第82話 人生ゲームと4人

 昨日の彼と火蓮ちゃんに何かあった。そのせいで僕たちの仲が何処かたどたどしい感じになった。


 僕たちの関係が変わりつつある感じがする……特にコハクちゃんが色々悩んでる感じがする……そう簡単に踏み込んでいいのか分からないけど……


 だけど、もっと仲良くなりたいとも思っている。折角、僕たちは同じ家に住んでいるのだからもっとイチャイチャしたり、ハグとかしたい。女子会だってしたいんだ。もっと仲良くなれば気軽に悩み相談でも出来るしね。それに彼もコハクちゃんを気にかけているけど……どうしたらいいのかちょっと分からない感じだし。


 火蓮ちゃんも彼と一緒で嬉しそうにするときはあるけど時折、無意識だろうけど僕たちを気遣う素振りを見せたりするんだ。このまま全員が互いに変な意識をして仲が拗れたりするのはあまり良い事じゃない。


 よーし!! ここは僕が一肌脱いじゃうぞぉぉ!!


 夜の女子力向上委員会開催だぁぁぁぁ!!


 大喜利だけじゃなくて。最近はやりのリアル女子育成人生ゲームのアプリを皆で遊ぼうとか言って。無理やり寝室で大騒ぎで場の空気変えててんやわんやの親睦を深めよう作戦!!


 眠いとか言って寝そうだったら無理やりカフェイン摂取させて、くすぐりとかダル絡みして寝かせない。


 フフフ、無理やりだ、徹底的に無理やりでいこう。


 あれ? でもこのやり方誰かさんにそっくりのような……気のせいだね、うん。



◆◆



 何というか……最近気まずいわね……いや最近と言いうより昨日と今日なんだけど。


 十六夜と想いを伝えあった日から皆の空気がちょっと変わったような……いや確実に変わってるわね。


 我儘かもしれないけど……なんだかんだ皆のこと気に入ってるし、この変な感じが続くのは嫌ね……。いや、でも私から仲よくしようとかいうのは……それもそれで変な感じが……


 寝室がみんな同じ部屋でしかも、川の字で寝るから距離感が近い。それでみんな同じ家に暮らしてるから違和感とか直ぐに分かったちゃうのよね……


 アオイと萌黄はあまり気にしてない感じがするけど、コハクの暗い顔とか正直見てられない。



どうしたものかしら? このままはダメよね……うーんと……悩みはすぐに解決したい。解決しないと私もスッキリした気分で十六夜にアタックできないのよ。寝室で一人布団を敷いて寝っ転がっていると萌黄が何やらニコニコして入ってきた……


「今夜は寝かさないぜ! オールで女子力向上委員会だよ!」


いきなり親指を出してサムズアップ。唐突過ぎて私は一瞬フリーズした。


「……急ね」

「人生はいつなん時も急なもんだよ」

「キャラ違くない?」

「フフフ、そんなことないよ、フフフ」

「そ、そう……」

「断ってもいいよ。受理されるまで無限に頼むだけだから。フフフ」




明らかにキャラが違う……ような気もするが結構こんな強引な感じも前からあったし、そうでもないのかしら? しかし、この強引さ……誰かさんに似てるような気がする。そう思っているとアオイとコハクが寝室に入ってきた。


「二人共、今夜は寝かさないぜ」


そのセリフ気に入ったのね……入ってきた二人にいきなり告げる彼女は表情をキラキラさせていた。二人もキラキラ彼女を見て鳩が豆鉄砲を食らったような表情で呆ける。


「どした?」

「申し訳ないのですが……あまり夜更かしは肌荒れに繋がりますので」

「どうもしないぜ、それとワンナイト位大丈夫。さぁさぁ、先ずは大喜利から!! ほらフリップ!!」



無理やりと言った感じで萌黄は私達にフリップとマジックを配る。萌黄の勢いに押され二人は従う以外道はない。



「それじゃあ、お題いきまーす。『ああ、これあるあるだよね……どんなあるある?』」


「本当に押しが強い……まぁ、女子会っぽくて楽しそうだから、あーしはいいけど」

「あまり、そう言った事をする元気はないのですが……まぁ、良いです……」


アオイは意外にノリが良いがコハクは元気がないが萌黄の押し押しの顔を確認するとフリップに文字を書いて行く。



「あーし、出来た」


私も既に思いついてフリップに書き始めているがアオイは既に出来上がっているようだ。萌黄はアオイにビシッと指を差す。


「『ああ、これあるあるだよね……どんなあるある?』」

「鶏肉料理の時、中まで火が通ってるか心配になってついつい焼きすぎて硬くなっちゃう」

「「ああー、わかるー」」


そ、そうなんだ……そんな料理あるあるなんてあるんだ……


「あ、あー、それな、それな、マジウケル……」



取りあえず、女子高生において万人に通用すると言うパワーワードを言っておくスタイル。


「……一応、私も出来ました」

「はい、コハクちゃん!」

「鞄に入れておいた飴ちゃんが溶けて鞄から出てくる……」

「「「ああー、分かる」」」


これは私にもわかる。良かったぁ、2連続料理あるあるじゃなくて……


さて、そろそろ私もベールを脱ぐか……


「はい」

「火蓮ちゃんどうぞ」

「初ギルド訪問はガラの悪い先輩冒険者に絡まれる」

「「「んー?」」」


あれ? この異世界ファンタジーあるある分からない? 


