族とか魔装とか……同居とか、色々あってどたばたパーティーをずっと繰り広げていた。楽しかったけど、たまにはこのクラスの空気を吸いたいんだよねぇ。さらにー、アオイちゃんが転校してくる! ひゃっほう!
前の席の火蓮ちゃんは朝から読書である。もう、話しかけて欲しいんだけどな!
「火蓮ちゃん」
「んー?」
彼女は本の方に目線を向けっぱなしでこちらに一切視線を向けない。
「何読んでんの?」
「人生Fランク社会人が異世界でSランク冒険者になりました。~この世界では俺の固有スキルは優秀過ぎて、強敵とか国も楽勝過ぎてS級美女もよってきます~」
「長い! タイトルが長い! サブタイトルがメインより長い!」
「そうねー、でも最近はこんなもんよー」
あんまり話聞いてないね、これは……火蓮ちゃんは本の虫だからなぁ。そんな寂しげな僕の背中をトントンと叩く誰かが。振り向くとほっぺに人差し指が刺さった。何という古典的ないたずら。こんなことをするのは……
「おっはー、萌黄」
「冬美ちゃん。おっは~!」
冬美ちゃんだ。僕の親友である彼女、夏休み中になんとしても彼氏が欲しいと言っていたが……
「ねぇ、聞いてよ。彼氏できなかった」
「それは残念だね」
「もぉ、本当にクソだよね。うちを彼女にしないとかセンス無さすぎ!」
「まぁ、そういうときもあるよ」
「うちの体が貧相だから? どいつもこいつも男ってのは脳にチンポでも生やしてんのかって! 死ね、巨乳!」
「あの、視線下げて僕の胸に言わないでくれる?」
彼女って物凄い良い子で好きなんだけど……結構下ネタとか言うのが偶に傷なんだよね……しかも、結構堂々と……
「はぁ~、ガチ萎え。まぁ、いいけど。あ、そう言えば聞いてるよね? 魔装少女」
「あ、うん。不思議な人達でしょ?」
「そうそう、あんなことが起こるとか人生何があるか分かんないよね。うちにも飛び切りの彼氏とかできるかも」
「あはは、できたらいいね」
「何か……おどおどしてない?」
「ギクッ! そ、そんなことないよぉ」
あ、危ない。魔装少女関連は秘密だから何としてもバレない様にしないといけない。慌てながら誤魔化しているとそこで先生が教室に入ってくる。久しぶりだ
「ええ、お久しぶりです。早速ですが転校生を紹介します。入ってきてください」
アオイちゃんだな、きっと。彼女が来ると僕も待って居たら……来ない……入って来ない。
「あの、どうぞ。入ってください」
先生が再びそういうと
ド緊張の表情でアオイちゃんが入ってきた。足と腕の出す方が同じで、最早関節の動きがロボット。顔は無表情だが滅茶苦茶緊張してる!!
そんな彼女はみんなの前に立つ。
「あ、えと。えっと、私、じゃなかった……あ、ああ、あーしゅ……あーしは、な、名前は、かた、カタカタ、かた、かた……」
もう、目がぐるぐるしてる……火蓮ちゃんも心配してる感じになっているなか、僕は手を挙げた。
「彼女は
「パァァァ!」
彼女の顔がめっちゃくちゃ明るい感じになる。ふぅ、上手くフォローができた。
◆◆
「さっきはありがと」
「いいよ、あれくらい」
「心配したわ……アオイってあがり症だったのね」
朝のホームルームが終わった後、アオイちゃんが僕たちの元にわざわざ来てお礼を言ってくれた。
「一定以上の視線を向けられると……あーしは固まっちゃう」
「そんな特性を持ってたのね。言ってくれれば私が先生に言ってあげたのに」
「ありがと、でも克服もしたかったから」
「アオイちゃん頑張り屋さん! そういうのカッコいいと思うよ!」
「……そう……」
彼女は褒められると伸びるタイプ。僕たちが話しているとそこに冬美ちゃんも混ざってくる。彼女も僕と同じで結構グイグイ来る。
「おっす、うち冬美。よろしく」
「お、おっす、あーしアオイ……よ、ヨロ、しく……」
冬美ちゃんのいきなりの挨拶にちゃんと乗ってくれるアオイちゃん可愛い。さらにちょっとおどおどして恥ずかしがるアオイちゃん可愛い!
