第79話 銀には体重はタブー
とある女性が雪降る中、街を歩いていた。すれ違う者達はカップルだらけ。何となく自身に寂しさを覚えてため息を吐く。
白い吐息を吐きながら進んでいく。
『救済の物語と言っても全く思いつかない……鈍ったのか?私も。 ハッピーエンドが思いつかないとは……』
彼女は頭を回して新たなるビジョン獲得の為にお出かけをしているようだ。彼女は景色を見ながら歩き続ける。
冷たい風が彼女を突き抜ける。
『ファンにも悪い事をしたなぁ、応援してくれた人も多かったのに……今度の主人公は……ラッキースケベ多めでサービスシーンを多くしよう。後、魔装少女が添い寝したとき何故か寝相が悪くなってエッチな展開になるのも追加しよう』
独り言を呟く。傍から見たらやべー奴だが彼女には気にしてる余裕はなかった。ファンが大炎上して罵詈雑言がネット上に飛び交っていた。
しかし、殆どが悲しみの声。それを彼女は悪いと思っていた
『今の所、主人公の名前と助っ人が占い師しか思いつかないしな……性別とか……性格とか……これって言うのが思いつかない……スランプかな……』
アイデアが振ってこないと思いながら歩いていると……信じられない事が彼女の前で起こる。
トラックが制御を誤り彼女の元に突進をしてくる。猪突猛進のトラック。彼女は咄嗟によけようとするのだが彼女の前には小さい子供がいた。その子を突き飛ばし自分もトラックから回避しようとするが……
――大きな鈍い音が鳴った
『あ……れ……? も、し、か……して……死ぬ?』
周りでは一般人の悲鳴が聞こえる。彼女が守った子供は何とか生きているようだ。
何て唐突でとんでもない幕切れ。自身の終わりを悟り、彼女の頭の中には走馬灯がよぎっていた。
記念すべき彼女の書いたライトノベルの一巻発売。彼女は本屋でずっと積み上げられた自身の本を隠れて眺めていた。
買え。買え。買え。買ってくれ。そう思念を送りながら……
周りからひそひそ話されたり店員には二度見されながらもずっと監視し続けた。そして誰かが手に取ると飛んで喜ぶ。
そして、彼女はネットで反響を調べた。面白いと言う人や中には全く面白くないと言う人さまざま。
面白くないと聞くと彼女は萎えて、豚骨ラーメンをやけ食いして二キロ太る。そこからまた痩せる。
面白いと聞くと嬉しくなって豚骨ラーメンを替え玉で大食いして太る、そこからまた痩せる、そういう生活を繰り返していた。
いつからか大ヒットして、アニメ化もして喜んで……でも、時代は変わって……
訳の分からない最悪の物語を書いて……
そして……
――ああ……これは罰……か……
彼女はそう思ってしまった。栄光を穢した自分への。
――彼女達には申し訳ない事をした……最後にハッピーエンドになる物語を描きたかった……
それは彼女の後悔。彼女にはドンドン後悔が湧いてきた。救済の物語も描けず、プロット、主人公の設定すら考えられなかった。
――主人公……彼女達を愛する者、真っすぐな者、自分を顧みず、魔力もあって……そんな感じに……今になって少しづつ思いついてきた……安直だがそんな人が……
走馬灯と思い出し、後悔に沈みながら……彼女は……
願った。そんな人が彼女達を救って欲しいと
◆◆
彼と火蓮ちゃんが帰ってきた。事情を聴くと訳の分からないライオンを上手いことをして倒したらしい。相変わらずとんでもない。
アオイちゃんは帰ってきた二人を見ると僅かに瞳から涙をこぼしていた。
そして、コハクちゃんは……
「十六夜君……良かった……」
「あ、そ、そのぎ、銀堂さん……当たってます……」
コハクちゃんが彼に抱き着く。いいなぁ、コハクちゃん……間違った……彼が羨ましいだった。
それにしてもコハクちゃん……目からハイライト消えてない? 気のせいだと思うんだけど……後、あんな堂々と抱き着ける? 恥ずかしさとかどうでもよくなるくらい心配だったから後になって恥ずかしさとかくるのかも……
僕にも抱き着いてくれないかな~、彼……じゃなかった! コハクちゃん!
