第80話 アジと占い
俺は再び占い師へと電話をかける。理由は本来とは違いすぎる『ストーリー』の流れだ。もし、あの時ライオンに……と考えることも出来る。何が起こっているのか分かるのであれば聞きたい。
「もしもし」
「……も、し、もし」
彼女の声は全く覇気が無く以前のような自信あふれる声はどこに行ってしまったのか。
「どうしたんですか?」
「い、や、最近、変な夢を見すぎての……睡眠が足りん……」
「そ、そうですか……」
良心が痛むが仕方ない、彼女に占いをお願いしよう。
「あの、占いをお願いしたいんですけど……」
「うむ……分かった……」
力なく彼女は呟き数秒経過する。するとやはり直ぐに占いの結果が出る。運だけは俺は良い。
「お主の周りにいる……四人、それぞれに再び黒雲のような靄が掛かっている。だが、紅蓮の赤は回避されている」
「やっぱり……一人に二つも災厄が振りかかるとかあるんでしょうか?」
「我もこのようなことは前例がないから分からんが……一度回避したのだが……再び生まれたのか、そこらへんは分からんが……そもそも二つあったか……」
一つ回避したらもう一つなんてありえるのか? 『ifストーリー』にはそんな感じの話なんて無かった。イレギュラーなのか何なのか分からないけど……恐らく中ボスであるライオンが来たから残りの三人もどんどん来るのではないかと勝手に予想はしている。
「あの、あの大海の青の顔は知ってますよね? なので至光の銀白、稲妻の黄の写真を送るので三人共占ってもらっていいですか?」
「分かった……いったん切るぞ……我は寝る……ああ、それと他の三人はまだ最悪は先じゃ、それだけ……」
「よろしくお願いします」
プツンと電話が切れる。大分やつれてたな……
彼女にもいろいろ事情とかあるんだろう。そんな中協力してくれるのだから感謝。
写真は前の集合写真を送って、片海アオイの顔は知ってるから彼女に占ってもらおう。
後は、出来る事をしないと……来るべき災厄。残りの四天王と仮定して、ならば異世界アルテミスに行ければ全てが解決できる。
これからを考えながら俺は一旦、リビングに向かった。
◆◆
私は一人寝室で電話をかける。数回コールすると繋がり、私はママに話し始める。聞きたいことは今現在の私の事情を踏まえて、今後どうすればよいかと言う事である。
「もしもし、ママ?」
「そうよ、どうしたの? 十六夜君と婚約の報告? それとも恋人関係になった事の報告?」
「……それ以前の問題……」
いきなりのママの期待するような声。それが私の心に重くのしかかる。現在の私の状況は前と全く進歩していない
いや、寧ろ……後退しまくっているともいえるからだ。
「……大分元気ないのね……何かあった?」
「うん……その、端的に言うと……前より十六夜の事が……その、好きって言うか……良い感じに見えて……そのせいで、まともに話せなくて……思ってる事と反対のこと言ったり、全く心にもない事言っちゃうから……どうしたらいいかなって……」
ママには魔装少女の事は秘密だから、ここに至る事情は言えない。だから、省いて伝える。
「そう……難しいわね。私も最近までそういう状況と言えるような感じだったから……」
ママの声は深刻そうで後悔するような声だった。パパとママの離婚騒動。あれも助けてくれたのは、手を伸ばしてくれたのは……そう思うと頬が熱くなる。
「でも、やっぱり向き合っていくしかないのよ。いくら伝えずらくても、正直に真っすぐ……じゃないと進めない。それをあの人と火蓮と十六夜君が教えてくれた」
「……」
「だから、頑張って。私からはそうとしか言えない。大丈夫、貴方は誰よりも出来る子。勇気もある子。絶対できる。だから、前みたいに一歩踏み出して」
「うん……ありがとう、ママ。頑張ってみる」
「頑張って……また何かあればいつでも言ってね。それじゃ、またね」
「うん、また……」
ママとの電話が終わる。
ママが背中を押してくれた。やればできるって言ってくれた。よーし、やってやろうじゃない!!
