第76話 厨二と稲妻
まだ二人が帰ってこない中、鬼ごっこをして彼と遊んであげた後に休憩の為に僕たちはテレビを見ていた。アオイちゃんは両親に電話中らしい。
この時間は子供用番組はやっていないので再放送のバラエティを見ている。彼を僕の膝の上にのせて……両腕で膝から落ちない様にシートベルトのように支える。彼と此処まで密着するなんて初めてではないかと思うと少しこそばゆい。
テレビではアイドルが身体測定をする企画をやっている。かなり人気の芸能人で面白いのだが彼は疲れたのか眠そうに膝の上でウトウトし始める。
「眠いの?」
「眠くない……俺は睡眠を必要としないからな……」
変な意地を張って眠いのに眠くないと言う。もって後五分かな? そんなことを思いつつテレビを見ていると芸能人の身体検査の前に全国の男女の身長平均が表示される。
女性の平均は……20歳で……160くらい……僕は……180……
『小柄で可愛いですね』
『いえいえ、そんなことないですよ』
テレビの中ではアイドルを褒めたたえる。小さくて顔も可愛いきゃぴきゃぴ系な感じだ。
『小さくて小動物みたいでそこが愛嬌ですよね』
やっぱり小さい方が可愛いのかな……僕なんて三人より頭一つ二つ位大きいし……彼よりも大きいし……
「気にするな」
――ポンっと頭に手が置かれた
「180位大したことじゃない」
「ッ!!」
膝の上にいた彼が僕の頭の上に手を置いていたのだ。心が読まれて少しびっくりする。
幼い精神ながらも慰めているのだろう
「実は俺には前世が百もあってな……その中に巨人の前世があるのだがその時の俺は全長五千メートルはあった」
「あ、そ、そうなんだ……」
頭をなでる彼にドキドキしてしまう。小さいのに彼は凄く大きく見える。
「その時の俺には誰にも近づけず頭の所まで来るものも一人もいなかった……だが、お前は違う。俺の手はお前の頭に簡単に届く」
そう言いながら彼は手で髪の毛を梳かすように撫でる。正直何を言ってるのか八割くらい分からないでも彼のやさしさは伝わった。そして……その撫で方に僕はある事を思い出す……
『萌黄は優しい子ね。いつもありがとう……』
お母さん……
「……たかが180センチだ。五千メートルに比べたら大したことじゃないから……えっと、つまり……えっと、何が言いたかったんだっけ……えっと、気にするな。うん、それが言いたかった」
こう言った事になれてないのか彼は恥ずかしそうにしながらそっぽを向いた。
僕は気付いたら彼を抱きしめていた。
彼は驚いたようにアタフタする。
「お、おい」
「そろそろお昼寝の時間だよ……僕があやしてあげる」
「べ、別にそういうのは……」
彼は口ではいらないと言うが体はあんまり拒まない。もしかして嬉しかったりするのかな?