「アオイは、二人と知り合い?」
「あ、うん。と、友達……だよね?」
訴えかけるような視線を僕たちに向けるアオイちゃん。そんな、心配そうな視線を向けなくても大丈夫だよ
「もちろん」
「友達よ」
「っ……」
ちょっと小さくガッツポーズするアオイちゃん。
「へえ、じゃ、うちとも友達になろうよ。連絡先とか交換しよ!」
「ええ!? い、いいの、あ、あーしみたいな鷹の親戚みたいな奴と!?」
「いいよ、うち、鷹、家で飼ってるから。むしろ好き」
「あ、じゃ、じゃあ、よろしくお願いいたしまする」
言葉の語尾が変な感じになってる! っていうか冬美ちゃん、家で鷹飼ってるの!?
「オッケー、登録完了。ところでアオイは彼氏いる?」
冬美ちゃんお得意のいきなり、話を持っていくスタイル。携帯をしまってちょっと圧力をかける感じで彼女に聞いた。
「いない」
「そっかー。マイベストフレンドアオイ、これからよろしく!」
「あう、は、はい」
がっちりと握手を交わす、二人。冬美ちゃん、アオイちゃんはピュアだからあんまりからかわないようにね。火蓮ちゃんも若干そこを心配しているようだ。
「アオイは彼氏欲しいって思う?」
「あんまり」
「萌黄と同じじゃん。火蓮は?」
「……欲しい」
「うちと同じ、テンション上がるわ!」
「何でその程度で上がるのよ」
「だって、上がるもんは上がるんだもーん。あれ? でも、前、火蓮ってどうでも良いって言ってなかった?」
「しょうがないじゃない……欲しいって思っちゃったんだから……」
あら、照れてる火蓮ちゃんも可愛い! 冬美ちゃんと火蓮ちゃんはあんまり話さなかったけど僕を挟んで偶に少し、話してたんだよね。
「あ! アジフライ君か! ガチ惚れで草!」
「っ! あ、あっちが私に惚れてんのよ! ってかアジフライ言うな! 十六夜ちょっとセンチメンタルになるときがあって気にしてんのよ! ダブルディストラクション・オーバレイとか! アジフライとか! 気にするからやめて!」
「おけおけ。とりま火蓮はガチ惚れと」
「だ、だから、違う!」
「セックスはした?」
「っ!!! す、するかぁ!!!」
教室で大声出しちゃいけない。冬美ちゃん、しょっぱなから飛ばすな。しかし、そこでアオイちゃんが首をかしげて質問をする。
「セックスってなに?」
「え? ガチ? そういうピュアっぽさ装うのはあざといから嫌われるよ」
「ええ!? それはやだ。でも……本当に知らない……嫌われたくないから教えて、ほしい」
「え? ガチで知らない? ……そういう子いるんだ……じゃあ、教えてあげ、ムゴッ!」
冬美ちゃんが言いかけたので僕と火蓮ちゃんで彼女の口を封じる。
「アオイちゃん心配しないで。こんなの知らなくても嫌いになったりしない! 冬美ちゃんもちょっと教室で話すことじゃないでしょ! いい加減にして!」
「そうよ、知らなくてもずっともよ。だから、この変態は無視していいわ! 教室でこれ以上の下ネタはマナー違反よ!」
「むご、むご」
冬美ちゃんは何も言えないが途中で僕たちの手を振り払って、アオイちゃんに話を続けた。
「駅弁って知ってる?」
「うん、あーし、結構好き」
「「やめろぉぉぉぉ!!!!」
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