第89話 元ゲーマーの大海

 夏休みの終わりが見えてきて二学期が始まる予兆を感じる今日この頃。僕たちは彼の家でのんびりと過ごす。魔族に対する訓練とかはあるが全部をその時間に費やすわけではないのでダイニングテーブルに座り紅茶でティータイム。この家に住んで大分時間が経ちかなり慣れてきた。大体の家具の場所も日用品の場所も把握してる。一人暮らしだったころに比べて毎日が楽しくこんな毎日を送れていることに感謝である。因みにこの家主の彼は日用品とかを買いに行ってくれている。皆で行くと言ったのだが普段支えてもらってるからこれくらいは俺がやると言った。


……嬉しい事言ってくれるじゃん。と思ったのは秘密である。


彼が居なくなってこの家で僕たちは思い思いに過ごすのだが……

火蓮ちゃんはラフな格好でソファに寝転がり占領しながらスマホでアニメを見ている。


「あの、邪魔なんですけど」


そんな彼女に不機嫌そうな顔でソファーの退去を告げるコハクちゃん。


「今、使ってるからどけませーん」

「貴方が横にならず座れば私が座れるんですけど」

「あ、そー、」

「アニメ見てないで退いてくれますか?」

「今、追放もの見てるからー、無理~」



火蓮ちゃんは足をバタ足のようにバタバタさせてのんびりタイム。火蓮ちゃんはかなりだらしない一面も持ち合わせて居る。彼の前では結構気を遣う感じがするがいなくなるとこんなダラダラ状態である。コハクちゃんは彼が居る時も居ない時もしっかりタイプの為、火蓮ちゃんとは正反対。だから、よく対立する……



「退いてください」

「前回は追放されてから覚醒するパターンだったけど、今回は仲間が主人公の力を見抜けなかったパターンね」

「カッチーン」



無視されてコハクちゃんは青筋を一旦浮かべるとそのまま火蓮ちゃんの背中に座った。


「ぐえ、お、重いんだけど!?」

「あ、ごめんなさい……テレビ、テレビ」



形だけの謝罪を終えるとそのままリモコンでテレビをつけて見始めるコハクちゃん。中々に黒い一面も持ち合わせて居る。


「重い、重い! また、体重増えたでしょ!」

「カッチーン」


コハクちゃんは今度は自分も寝転がり火蓮ちゃんの体に全身のっけた。お寿司のようだ。


「ああ!? 何してんのよ!?」

「すいません。つい」

「ついってナニ!?」




二人の何気ないイチャイチャに心が洗浄されていく。さて、僕はダイニングの方のテーブルに座っているのだが目の前にはアオイちゃん。彼女は紅茶を口に含みながら……あれ? 彼女は紅茶じゃない……何飲んでるんだろう?


「アオイちゃん何飲んでんの?」

「白湯」

「これまた、渋いね」

「カンカンのおばあちゃんが白湯が体液に最も近くて健康に良いっていうから毎日飲んでる」

「へ、へぇ」



カンカンのおばあちゃんって誰!? 変わった名前って事なのかな? 彼女はそう言いながら煎餅のような魚の骨を食べる。


「アオイちゃん、何食べてんの?」

「さんまの骨の煎餅」

「これまた、渋いね」

「カンカンのおばあちゃんが骨はカルシウム沢山あるから、工夫して摂取した方がいいって言うから、骨煎餅にした」

「美味しい?」

「深い味わい」


カンカンのおばあちゃんとは一体……そんな彼女はパリパリゴクゴク飲み食いしながらサボテンを眺めている。彼女が家から持ってきたサボテンだ。



「アオイちゃんって植物好きなの?」

「いや、好きって訳じゃないけど……なんとなく昔から一緒に相棒って感じだから……サボさんは……」

「そうなんだ。昔から育ててるんだね」

「まぁね」

「他に何か育てたことある?」

「……モンスターと2足歩行の動物」

「ええええ!? どういうこと!?」

「ゲームの話」

「ああ、そういうこと……」



ビックリした。常識では考えられないとんでもないことを言うから……


「どんなゲームなの?」

「……ええっと、ちょっと待ってて……」



アオイちゃんは部屋から出て行く。どうやらゲームを持ってきてくれるようだ。



「暑っ苦しい! べたべたすんな! 先輩の言うこと聞きなさい!」

「ええ、私達仲良しこよしだからいいじゃないですか」

「そうやって私の至福のアニメタイムの邪魔してやろうって魂胆がスケスケなのよ!!」



未だに二人がべたべたしてる。全く、クーラーが効いているとはいえ、こんな暑い日にあんなものを見せられるなんて……いいぞぉ、もっとやれ! 


「お待た」


アオイちゃんがかなり大きめの機材を持ってきた。これはテレビゲーム用なのかな?


