第74話 恐怖と七不思議とアニソン

 不気味が漂う夜の校舎。そんな場所に行くとなるとどうしても恐怖心が湧いてしまうだろう。夏と言う事もあり生暖かい風が吹きそれが余計に恐怖を演出する。そんな中で肝試しをやろうとすれば……。


 恐怖に身を包まれる……はずだった……。


 とある五人組が校舎の中に入って行く。アニソンをそこそこの音量で流しながら……。


「やっぱり、『魔術学院の出来損ない』のオープニング『トラディショナル・サンクチュアリ』はいいわねぇ」

「そうですよね。特に最初の落ち着いた感じから一気に開放感溢れる感じが」

「そうなのよ! そしてオープニングの鳴りやむところで主要キャラ集合! ってのが凄くいいわ!」

「火原先輩はその最後にでてくる主要キャラ全部言えます?」

「当たり前じゃない! テル君でしょ、マリちゃんでしょ……」


五人の内のアジフライのような男と赤い髪の美女が話している。どうやらアニメのオープニングの挿絵の話らしい。赤髪の美女はスラスラとキャラの名前を言って行く。


「もう、二人しか分からない事ばっかりで話さないでください! 面白くないじゃないですか!」

「まぁまぁ、落ち着いて……よかったぁこの感じなら全然怖くない……」


銀色の美女が頬を膨らませて二人に注意をする。それを黄色の美女が止める、どうやら彼女からしたらこの雰囲気は都合のよい物らしい。


「なんや……この緊張感のかけらもない夜の探検は……」


 その様子を見て緑髪の美女が呟いた。彼女の言う通り明らかに肝試しの雰囲気ではない。


 そんな中、彼女達は校舎内を進んでいく。



■◆



 フフフフ、夜にアニソンを流し校内で肝試しをする奴は世界を探しても俺くらいだろうな。おかげで全く怖くない……黄川萌黄もさぞかし気分は軽やかだろう。


「最初の七不思議は二階女子トイレの二番目の個室に『花子さんいらっしゃいますか』と聞くと答えるものですね」

「そうね……あ、こんどは『魔術学院の出来損ない』の二クール目のオープニングね!」


二人が話しているときに一期の一クール目の『トラディショナル・サンクチュアリ』が終了して次なる曲が流れる。そして、僅かな最初の音楽で火原火蓮が反応する。


「その通りです。『トラディショナル・サイン』ですね」

「二期の一クール目は『トラディショナル・パーフェクト』で私的には『トラディショナル・パーフェクト』が一番が良いなって思ってるんだけど……ああ、やっぱり二期の二クールの『トラディショナル・エレガント』が一番かも」

「だからぁー! 二人で話さないでください! 面白くないじゃないですか!」

「その作品はトラディショナルに何か強い思い入れでもあるの?」


 銀堂コハクが面白くなさそうに俺と火原火蓮の間に壁を作り、黄川萌黄はトラディショナルにツッコミをかます。しかし、彼女が怖くなさそうで良かった。これで威厳も保たれるだろう。


 この最初のイベント……ここまで彼女達は話さなかった。


『なぜ、私がこんなことに付き合わなくてはならないんですか?』

『私も溜めてたアニメ見たいなか来たんだから文句言わないでくれない?』

『まぁまぁ、二人とも落ち着いて……ヒぃ、窓が揺れた!』



銀堂コハクは人と接することがあんまり好きではない時期。火原火蓮は仕方なく来てやった感じを出し、黄川萌黄はただ怖がっていた。

まだまだ、絆とかそんなものはない時だったから全く和を感じなかったが……今は何処か感じることが出来る。『絆』は彼女達にとって最重要。本来より仲が良い感じが凄く嬉しい。