「いいから、お姉ちゃんに任せて」
「あ、いや……」
「いいから、いいから」
僕は頭を撫で返す。遊んで疲れていた彼は直ぐに寝息を立て始めた……
「寝ちゃった?」
「……」
寝息を立て返事も帰ってこない。彼は本当に寝てしまったようだ。僕は彼を抱きながら独り言のように呟いてしまう。
「ねぇ、さっきのは反則だよ……あんな風に言われたらいやでも意識しちゃう」
「僕はね……皆で居るのが好きだから。基本的に踏み込まない様にしてるんだよ。そうすれば気持ちを抑えられるから」
「……君がね。コハクちゃんと火蓮ちゃんとアオイちゃんと話してるとき……何処か気持ちがざわつくんだ……でも、抑えらえる……だけど今日みたいなことされると嫌でも妬んじゃうよ……」
「僕を誑かすのも大概にしてね……」
◆◆
『それじゃあ、特に問題は無いのね』
「うん、上手くやってる」
『そう、迷惑をかけないようにね』
「わかった。それじゃまたね」
あーしはお母さんからの電話を切った。鬼ごっこを終えたあたりから電話が掛かってきたのだが大分長電話をしてしまった。
リビングに戻ると小さくなったアイツは萌黄に抱っこされて寝ていた。小さいから鬼ごっこをして疲れてんだろう
「寝ちゃったんだ」
「そうそう、鬼ごっこが疲れたみたい」
「ふーん」
「ちょっと任せていいかな? 風に当たりたいんだ」
そう言いながら彼女はアイツを見る。そういう彼女の顔はほんのりと赤かった
「別にいいけど何か顔赤くね? 熱でもあるんじゃない?」
「あ、いや、ちょっと代謝が良すぎて……気にしないで」
「ああ、そう」
あーしは彼女の近くに寄る。そして彼女から小さいあいつを受け取る。体重は軽く子供と言うことを再認識する。
「それじゃあ、ちょっと風にあたってくるから彼をよろしく」
「うん」
萌黄はそのままリビングを出て行った。あーしに彼を渡すとき名残惜しそうに見えたけど……気のせいか
取りあえずソファーに座り膝の上に彼の頭を乗せる。すやすやと寝息を立て寝がえりをうつ、すると彼の耳が少し汚れていた。
後で耳かきでも……いや、流石に恥ずいか……あと、ちょっと寝息が足に当たってくすぐったい……
特に何をするまでも無く時間はドンドン過ぎていく……しばらくすると彼は目を覚ました……
「……起きた?」
「う……ん……」
「ちょっと耳が汚れてるから耳かきしてあげる」
「!? いや、大丈夫だ……です……」
「するから、拒否権ないから」
急に敬語になりおろおろするのが少し可愛いが関係ない。やると言ったらやる
棚から耳かきを持ってソファーに戻る。そして再び彼を膝の上に寝かせる
「それじゃあ、入り口からね」
「お、押忍」
お母さんと交代でよくやったっけ……それに比べたら少し小さいけど問題なくできる。
「痛かったりする?」
「あ、いや、平気です」
「そ……」
ある程度やり終わると最後は息を吹き込まないといけない
「それじゃあ、息吹くね。ふぅ……」
「うう!」
彼の体がビクッと震える。
「くすぐったかった?」
「はい……」
「何か、大分大人しくなったね……」
「いや、そんなことはない」
「ふーん」
サクサクと進めて両耳を掃除し終えた。
「これで終わり」
「あ、どうも……」
片づけをしたところで家を開ける音が聞こえる。二人が帰ってきたんだと思う。
彼と会ってここまで全てが変わるとは思ってもみなかった。
『怖いな』
『目つき悪すぎ』
一人ぼっちが辛かった。休み時間に一人。ドッジボールに誘って欲しかった。サッカーに誘って欲しかった。可愛いシール集めとかおままごととか、やりたいことは沢山あった……
友達が欲しかった。でも、誰も話しかけてもくれない。近寄ってもくれない。
もう諦めていた。だけど、そこで初めて彼と出会って劇的にすべて変わった。
彼は大事な友達……友達……友達……友達……
正しいはずなのに何処かしっくりこないまま、あーしは帰ってきた二人を出迎える。
◆◆
「きゃー、きゃー!! 可愛い!」
「ちょ、ちょっと十六夜が窒息するでしょ!」
「い、息が……」
僕が風に当たりに行って落ち着いた後、返ってくると二人はもう帰って来ていた。コハクちゃんが彼を抱っこして窒息するのではないかと心配してしまう。
アオイちゃんは興味ない風に装っているが横目で二人と彼を見ている。