「え、じゃ、じゃあ……」


私は急いで書き直す。



「初クエストは薬草採取」

「「「??」」」


「大したことのないモンスターを討伐したと思ったら、実は高ランクモンスターでギルド職員が腰抜かす。ついでに周りの冒険者も驚いて『アイツ、何者だ!?』ってなる」

「「「??」」」



……これが今時の女子高生なのか? 私のあるあるが通じない……まぁ、仕方ないわね。


「で、でも僕はこのあるある全然ありだと思うよ! それじゃあ、次のお題!! 写真で一言」


写真に表示されたのは赤ん坊の写真。私は一瞬で答えを導き出す。しかし、恐らく共感されないだろうけど


「はい」

「火蓮ちゃん!」

「あれ? さっきまで三徹でブラック会社で泊まり込みで働いてたのに!?」

「……あ、うん、百点!! 可愛いから!!」


萌黄って絶対全肯定なのよね……分からないなら分からないって言って、点数下げてもいいのに。気を遣うっていうか、もしかしてこの状況もいち早く若干浮いた仲を取り戻すために? だとしたら大したものね……


きっとそうね……


だとしたら、私も盛り上げないとね……



◆◆



あーしはあまり元気が無かったが、女子会と言うリア充イベントを逃すと言う手はなく、参加している。今までかなりのボッチが続いてこういった事はしたことは無かった。


話すとしたら家で育てていたサボテンとか、サクランボとかトマトとか……植物と話す方が人間と話すより多かった。特にサボテンは育てが楽だし、勝手に名前つけてたな……サボさんって……


『トマトって下から読んでも上から読んでもトマトだね……ウケルね……』

『サボさんは好きな食べ物ってナニ? 水? そうだよね……』


今考えるとあーしは相当ヤバいやつだったのでは……虚しい日の思い出である。しかし、こうやって今では友達と言える存在と話せる。これほど嬉しいことはない……はずなのに何処か心にサボテンの刺一本程の違和感がある。まぁ、気にする程でもない?



「次のお題は!!」

「はい!!!」

「まだ、お題言ってないよ!」


萌黄だけでなく火蓮までハイテンションになった……ちょっと無理してる感があると思うのはあーしだけだろうか?


火蓮も萌黄も恥ずかしいのか顔真っ赤にしてるし。


「じゃあ、次は最近はやりのアプリゲーム。『リアル女子育成人生ゲーム』をやろう! さぁ、ダウンロードして!!」


萌黄に促されるままに全員がダウンロードを始める。しかし……


「あれ? 回線が」

「あ、一回Wi-Fi切ろっか……」


一度、気まずくなってテンションが下がりかけるがダウンロードが完了するとまた、恥ずかしそうにテンションを上げる。コハクは……若干元気がないのが続いている。


「よ、よーし、通信対戦だ!!」

「や、やってやるわぁ!」

「お二人共何故にそこまで元気なのですか……」


あーしもアプリを起動して対戦を始める。ルールはコマごとに分けられたマスにランダムに止まり、そのマスに定められているイベントなどで稼いだ『ポイント』が最後に一番高かった人が優勝だと言う割とよくある感じである。



