紅蓮革命

第75話 別世界の作者

 とある部屋に女性が万年筆を走らせ原稿用紙を文字で埋めていく。机には沢山の資料があり、女性は袢纏を纏い寒さを凌ぎながらも必死に描く。



 その時、机に置いてあった携帯に電話が掛かってくる。女性は一度万年筆を止め電話を取る。


『もしもし……』


彼女は重苦しくも声を発する。


『はい……四巻は書き終わりました……内容はどんな感じか? ……そうですね……ざっくり話すと……海原町の伝承を新たに設定に加えて更に夢の世界を支配する妖怪を加えました。片海アオイは妖怪に全身を何度も喰いちぎられて最後には魂を喰われると言うものです』


ウンザリしながらも彼女は淡々と話を進める。そして相手からの発せられる要望に眉を顰める。


『はい……魔装を得てからのバッドエンドですね……先ずは赤井火蓮の話を書いて欲しいと? 順番はそちらで決めたいと? 上が? はい……分かりました……』


次々と要求がなされていく。会社側からの要求を彼女は断らない。いや、とある恩人からの要求を……


『今回は残虐性のある物が良いと……検討して見ます』


そういうと彼女は電話を切った。その後携帯を投げるように机に置くと独り言のように呟く。


『はぁ……赤井火蓮、いや描く時期の時は火原火蓮か……描きたくないが……夏休み最後に……『中盤』の敵キャラを……』



◆◆


遂に彼女が彼の家にやってきた。沢山の段ボールの中に彼女の荷物が入っていて僕たちも引越しの手伝いをする。


僕たちの荷物は魔法の部屋に置いてあるので彼女の荷物もそこで広げて整理する。今は僕と彼女の二人きり。


彼女とは気が合いそうな気がしている……勘だけど。コハクちゃんと火蓮ちゃんは最近落ち着きを見せているがいつ前みたいに暴走するかは分からない。彼女達は片方が暴走すると連鎖的にもう片方も暴走する。


だからこそ今の現状は平穏そのものだ……だけど暴走したとき彼女が居れば二人で乗り切れる感じがしている。


前みたいに一人で恐怖することはない。いや、アオイちゃんありがとう!


「アオイちゃんこの段ボールは何?」

「それはあーしの服」

「開けて良い?」

「いいよ」


彼女の服を整理するために段ボールを開ける。確かに服が入っている……


パーカー、その下にパーカー、その下にもパーカー……いや、まさか……他の段ボールを開ける……パーカー、パーカー、ちょっと良い感じのシャツ、パーカー……ジーパン、レディースパンツ、パーカー……


「ねぇ、アオイちゃんって……パーカー好き?」

「え? 当たり前じゃん。パーカーって人類に置いて最も重宝すべき服だもん」

「……そうなのかな?」

「そうだよ、動きやすい、気軽に纏える、寒い時はポケットに手を入れられる……」


彼女はまさかのパーカー信者らしい。個性があって良いと思うけどアオイちゃんはそれ以外も似合うと思うんだけどな……


「何よりフードがある。パーカーのフードってさ……被ったら……無敵な感じしない?」


 彼女は結構なドヤ顔で僕に告げた。ちょっと大袈裟かな


「しないと思うけど……でも、アオイちゃんが可愛いって意味なら無敵かも」

「……お世辞言っても何も出ないよ」

「いやいや本心だよ」

「あっそ…………今度ジュース奢る」


あら、可愛い……彼女はちょっと照れ臭そうにしながらも嬉しそうだ。あんまり表情に変化はないけどそう感じる。ジュースも奢ってくれるらしいし完全に喜んでる。



◆◆



 俺は彼女の荷物である段ボールを運びその後、訓練でもしようかと思っている。何事も準備をしておかないとさらに今やれることもやっておかないとな。


 リビングに一度戻り一旦喉を潤そうと冷蔵庫を開ける。ペットボトルに入った水を発見……それをとりだし、それを口に含む……


 それをごくりと飲み込む。


 その時、俺の体が発光してそこから意思が飛んでしまった……



◆◆



 荷物を整理した僕たちは休憩するためにリビングに向かう。廊下を歩いているとメルちゃんが研究室から出てくる。


 この家……大分改造されてるけど……大丈夫なんだろうか……彼の親とか怒ったりしないかな?


「荷物整理終わったんか?」

「終わった」

「それなら皆でおやつタイムやで」

「そだね」


メルちゃんと特に反応を示さないアオイちゃんに見えるがおやつと聞いて少し足踏みが軽くなった事に僕は気付いた。


そして、三人でリビングに向かうと……冷蔵庫が置いてある下あたりに服が落ちていた……彼の服だ……。さらにペットボトルが倒れており中の水が散乱している。


「あれ? 何でアイツの服が……」

「水もこぼしてあるし……」

「嗚呼ーー! この水、ワイが作った幼児化の水やないか!!」


メルちゃんが大声をあげて水を指さす。幼児化ってナニ!? どんな水!? 