さて、ハチャメチャな二人を見ながらやはりこうなってしまったかと思う。
「そろそろ私に変わってよ!」
「ダメでーす。この子は今日から私が面倒見ます。お風呂に一緒に入って、一緒に寝て……」
「おい、息ができない……」
なんて……幸せな死に方なんだ……と言う心境である。この後も二人で彼の取り合いは続いた。
食事中も……
「はい、あーん」
「自分で食べれる」
コハクちゃんがハンバーグを彼の口に差し出す。
「ほら、野菜も食べなさい」
「自分で食べれる」
火蓮ちゃんが野菜を差し出す……彼は子ども扱いが気に喰わないのか一人で黙々と食べていく。
その日はずっと二人が彼に構い続けていた。
◆◆
私はミニミニ十六夜君が尊くて仕方が無かった。夕方からずっと構いに構いまくったがそれでも足りない。お風呂に一緒に入ろうかと思ったが流石にそれは止めておいた。
私がお風呂に入り、十六夜君がお風呂に入った後、就寝の時刻なのでそろそろ十六夜君を眠らせないといけない。他の三人はお風呂に入っており、メルさんはずっと研究室にいる
「眠れるように子守唄を歌ってあげます」
「フッ、睡眠耐性スキルレベルマックスの俺には効かないぞ」
「ねーん、ねーんころーりよー」
「zzz」
寝るのが速い。速攻過ぎて私は驚いてしまうがそれより彼の寝顔を眺めながらニヤニヤする方が大事だ。
本当に可愛い……今は無防備で……二人きり……
入学して直ぐに私を守ってくれた。夏祭りの時も……欲しくて仕方ない。しかし、お母様がそれではダメだと言った。無理に言って彼に迷惑だけはかけられない
迷惑だけは……
『そんなの関係ないですよ。無理にでも欲しい物も欲しがらないと……ね』
「ッ!!」
何処からか声がしてゾクっと背中に寒気が走った。後ろを振り返っても何もない。
今のは……私の声に……似ていたような……
誰かが自分の中に居たように思った事は何度もある……でも、声が聞こえるなんて……今までそんな事一度も……
言葉に表せない不安を感じた。そしてここに居てはいけないと判断したので彼の部屋を出る。
その日は、もう声は聞こえなかった。
◆◆
何処かの黒い空間。そこにとある黒き鉱物が置いてある。
一つはライオンのような顔と体つきで二足歩行で歩くの大きな化け物。
一つは手が四つあるアシュラ
一つは悪魔の黒い羽と天使の白き翼をもつ堕天使
一つは純白の天使
彼らは名もなき魔族。そして本来ならこの時点では存在しなかった魔族。
魔王の残っていた魔力と自我が作り上げた魔族。俗に言う魔王四天王である。
彼らは魔王からの分身のような物であるがそれぞれが独立した思考を持つ。そして性格は最悪。
ライオンのような魔族が話し出す。下品な声が戦艦の倉庫室に響いて行く
「クククク、どうやら
「……」
阿修羅のような魔族はずっと瞳を閉じて黙っている。ライオンのような魔族に堕天使が答える。
「その下品な話し方はやめて貰えますか? 全く、これだから」
知的な話し方が特徴の堕天使。しかし、何処か挑発的な物言いにライオンの顔に青筋が浮かぶ。一触即発のような雰囲気に天使が互いを宥める。
「やめてください。そのような事を言ってる場合ではありません」
天使がそういうと二人はぴたりと止まる。そして倉庫室に誰かが走ってくる。
スケルトン、オかま博士、ゴーレム。
「アンタたちどちら様?」
「これはこれはミッシェル様ですね」
ミッシェルが代表して四人に問いかけ、天使が代表して答える。
「私達は魔王の残骸から生まれた……名もなき魔族たち……そうですね……四天王とでも言っておきましょう」
骨三郎が剣を構える。魔王から生まれたのなら自分たちを消すつもりだと判断したからだ。
「おっと、私たちは敵ではございません。敵意をお納めください」
天使が柔らかい物言いで骨三郎を鎮める。僅かに怪訝そうにした骨三郎が問う。
「……目的はなんだ?」
それを聞かれると天使は笑った
「私達は今貴方達がてこずっている……種族を倒し……両方の世界を征服することです」
その日、本来なら『ストーリー』の『中盤』に目覚めるはずの『四天王』が目覚めた。
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