「ちょ、ちょっとそういうのやめなさいよ!!」
二人の抱き着きを見て火蓮ちゃんが怒り心頭で二人を引っぺがす。何というか……この感じ前にもあったような
「何ですか。邪魔しないでください」
「この家でそういうの禁止だから」
「いつできたんですか」
「今」
「ここは十六夜君の家です。貴方のルールは無効です」
「社会一般的にそういうのはダメでしょ。常識考えてくれる?」
「は?」
「あ?」
あ、あれー? おかしいぞー? 最近良い感じの雰囲気だったのにここに来て二人がメンチきって前みたいになってる。
それと彼も久しぶりに胃を押さえている。懐かしいなぁ。後、火蓮ちゃんの感じが少し変わっている気がする。
なんて言えばいいんだろう。こう、何と言うか、瞳の力強さと言うか、想いの強さと言うか、火に油を注いでしまったと言うか。
そして、コハクちゃんもそれが伝染した気がする。二人は前から相性は良さそうだった。いい意味でも悪い意味でも。
火蓮ちゃんが燃え始めたら……
「そもそも前から貴方が気に喰わなかったんです!」
「私もよ、って言うかコハク……少し太ったんじゃない?」
「はぁぁぁ!? キープしてますぅ! めっちゃ気遣ってますぅ!! ギリ誤差に納めてますぅ!!」
「そう? 前よりポッチャリしてない? 特にお腹のぜい肉……キープ出来てないでしょ」
「さ、最近、肩甲骨のトレーニングと腹筋のトレーニングと、縄跳びを始めましたから絶対超スリムになります!!!!!」
そう言えばコハクちゃんって体重とか体型とか物凄く気にするんだよなぁ……前に……
『え? え? え? う、嘘……え? 何で』
『どうしたのコハクちゃん?』
彼女が体重計に乗って青ざめていたのを発見した。下着姿でお風呂に入る前に体重を測っているようだった。
『よ、六百グラム……太ってました……』
『なーんだ。そんなの誤差じゃん』
『い、いえ。このまま、いいいいいい、行ったら……重さで地盤を貫通して星の裏側に行ってしまうかも……さらに十六夜君から幻滅されて……あわわわわわ、ど、どうにかしないと……』
『いやいやいやいや考え過ぎだって。十分スリムだよ? 全く太ってない。可愛くて最高だよ!! 太ってないし、体型だって女の理想だよ!! モデルみたい!』
この時の僕はフォローをしたつもりだったんだけど、同時に本当の事も言っていた。彼女はちょっと考えすぎだから気にしなくていいよって事を伝えようとしていた。
『……先輩、ちょっとそこで脱いでもらっていいですか?』
彼女が疑いの眼差しを向けて僕に話してきた
『あ、うん。良いけど』
僕は服を脱ぎ下着姿になると下から上までじっくりと観察をした。何というかこの時の彼女に見られるとちょっと緊張した。
『嫌味ですか?』
『ええ!? 何が!?』
その後、彼女はいきなり怒ったように僕に言葉をぶつけてきた。苦虫を嚙み潰したように顔を歪め目はちょっと怖い
『コハクちゃんはちょっとポッチャリだけど気にしなくていいよぉぉ。まぁ、僕のスタイルは鬼だけどねぇ……みたいなことを言いたいんですよね?』
『偏見、偏見!!! そんなことないって! 純粋に褒めてるだけだって!! って言うか鬼ってナニ!?』
『本当にそうですか? 異常なほどの細くてエッチい足。引き締まったお腹。形が良くて結構大きい胸……嫌味ですか? どうせ、私は豚ですよ……』
『だから違うって!! 話聞いて!!』
彼女に体型の話はタブーだと言う事を僕は悟った。そして、そこに更にアオイちゃんもやってくる。
『何騒いでんの?』
とんでもない助っ人が現れてくれた。この時のコハクちゃんは何を言っても嫌味にしかとらない程、体重とか体型に悩んでいた。ここでアオイちゃんも言ってくれれば説得力が増す。
『アオイちゃん、良いところに! コハクちゃん、全然太ってないよね!?』
『え? あ、うん、そだね。太ってないよ』
アオイちゃんはその場の空気を察してくれたようで直ぐにフォローをしてくれた。しかし……
『アオイ先輩そこで脱いでもらっていいですか……』
『いいけど……』