「皆で話せることを話しましょう」

「何よ」

「そうですね……一年Aクラスであった様々な事を話しましょう」

「それ、十六夜とコハクしか話せないじゃない。面白くない」

「と言うか……二人で話すことが目的だね……」

「もっと、緊張感もとうや」


彼女達+メル……本来より良い関係になっているのは明白だ。もしかしたら、かなりあっさり世界は救えるのかもしれないな……。


そんなことを考えながら俺はアニソンの流れる夜の校舎を歩く。


言わずもがな特にオカルトは起こることはなく黄川萌黄はご機嫌のまま帰宅していくことになる。


◆◆


「なんや、面白いこと何にも起こらなくてつまらんわ」

「いやぁ、本当に残念だね! いや、もう、本当に、残念だなぁ!」

「何か、嬉しそうやないか?」

「いや! まさか! そんなこと! ないよ!」

「絶好調やないか」


 メルはガッカリした様子でそれを励ます黄川萌黄。しかし、全く励ますつもりが無いようにも思えるほど彼女は嬉しそうだ。


「十六夜君。一回アニソンを止めてください! それが流れてると火蓮先輩と十六夜君の二人空間が破れないんです!」

「止めるんじゃないわよ! 決して止めるんじゃないわよ! 十六夜! 今度はあの定番のアニソンを頼むわ!」


二人で互いに取っ組み合いをする二人。そして美女に囲まれているのにアニソンを流すアジフライ。中々カオスな展開だな……。


これで夏休みは終わり。そして二学期が始まり物語も動き出していく。


さぁ、俺たちの戦いはこれからだ。



◆◆
























 何処かの部屋、そこでとある女性が原稿用紙に万年筆で文字を書いている。何枚も紙を積み重ねている。恐らく彼女は小説家だろうが書いている彼女の顔は全く楽しそうではなく苦汁をなめるような顔つきだ……。


 そこで部屋をノックする音が聞こえる。女性は筆を止め客に部屋にはいるように促す。


『どうぞ』

『先生、出来ましたか?』

『もう少し……ですかね……しかし、書いていて面白くない物ですね……』

『本当に申し訳ございません。しかし、我が社の稼ぎ頭は今、先生しかいないのです。『ifの第二巻』はもう凄い売れ行きで……全盛期以上と言いますが……』

『そうですか……』


 女性は自身の本が売れているというのに全く売れそうな外見ではない。部屋に入ってきたのは恐らく彼女の腰の低い担当者だろう。


『この『if』は四巻までしか書くつもりはありません……。貴方の頼みだからこの仕事を受けましたが……やはり、辛いというか……あなたには感謝しています。メジャー作品になる前から支えてもらって……しかし、これ以上は……』

『……大変申し上げにくいのですが……上からの命令で……『魔装を得る前のバッドエンド』が現状売れているのだから『魔装を得た後のバッドエンド』の方も売り出したいと……それをお願いしてこいと言われまして』

『そんなことを言われても……』

『お願いします! 今我が社は風が吹き始めている! どうか、新たに『バッドエンド作品』を書いてください! 私の首も……かかっているんです!』



男は土下座をした。女性は目を落としため息を吐く……。


『……分かりました……『彼女達が魔装を得た後にバッドエンド』……考えるだけ……考えてみます……ただ、直ぐには了承できません……あと、『五人目』の

『銀堂クロコ』だけは描こうにも少し無理があるので、出すとしてもこちらも『四巻』しか出せないという事を覚えておいてください』

『ありがとうございます!』


 男は頭を地面に打った。彼女は完全な返事を渋ったがほぼ了承したような物だった。それに男は感謝を示したのだろう。


『それでは失礼します』


その後男は作業部屋から出て行き女は一人になった。そして、彼女は一人呟いた。



『すまないね……こんなことを考えて描く私は……君たちの親失格だ……』



彼女はそう言うと部屋のある方向に目を向けた。そこには銀と赤と黄と青と黒の少女のポスターが……。



『しかし、あの人は私の恩人なんだ……あの人の土下座の頼みは断れない……』



そして、再び彼女は万年筆を持ち、原稿用紙に文字を描き始める。辛そうにしながらも彼女は書いていった。


彼女の猫背の背中は悲壮だ……。


そこで、プッツリ映像が切れる……。



「何じゃ……今の夢は……」



とある占い師は大量の汗をかいてその夢から目覚めた……。



魔装降臨編 〈完〉



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