話すだけ、前みたいに話すだけ。アニメの話でも漫画でもラノベでも、何気ない日常的な話でもいい。話せないなら話せるまで話す。ただそれだけでいい。
その考えで私は取りあえず十六夜の元に向かう。ここは十六夜の家なので直ぐに見つけることが出来るのだが……普通に考えて一つ下の男の家に住むってヤバくない?
今更感半端ないけど……今考えるとかなりアタフタしてくる。そんな中家中を探しているとリビングに到着。
入る。
というわけで……家主の十六夜が現れた!!!
「あ、あ、えっと」
「どうかしました?」
き、き、緊張してきたぁぁぁ!! お、落ち着け。先ずは世間話から……
「さ、最近熱いわね……」
「そ、そうですね。夏ですから……」
「き、気温も高いわね……」
「そう、ですね。夏ですから」
「……どうして、こんなに暑いのかしら?」
「えっと、夏だからだと思います……後は地球温暖化ですかね?」
や、やばい。十六夜も何を話していいか分からないって顔してる。私も何を話しているのか分からない。まずい、非常に不味い。最近私がツンツンしすぎて距離が出来始めてる気がする……
このまま離れ離れなんかに……いや、今は考えるべきではない。
世間話は失敗。しかし、私には、私達には二次元ネタがある。これで挽回よ。落ち着け、私は年上。十六夜は年下。
年上の貫禄を見せつけつつ精神を統一するのよ。
「そう言えば、最近、面白そうな新作のラノベが出たの……」
「どんなあらすじなんですか?」
十六夜が興味深そうに聞き返す。ようやく前みたいに話せる感じになって嬉しいんだけど……タイトル何だっけ?
「ちょっと待って、ド忘れしたからスマホで確認する」
「はい」
やばい順調に少しでも行くと嬉しくて記憶が飛ぶ。誰が私がこんな感じになるなんて予想しただろう。ちょっと強がったり、思ってる事と逆を言ったり、それを分かったうえでわざとツンデレをしていた。
でも、本当にツンデレになるとこんなもどかしくて、ほんのちょっと話せるだけで嬉しすぎて自分を忘れてしまう。心が躍る。
スマホで新作ラノベを確認を……確認……確認……できない。十六夜の家のWi-Fiの調子が悪い……借りてる立場だからとやかくは言わないけど……
「あの、どうかしました?」
「ああ、うん、ちょっと……スマホの調子が……ッ!!」
十六夜が不思議そうに私の顔を見る。私も彼の顔を見る。彼の瞳に私が映り込むのが分かった。
彼の瞳、やさしくて強い、何度も見てきた。いつも支えてくれて誰よりもまっすぐ見てくれる。
『俺が背中を押します。何かあっても支えます。だからもう一回挑んでください!! 後悔する貴方を俺は見たくない!!』
『おかげで私たち家族の蟠りが大分解消したわ。全部十六夜のおかげよ。本当にありがとう』
『先輩たちが一歩踏み出したからですよ。俺は背中を押しただけですから全部俺のおかげではないです』
唐突に過去の記憶がフラッシュバックする。どうして、今になって……ようやく鼓動が落ち着いてきたのに……
『貴方が無事でよかった』
震える脚を奮い立たせてあの時、私の前に立ってくれた彼。それを思い出す。
次の瞬間、
――脳が沸騰した
「えっと、火原先輩?」
「ッ! ……わ、Wi-Fiの電波弱すぎ!! ルーター変えなさいよ!!!」
「す、すいません。朝は調子いいんですけど……それ以外は偶に調子悪い時があって……」
やって、しまった……そんなことを言うつもりなんて全くなかったのに。変な事で怒ってしまった。十六夜は悪くなんて無いのに……
最低だ……
私はそこから走って離脱して寝室に向かった。
「先輩!?」