「何それ? 何でそんなの作ったの?」

「十六夜はんに作ってって頼まれたんや。不意打ちに使えるからって」

「なにそれ……」

「それじゃあ……服が散乱してるのって彼が幼児化して何処かに行ったからって事?」

「恐らく……実はまだこれ試作品なんや。体が幼児化になると心まで幼児のようになってしまうと言う欠点があるから……取りあえずペットボトルに入れて冷やしといたんや」

「何でそんなことすんの?」


彼女のツッコミがさえる。僕も全く同じことを思っていた。それより彼は何処に行ってしまったんだろう?


そう思っていたその時……リビングのドアが開く。


そこには……黒いローブを纏い、眼帯を左目につけ、右手には鎖を巻いており、何故かゴークルを頭につけ、家の中なのになぜか靴を履いている……幼児化の彼が……五歳くらい……


「我が名は黒騎士……混沌より生まれた神を超えし者……」


彼は眼帯がある左目に手を付け静かに声を上げる。ちょっと何言ってるか分からないけど可愛いかも



◆◆



「取りあえず……いつになったらこいつは直るの?」

「えっと、一日位で戻るはずや」

「それまでこのまま……」



二人が会話するなか僕は彼を見ていた。前から察しは付いていたけど厨二的なあれなんだ……


まぁ、これくらいの幼さなら可愛いですむよね……


コハクちゃんと火蓮ちゃんはお買い物で居ないけど二人が戻ってきたら……どうなるんだろう……


「覇王の目覚めは近い……」


いきなり何か言いだした……


彼はソファーに座りながらテレビで見ているのは子供用の番組。年齢相応の可愛さがある。ちょっとお話したい……



「えっと、ね、ねぇ」

「何だ」

「えっと夜ご飯は何食べたい?」

夕食ディナー夏野菜たっぷりカレー太陽の大いなる恵みによる混沌のエンドロール鶏肉から揚げフェニックスの頂きだな……」

「えっと……ごめん……良く分からないんだけど……」


彼の言ってることは全く分からない。ルビ振り過ぎじゃない? 


彼は子供用番組をみながらリズムに乗っている。歌のお兄さんとお姉さんが躍っているのを見て首を振っている。


それをしばらく見ると子供番組は終わってしまう。すると少し残念そうに顔に影が……何かしてあげたい


「えっと、お姉さんが遊んであげよっか?」

「ほう、言うじゃないか。ついてこれるか?」

「まだ、何するか言ってないよ」


彼は嬉しそうに嗤う。えっと何がしたいんだろう? このくらいの年齢の子供がする事って……なんだろう……


「何がしたいか言ってみて」

神の終焉戦争インフィニティ・ラグナロク

「無理かな……おままごと、鬼ごっこ、かくれんぼとかはどう?」

「鬼ごっこか……」


彼は少し考えるように瞳を閉じる。


「鬼ごっこにする?」

「俺が鬼なら一秒すら待たず全員を捕まえてしまう。逃げ役なら年号が変わっても捕まえられないから詰まらんな」

「あ、そう」

「かくれんぼも同様だ。鬼役なら俺の魔眼が隠れてる場所だけでなく個人情報まで見抜いてしまう。逆に隠れるとなると嘗て暗殺家業に身を置いておいた俺を見つけるなど砂漠から一個のビーズを見つける事の五億倍は難しい」

「あ、そう」


これが俗に言う黒歴史なのだろう。このやり取りを見ているアオイちゃんも生暖かい視線を彼に送る。


「じゃあ、おままごと?」

「いや、鬼ごっこだ」

「結局鬼ごっこなんだ」

「安心しろ人間の基準に合わせる」

「あ、うん。じゃあ、最初はお姉さんが鬼やってあげる。だから逃げて」

「フッ、一人で来られても面白くない……アオイとメルも来るが良い……三対一だ」


彼は自信満々に告げた。挑発的な宣言……仕方ないから乗ってあげてと二人に視線を送る。


「わかった。あーしもやる」

「あー、ワイはちょっと薬の調査するからパスするわ」

「そうか、なら二対一でいい。まぁ、どちらにしろ捕まえることなど不可能だがな」

「それじゃあ、十数えたら捕まえに行くから逃げて」

「いいだろう。ロケットスタート!」


彼は何故か走るときは腕と足を交互に出す方が速く走れるのに、腰を低くして両手を後ろに広げてロケットのように走り去る……


彼の様子を一通り見てアオイちゃんがメルに聞いた。


「あれはどうゆう状態?」

「記憶は残っとると思うんやけど……だけど、精神が幼いから思ったり感じたり、したいと思った事をすぐに実行したり口に出してしまったり無邪気さが目立っとるな……記憶が残ったままの幼児になった。そのままやな。まぁ、しばらくは遊んでやるとええで」

「わかった」


今はアオイちゃんだからいいけど二人が帰ってきたら……ああ、めんどくさいかもしれないな……久しぶりに胃がキリキリとする感じがする中、そろそろ追いかけないと彼が可哀そうだから僕はリビングを出る。


「それじゃあ、アオイちゃん一緒に捕まえよう」

「そだね」







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