「それって結構古いやつだよね?」

「イエス。その通り。昔やってた……とある理由で引退しちゃったんだけど……」

「あ、そうなんだ」


なにやら複雑な事情がありそうな感じがする。あんまり聞かないほうがよろしいのかもしれない。


アオイちゃんはテレビの方に向かうとセッティングを始める。


「使っていい?」

「どうぞどうぞ」

「いい加減どけ!」



火蓮ちゃんの上に乗りながらもコハクちゃんが答える。そして、数分後……


「じゃ、実際にやってみよ」

「うん……」


なんか、アオイちゃんちょっとワクワクしてない? 無表情なのは変わりないけど口角が少し3ミリほど上がっているような感じがする。どんなゲームをやってたか口で話せばいいのに何で実際にやるんだろうと思ったけど水を差す感じになるので言いません。




「これは何のゲームなんですか?」

「アオイがゲームとは意外ね」


先ほどまでのイチャイチャが終わり今度は二人してソファーに並んで座り合う。そこにちょこんとアオイちゃんも座る。流れで僕も座ります。コントローラーをアオイちゃんが握り操作してテレビの画面を変えていく。



最初に映し出されたのは……卓球ゲームだった。



「やってみる?」

「僕?」

「そう」

「じゃあ、お試しで……」




king・of・table



というタイトルの卓球ゲームだ。全国優勝を目指す卓球部が主体のストーリー見たい。説明書を見て基本操作を頭に入れる。そして、プレイ開始。



『俺の勝ち。ドンマイ、どんまい』



ま、負けた……しかも、めっちゃ煽ってくる……このゲーム激ムズなんだけど……卓球ゲームなのに必殺技みたいなの飛んでくるし……敵の難易度が高すぎる。



「これ、勝てるの?」

「勝てるよ。貸して」



アオイちゃんにコントローラーを渡すと、動きが染みついているがごとくあっさりと敵を倒した。


KO勝ちで……卓球のゲームなのに……相手の顔面にピンポン玉当ててKO勝ち。


「あの、これ卓球ゲームなんだよね?」

「そう。ただ、相手の体力がゼロの時に必殺技で相手に玉をぶつけると勝てるっていう要素はあるけど」

「変わったゲームだね……他にはどんなゲームがあるの?」

「この箱の中に色々ある」



彼女の思い出の品が入っているような箱には他にもゲームディスクが沢山。火蓮ちゃんもコハクちゃんも興味あるようで中身をあさりながら観察。



「こんなゲームがあったんですね……私、ゲームは余りやらないので新鮮です」

「私も基本的にアニメしか見ないからゲームはやらないのよね……」

「僕もあんまりやらないな……あ、でもこれは知ってる『アニマルの森』でしょ?」

「それなら私も知ってます。当時、興味はありました」

「私もそのゲームなら知ってる」



僕は有名どころのゲームディスクを取り出して話題を一つ提示する。これは知らない人が居ない位有名なので会話が弾むはずだ。


「ああ、それは……」



と思っていたらアオイちゃんが暗い顔で溺れそうなくらい沈む感じがする。



「それは……データが残ってない……しかも、バグでぶっ壊れちゃった……」

「ど、どうしてそんなことになってしまったんですか?」



コハクちゃんが気を遣いながら質問をする。


「アイテム無限増殖の裏技って言うのワザット投稿サイトで見つけて……やったら……データが吹っ飛んだ……友達も……色々コンプリートしてたのに……情報デマだった……」




ワザット投稿サイト!!! 何てことをしてるんだ! 僕たち3人は顔を見合わせアオイちゃんがこの世の終わりのような空気を出すので、新たな話題を出してこの空気を霧散させるべく再びゲームディスクが入っている箱を探す。そして、コハクちゃんが違うゲームを話をする。



「こ、これ、ウルトラモンスターってゲームですよね? 当時、わ、私気になってたんです」

「ああ……それは……」


再び、アオイちゃんが暗い顔。このゲームも訳アリのようだ


「それは、ウルトラ級の裏モンスターが手に入るってワザット投稿サイトに載ってて、やったら初期化の方法で……図鑑埋まってたのに……アニマルの森、ウルトラモンスター。この2つのゲームデータが吹っ飛んだせいでゲーム引退した……」



ワザット投稿サイト……デマしかないじゃん! アオイちゃん可哀そう!!


「ちょっと、なにトラウマ再発させてんの?」

「し、知らなかったんです」


ゲームを持ちだしたコハクちゃんに火蓮ちゃんが小声で文句を言う。





この後、アオイちゃんを励ますのにかなりの時間がかかった。そして、無難にカーレースのゲームを皆でやる。遊んでいるうちに彼女は楽しそうにプレイしていたが途中で止めるとポツリとつぶやいた。



「あのさ、色々気を遣わせてごめん……」

「「「え?」」」

「ほら、皆があーしを気にかけてくれたから……あーしはずっと一人だったから友達とゲームとかやるのが夢で……それで……昔やってたゲームを持ち出してきた……それで、皆に負担かけちゃった。だから、ごめん」

「何言ってるのよ。こんなの負担でも何でもない。友達なんだから遊ぶのは当たり前じゃない」

「そうですよ。それに私も楽しいです。もっとやりましょう先輩」

「僕だって楽しいよ」



彼女は薄く笑った。


「そっか……」


初めて彼女の笑顔と言えるものを見たかもしれない。ぎこちなく堅苦しい笑顔、だけど確かに彼女は笑っていた。




◆◆




















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