あの日と同じ、あの時と同じ、言いたいことが言えず何度も同じこと繰り返す。結局私は変わっていない。
情けない、情けない、情けない。
意気地なし。ママに励まして貰ったのに、十六夜に何度も突っぱねた態度。
最悪最低、人徳がない、そう言われても可笑しくない。
きっと彼もいつか私を嫌ってしまうだろう。今は優しさで笑ってくれるけど、いつか、呆れて見限って離れていってしまうだろう。
でも、それが嫌だとも思ってる。自分勝手が過ぎる。自分がこんなに情けなくて、どうしようもない女なんて知らなかった。
私はその場から逃げるように去った。魔装を纏って
靴を履いて家を出て……何処に向かう訳もなく、風すら置き去りにする速さでただ走った……
◆◆
火原火蓮とは最近、なかなか話せない事が多い。彼女がかなりツンツンして『本来』とは違いすぎて何をどうしたらいいのか……分からない。あそこまで彼女がツンツンする理由は何なんだろう。
同居生活にストレスでも感じてしまったのか。俺を嫌ってしまったのか……いや、それは無い……よな? そうだったら悲しいどころの話じゃない。
追うか、追わないか。そう聞かれたら勿論追う。ただ、彼女が俺を嫌いになってしまったなら……そう思うと心臓が痛い。
だが、何かあるなら行かないと。不安があるなら聞くし、改善してほしいところがあるなら直す。
彼女は魔装を纏って出て行った。俺も魔装を纏わないと追いつけない。急いで纏い外に出る。
しかし、彼女の姿は何処にもなく見渡すことが出来る場所に行き、町全体を見渡しても見つからない。
異常ともいえる猛スピードを彼女は出すことが出来る。そして、俺は彼女がいきなり出て行ったことで出遅れてしまった。僅かな時間出遅れただけだがそれがとんでもない距離を作り出す。
何処に行った……
人の家の屋根から屋根を飛んだり、銭湯の煙突に乗っても見つからない。気付けば何時間も見つからず焦りを俺は覚えていた。
こういう時、彼女なら何処に行く?
分かってるはずなのに分からない。知っているはずなのに知らない。そう言った矛盾した感情が渦巻く。
思考しながらも動き回り、日が落ち始めオレンジ色に町は染まって行く。
焦りに焦って……どうしたらいいか分からない。そう思ったその時、
ふと何となくだがあの公園が頭に浮かんだ。
あの日、彼女と向き合った場所。
まだ、あそこは見ていなかった。そう思いその場所に走った。
◆◆
夕日に照らされる錆びれた公園。子供たちはもう帰り始め、滅多に使われない公園には誰もいないと思う位静かだ。
しかし、その寂びれた公園のくたびれたベンチに赤いセーラー服に身を包んだ少女が体育座りして顔を膝に埋めていた。
見つけた。と俺は戸惑いながらも彼女の元に向かう。そして、彼女の元に近寄りベンチに腰を下ろす。
「あの、火原先輩? 何か不安とか悩みでもあるんですか? 何かあったら聞きますよ?」
「……」
「もう、遅いですし一旦家に帰りませんか? そこで話を……」
火原火蓮は絞り出すような声を発しながら首を振った。
「放っておいて……」
「それは無理です。貴方を放ってはおけない」
「もういい、私はこのまま……一人が好きだから放っておいて」
彼女はずっと体育座りで目を合わせずただか弱い声を出すだけだった。本当に大きな悩みでもあるんだろうか。
「そんなのは出来ないです」
「放っておいてよ……」
「嫌です」
「どっか行って」
「此処にいます」
「いいから……どっか行って!」
彼女の大きな声に僅かに驚きを隠せない。彼女が俺を拒絶する。
前とは違う。前はその理由が分かった。家族と言う絆にひびが入りそこに踏み入るのが怖くて、それを変えたくても何もできずそこに触れてしまったから彼女は拒絶したように振る舞った。