「僕からだね。えっと……数字は三。いち、ニー、サン。アイテム、マスカラをゲット女子力ポイント+5」

「次は私ね……数字は六……アイテム『上げてよせるブラ』……なんか悪意を感じるわね……女子力ポイント+7」


なるほど、アイテムもゲットできるんだ。二人が終わり次はコハクの番。


「数字は4ですね……アイテム『包丁』をゲットです。ポイント+9……」


やっぱりコハクが一番元気ない。何か悩み事でもあんのかな?…………あーしって一応コハクの先輩なんだよな……コハクの方が大人っぽい感じがするから意識とかしないけど。


でも、ちょっと先輩らしいことしたい時だってある


あんまりやり方とか分かんないけど褒められると嬉しいよね? あーしも褒められるの好きだし


「ところでコハクってさ……めっちゃ可愛いよね」

「本当にところでですね……」

「いや、そうだなって思ったからさ。後、目も可愛いよね。鼻も口も」

「そ、そうですか……ありがとうございます……先輩の目と鼻と口も凄く可愛いですよ」

「そ、そう? あ、あんがと……コハクの声と髪も艶があって上品だね……」

「ありがとうございます。先輩の声と髪も奥床しくて、清楚で、言動も婉容で淑やかさもあって好印象ですよ」

「あ、あああ、あ、うん……お、お小遣いあげよっか?」

「いえ、両親からしっかり貰っているので大丈夫です」



いや、あーしが嬉しくなってどうする? 一応先輩なんだからもっとしっかりと褒めてあげないと……


「先輩の番ですよ?」


あ、今ゲーム中だった。


「あ、うん。数字は2。アイテム……『パーカー』神アイテムゲット……女子力+1だけど……そこはどうでもいい」

「先輩はパーカー好きですね……着やすいですし、私もかなり愛用してます」

「だよね、パーカーは最高だよね」

「はい、かなり良い物だと認識しています」

「分かってるね……」


いや、だからあーしがテンションアゲアゲになってきてどうする? コハクを励ましたいって事をしようとしてるのに……


その後も励まそうとしたのだが、それを返されあーしの気分がルンルンになるだけであった。



◆◆



結局、最下位はコハクちゃんであった……特別なアイテムを持っているときだけに発動するイベントに、ドンピシャでハマってしまったからだ。


『包丁』を所持しているときだけに発動する『ヤンデレイベント』。問答無用でゲームから除外と言うとんでもないイベントである。包丁を持って気になる彼に迫るが振られて自分に刺して死亡という……イベント


これが起こった瞬間、僕たち先輩組は凍り付いた。僕たちは一切互いに打ち合わせとかしていないが、何だかんだコハクちゃんが一番元気ないから励まそうとしていたのにそれができなかったからだ。


コハクちゃんはズーンと沈んで『やっぱり負け犬だ』と呟きそれから場の空気が……そのままお開き。皆で川の字で就寝である。


やっぱり、コハクちゃんを元気づけられるのは……彼しかいない。彼は人の好意にはかなり敏感な方だ。でも、好意にどう接するかは全く分からない素人。


特に男女の特別な甘酸っぱいに感情にはかなり耐性が無い。だけど、彼の事だからきっと何か考えてはいると思う。多分だけど……




◆◆



何をどうしたらいいのか……今日、コハクの元気がないように見えた。どうかしたのかと聞いたら笑顔で何でもないと言っていたが実際はどうなんだろう……。


それに彼女の好意には何となくだが気付いている。そして、俺はコハクの事も好きだとも思う。だけど、火蓮に告白のようなことをしておいて直ぐにそう言った事を言うのはダメだよな……。火蓮を蔑ろにしてる気もする。だけど、コハクには何も言っていない。それもそれでどうなんだろう。



頭が痛くなる。不誠実だと思ってしまうとそれはしていいのか。どうなのか。ドツボにはまっていく。そして、バッドエンドのこともある。一体どうすれば……

この間は性格とかが上手くかみ合って回避できたが他の四天王が来るなら、次はそうはいかない。俺には倒せない領域だ。だからこそ


――彼女達の中間パワーアップもしないといけない。


出来るだけ速く……そのためには異界のアルテミスに行かないと……


でも、それに集中して、コハクの好意を後回しにして蔑ろにしていいのか……だからといって不誠実に……


火蓮とコハクの違いは想いを伝えあったかどうか、そこが大きいと思う。想いが伝わるとそれがどんなに尊くて、素晴らしくて偉大であると知る。


どうする……どうする……どうする……


夜は更けていく。しかし、答えは出なかった。



◆◆



「では、世界の防護壁ワールド・ボーダーを開いてくれるのですね」

「うむ。かなり議論に時間がかかったが魔族と戦ってくれるの者たちの頼みなら聞こうと言うことになった」

「分かりました」

「うむ、ではここら辺で」

「はい、ありがとうございます」


メルの通信が切れる。相手はアルテミスのメルの暮らしていた国の王であった。これで十六夜が異世界に行けることになる。


十六夜が行きたい理由は一つ、中間パワーアップがしたいと言う理由一つだけである。


その、中間パワーアップアイテムが神殿に隠されている。難攻不落と言われている。妖精族の誰もが挑んだが失敗した伝説。



本来ならそれを、12月ごろにメルが神殿を攻略し、中間パワーアップを果たすのだが……第二のバッドエンドにより、そんな悠長なことは言っていられないのだ。

何故なら、中間パワーアップアイテムは使いこなすのに時間がかかるので、出来るだけ速くの入手が求められることを十六夜は理解している。




つまり、



十六夜君の異世界神殿攻略が始まる











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