アオイちゃんが服を脱ぐ。やっぱりと言うかアオイちゃんは引き締まった肉体美で胸もあって何というか……程よい感じ……ちょっとエッチぃ、言い方だけど……引き締まっていい感じなのだ……
今すぐにでも褒めちぎりたい所だが……捻くれたコハクちゃんの前では……
『またですか?? ……そうやって先輩二人でぽちゃぽちゃした、私をぽちゃ子ちゃん扱いですか……』
『そ、そんなことないって……』
『アンタ十分スリムだよ。ほら、皮下脂肪も……』
そう言ってアオイちゃんはコハクちゃんの横腹に触り、優しく摘まむ。ほら、全然ない……あ、ちょっと思ったよりあるかも……
『ない、ジャン……』
アオイちゃんもつまんでみると思ったよりあったみたいで言葉に詰まってしまう。自慢ではないが僕は皮下脂肪が殆どない……アオイちゃんも……かなり捻くれたコハクちゃんには、いや、年頃の乙女にはかなりの嫌味行為に取られてしまう可能性もあるかもしれない……
『今、あ、この豚、思ったより脂身が乗っていて食べごろだなって思いましたね?』
『いや、そこまでは……』
『もういいです。先輩が二人して虐めるのでもうお風呂入ります』
一人、どよーんと影を落としながらお風呂に入って行く。この時、僕たち二人は決めた。
『アイツには体型と体重についてはタブーみたいだね」
『そ、そうだね……大分ひねくれちゃたみたいだし……』
この後、コハクちゃんが自分の不徳の無さを僕たちにぶつけてしまい、失礼な態度をしたと謝罪してくれた。
こういう事があったので嫌が応にもその話はしなかったんだけど……火蓮ちゃんが爆弾を落とした。
火蓮ちゃんもスリムで全く体型維持とか気にしないらしい。しかも、痩せ体質。この間も夜に一人ポテトチップを割りばしで食べていた。それを見たコハクちゃんが親の仇を見るような目で火蓮ちゃんを見ていたのを知っている。
火蓮ちゃん……体型とか言うのは止めておこう。特に最近は彼が近くにいるから余計に気にしてるらしいし……
僕はこの騒動が一旦落ち着いたら火蓮ちゃんにそれとなく助言しようと決めた。
◆◆
最近の私は何処か可笑しい。
十六夜に助けてもらってから何というか……十六夜に素直になれない。前はまだ話すくらいなら容易だった。
だけど、今は面と向かうことですら心臓がスライムのように跳ねて、体中が熱くなって、脳が沸騰する。
そのせいで何を言っていいか分からずオーバーヒート。そして、遺伝と思われるツンデレ体質。この二つでついつい天邪鬼のように反対の事を言ってしまったり、思ってもいない事を言ってしまう。
助けてもらった次の日の朝も……
おはようと言うつもりだった。
目のまえに寝間着姿の十六夜……
「お、お、お……」
まさかの『お』で止まる。たった四文字。それが言えない……胸が苦しい。鼓動がドンドン大きくなり頭が沸騰する。眼がぐるぐると回っているような錯覚を受ける。
「おにぎりが朝ごはんだからとっとと食べてくれる? 片付けられないから」
もう、最悪!! とんでもないほどの嫌味な女と思われても可笑しくない。それなのに十六夜は
「すいません。急いでいただきますね」
全然怒んない。寧ろ俺が悪いから仕方ない的な感じである。ママが言っていたことはこういう事だったんだ……そう思った。
親子で好きになれば成程、どうしていいか分からないツンデレ体質……とんでもなく厄介な体質だ……
普通ならベタぼれで積極的にアタックをしたい所。しかし、それができない。その癖に十六夜が女の子と仲良くするとムカムカして嫉妬して、ついつい強く当たってしまう。
こんなのは……最早、悪役令嬢より質が悪いかもしれない。
こんなんではデートなんか誘えない。言いたいことが言えず、何を言っていいか分からなくなる。これではいけない。
そして、最近になって十六夜を遠くに感じることもありそれが焦りにも繋がる。
十六夜は一歩引いているような、私達には壁があるような……そんな感じもしている。
この現状を打破したい。何としても……そのためには……
――先ずは……ツンデレママに相談しよう
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