でも、今は分からない。本当に拒絶されてしまったのかもしれない。
多分、いや絶対に彼女に拒絶されたら俺はショックで寝込んでしまうだろう。怖い、彼女に踏み込むことが。
何より怖い、拒絶されるのが。
だけど、やっぱり俺は彼女が好きだ。彼女達が好きなんだ。
そんな状況を見過ごせない。俺は嫌われても拒絶されても何としても彼女と向き合う。
「絶対に行きません……俺は貴方が泣いていたら絶対見過ごせないんです。だから、言ってください」
正直、嫌われたくはない。でも、前から決めていたことだ。彼女達の為なら何でもやるって。どんな結果になってもいいって。
「ッ!……意味わかんないのよ! 私は一人が良いって言ってる! 何で放っておいてくれないのよ!」
彼女が膝から顔を離し、俺を見る。彼女の顔は目元が腫れていた。きっと泣いていたんだろう。
彼女の顔から涙が落ちる。ぽろぽろと落ちていく。泣き顔を見せる彼女を見て俺が知っているどの顔でもない彼女だと分かる。
彼女の疑問に俺は嘘をつくべきでない。本心を言わないと意味がない、言わないといけないと分かった。そうしないと変わらない事も。
彼女の疑問の答えは簡単だ。ずっと前から分かっていた。だから言おう。
だけど、この答えには少し齟齬がある。俺は確かに彼女達が好きだ。何よりも大事で何よりも優先するべきこと。
だけど、俺は彼女達を何処か……『キャラ』として見ていたんだ。その常識が抜け切れていなかった。
だから、自分が思っていた行動と違う行動をすれば戸惑ってしまう。
だけど、そんなのは当たり前だったんだ。
人は変わって行く。それは彼女達も。俺と関わって行く中で彼女達は変わりつつあるんだ。それを、そんな当たり前のことを俺は分かっていなかった。
俺は好きだ。彼女が『キャラ』として、だけど『一人の女性』としも。それを自覚して今。心臓が大きく高鳴り始める。
二次元の話をしてる時、偶に照れる時、他の女の子と話していると嫉妬して頬を膨らませる時、ツンツンしてるとき。
笑っているとき。知らない顔の時も態度の時も、
全部が好きだ。
「俺は死んでも
「え? う、嘘……」
「嘘じゃない。だから言ってくれ。何でもする。何でも。君が泣かないでくれるなら」
「あ、いや、その……」
彼女は戸惑いながらもその瞳から涙が零れ落ちる。それがドンドン強くなり彼女の涙が止まらない。
手で何度も彼女は目元を拭う。しかし、それで全てを拭う事は出来ない、次々から次にもう滝のように出てくるからだ。
「い、言う」
「そうですか! ではどうぞ!」
「で、でも…………ちょ、ちょっとここで待ってて」
彼女は泣きながら、かすれた声で言うと大急ぎでその場から離脱した。その時の彼女は風なんかよりも速く、光のような速さだった。
彼女が去ると一人寂びれた公園で一人。
すると途端に冷静になる。
いや、好きって言ってしまった!!
ムードとか考えろよ!! そもそも精神年齢年下JKに告白って何か不味くない!?
犯罪じゃない!?
しかも、何か敬語じゃないし! 途端にイキってタメ語使ってるし! それがますます恥ずかしい!
でも、話してくれるって言ったしそれは良かったのか? ちょっと待っててと言ったがそのまま帰られたりしないよな? 大丈夫だよな?
生暖かい風に吹かれながら彼女を待った。
◆◆
えええええええ!?
こ、告白されちゃったんですけど!?
もう、涙完全に引っ込んじゃった……嬉しすぎてニヤニヤが止まらない。ちょっと待って……
冷静になろう。冷静になろう。冷静になろう。氷のように、氷属性のように。冷静に、冷静に……
……告白されちゃったんですけど!?
いや、無理無理! この状況で冷静は無理でしょう!? いきなり過ぎない!? いや、嬉しいよ、最高だよ。でも、心の準備が出来ていないし、今の私は思ったことがなかなか言えないから時間を設けた。
私がこんなに嬉しいのは彼から好きと言って貰った事だけじゃない。最近ずっと感じていた私と、いや私達と彼の壁。薄くて見えないけど絶対にあると感じていた壁にヒビが入ったような気がしたからだ。
でも、まだそこにある。ガラスの壁のように私達を隔てていた。
多分、私が行かないと壊れない。片方じゃなくて両方で行かないとダメなんだと思う。でも、今の私にはどうすることもできない。
思ったように話すことも伝えることも……
だけど、十六夜があんなに言ってくれたのに……諦めたくない。だから、あの時みたいに……踏み出す。
私は十六夜の家に入り急いで手紙を綴った。魔力で作られた自室に入って机に向かい合っていると萌黄が入ってくる。
「火蓮ちゃん、どこ行ってたの? もう、心配したんだよ? あれ? 彼と一緒じゃないの?」
「ごめん、直ぐに私出かけるから。先ご飯食べてて」
「また出かけるの?」
「うん」
手紙を書き終えたら急いで家からでた。これで本当に彼に伝わるか分からない。
壁が壊れるか分からない。想いが伝えられるか……また傷つけるようになってしまうと思うと怖い。だけど、何度でも……挑んでやる。
公園に到着すると彼の隣に座って手紙を広げる。顔が熱い。顔だけじゃない体も心の全部熱い、マグマのように自分が燃えていると錯覚する。
「十六夜、聞いて」
「は、はい」
「私は、十六夜のことが、す、す、す、好きです!」
手紙に記した本心、私の全てを彼に向かって伝える。恥ずかしい、心臓が飛び出しそう。
「家族を救って貰って、どんな時でも優しくてカッコよくて、一生懸命な貴方がす、好きです。世界一好きです。でも、私は最近、思ってる事と反対のことを言ったり、思ってもない事を言って貴方を傷つけてしまう。でも、それでもあなたと一緒に居たい。ずっと、ずっと一緒に居たい。貴方が遠く感じる時もあります。大きな壁が私達にはあるように感じる時もあります。意味が分からないかもしれないけどそう思うんです……」
「だけど、一緒に居たいんです」
「こんな世界一めんどくさい私ですけど……あなたと一緒居てもいいですか?」
獄炎の火山かなにかなのか。熱すぎて溶けそう。十六夜は目をキョロキョロさせてアタフタして顔を真っ赤にして……
「あ、当たり前です。そ、そんな貴方が好きなんですから……」
……伝わった。そう思うと再び涙が止まらない。嬉しくて体が軽い。私は気付いたら十六夜に身を預けていた。公園で抱き合う二人、とてもロマンチックな感じだ。
「……えっと、正直、俺嫌われたかもって思ってました……よかった、火原先輩に嫌われてなくて」
十六夜がポツリと不安をこぼした。これまで彼がこういった事を言う事は無かった。私はそれに僅かな嬉しさを感じて、同時に自分がどうしようもない存在だと思った。
もう、手紙に続きはない。気持ちを綴った手紙はない。
でも、もう少しだけ……頑張れ、私。
やはり、手紙じゃないと難しい。彼の前だと上手く考えが纏まらない。頑張れ、私!!
「……勘違いしないで。私、十六夜の事が大好きなんだから……」
◆◆
もう、完全に日は暮れた夜道。
二人組の男女が歩いていた。一人はアジフライのような少年で一人は精霊のように美しい少女。互いに顔を赤くして勢いで色々やり過ぎたと反省しながらそれでも互いに歩幅を合わせる。
不意に少女の手の甲が少年に当たった。少年は最初は偶然かと思ったが、それは一度じゃない、何度も何度も当たって、それが少女の意思表示だと少年は気付いた。
少年は少女の手を取った。
「「ッ!」」
互いに何も言わず、ただ只管に一緒に歩く、だけどその手を互いに握りながら
両者共にこの時の心境は一緒だった
――手汗ヤバい……ウエットティッシュで拭いておけばよかった
――でも、尊い
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