第73話 恐怖と稲妻

『学校の七不思議って本当にあるのかな?』

『それを確かめに来てるんでしょ』

『私はないと思うな』


 とある女子高生の3人組が話しながら暗い校舎の中を歩いていた。日は墜ち何処か不気味さを感じさせる校舎を……。


『六つ周ったけど何も起きなかったし。デマなんだよ。七不思議なんて……』

『そうだね、なーんかガッカリ』


 二人の女子生徒が期待外れと言わんばかりに気ままに話していると一人の女子高生が足を止めた。



『ねぇ、何か聞こえない?』

『え?』

『音楽室から……』

『……聞こえるかも……』

『確かに……』


 先ほどまでの雰囲気が一変し途端に重苦しいものに変わる。聞こえるのだ……曲を演奏するピアノの音が。


『これヤバくない?』

『……逃げよ』

『……そうしよう』


 そう言った瞬間、曲が鳴りやむ。音楽室は彼女達の居る階の上にある。音楽室のドアが……開く音が聞こえた……。


 その瞬間、三人は走り出す。全速力で。


『やばいやばいヤバイヤバい』

『七不思議ってマジなの!?』

『早く逃げないと!!』


 程なくして彼女達は学校から出ることが出来た。誰一人欠けることなく……。


 ◆◆



「って事があったんだって」

「本当ですか? いまいち信憑性に欠けますね。しかし、そういった事も全面的には否定できないのが現状ではありますが……」

「……」


 火蓮ちゃんとコハクちゃんが食卓にお皿を並べながら話している。聞こえない、訓練室での訓練を終え夕食の時間が近づいている。因みにだが彼はまだやるやしい。今はまだ夏休みと言う事もあって訓練はかなり入念にしていた。


 彼は無理をしなくていいと言ったがそういう彼が無理をするのだ。そうなると僕を含めた二人も頑張りたくなってしまう。特に最近彼が二度も怪人を討伐している。これに僕たちはあまり良い印象を抱かなかった。一人で戦う状況だったのは確かだがそうだとしても彼一人に負担をかけまいと頑張りたいと思っている。


 確かに彼は強いけど彼一人で背負う必要などは無い。


 この家に住まわせてもらうにあたって家事は分担することになった。彼は料理は出来ないらしいので僕たちがやることになる。


「皆ノ色高校には七不思議があるって聞いたことはあったけど……」

「ネットで書き込みがあったんですよね? 幽霊を見たって」

「そうよ、ほらここに書いてある。多分だけどこれ私と同じクラスの子ね」


 火蓮ちゃんがコハクちゃんにスマホの画面を見せつけているのが横目で確認できるのだが……二人が何やら話しているがよく聞こえないんだよなぁ……。


 今日、三人とも荷物が届き魔力によって作られた部屋に荷物を置くことになった。しかし、魔力という物は本当に凄い。いやメルちゃんが凄いんだろうけど……。



「ねぇ、萌黄はどう思う?」


 それにしても今日の夕食は肉じゃがかぁ。美味しそうだなぁ。僕が気合を入れて作った甲斐があるという物だ。


「萌黄先輩、手で耳を塞がないで私達の話を聞いて下さい」

「おーい萌黄ー」


 肉じゃがの白滝を眺めていた僕。そこに二人が耳に当てていた僕の手を抑えて降ろす。


「ヒぃ、な、なに?」

「ですから七不思議についてどう思いますか?」

「嗚呼~、そういう事ね……ぶっちゃけ言うとくっだらない感じだよね。高校生にもなって七不思議とか、子供過ぎて草生える感じだよね」


 いや、本当にくだらなくて草w。草に草を生やすなと言う位おかしな話だ。高校生は大人へ向かう途中なのにそんなオカルト話に現を抜かすなんて、ああー、くだらない。


「キャラ変わった感じするわね……もしかして、萌黄……怖いの?」

「ちょっと何言ってるか分からないんだけど? いや怖いとかあり得ないし、くだらないから草なだけだし」

「そうですか? 無理して見栄を張らなくてもいいんですよ?」

「見栄張ってないです。どうぞお話をお続けください」


 全く……僕が怖い? いや、あり得ないわー。二人の雑な考えには困ったものだよ。うん。


「そう。なら続けるけど……」


 火蓮ちゃんが話を続けようとすると……リビングの扉が開きメルちゃんがやってくる。


「お腹すいたで……幼児化の薬なんてそう簡単には出来へんわー。考え過ぎてお腹ペコペコのぺこやわ」


 ナイスタイミング! いや、別に喜ばしいことではないがつい思ってしまった。メルちゃんは疲れたようで背伸びをすると食卓に並べられている肉じゃがとかを眺める。


「いやー、美味そうやなー」

「そうよ。特にこの漬物は私が野菜を切ってジップロックに詰めて、調味料を入れて揉むという四工程をパーフェクトにこなしたから美味しいに決まってるわ」

「因みにこのサバの味噌煮は私が作りました。肉じゃがは萌黄先輩が」

「へぇ、皆料理上手いんやな。ええお嫁さんになるで……アイツの胃袋もガッチリゲットやな」

「そ、そんな、黒田コハクになるなんて……」

「いや、そこまでは言うてへんで……」


 火蓮ちゃんは自信満々に胸を張り、コハクちゃんは両手を顔に当て照れている。いやーこれだよ。僕が求めていた会話という物は。いや、ほんと七不思議とかつまんないよね? 時代遅れだよね? 


 そんな空気からこの場を開放したメルちゃんは素晴らしい。メルちゃんだけは僕の味方だよ~。


「それで七不思議って何の話や?」


 おいメル、貴様もか? 貴様も僕の敵なのか?


「ああ、それはですね……かくかくしかじか」

「しかしかかくかく」

「へぇー、興味深いわー。この世界にはそんなのがあるなんてワイの好奇心がウズウズするで。その七不思議のある学校まで案内してくれや。是非とも調査したい!!」


 メルちゃんはやる気満々と言う気迫が溢れる。確かメルちゃんはアルテミスでは研究者……気合が溢れてしまったのかもしれない……。


「夜しかでえへんのやろ? なら今日の夜早速行こうやないか!! エエやろ!? なぁ、エエやろ!? 面白そうやし、皆で行ったら普通に楽しそうやし!!」

「え、あ、うん。私は良いけど……十六夜がなぁ」

「私も良いですけど……ただ、十六夜君がこういうのは苦手と言っていたので……」


 物凄い形相でメルちゃんに迫られる二人だが彼が原因でイマイチ踏み切れないらしい。それとメルちゃんの押しが強い為若干引いている。


「ええー⁉︎ それはないわ! なぁ、萌黄もええやろ?」

「あ、いや、僕は……」


 二人が煮え切らない返事の為僕に同意を求めてくる……困るよ……彼女は僕に詰め寄ると上目遣いだ。瞳もウルウル状態。


「なぁ、ええやろ? ワイ、行きたいんや……皆と一緒に」


 か、可愛い……こんな美人な子に言われたら……断れるわけない。それに僕に上目遣いは効果は抜群だ。


「行こうか……」

「やったぁ!」



 思わず、がっくり肩を落とす。メルちゃんが喜んでるからいいけど……その後、少しして彼がリビングにやってきた……。



 ◆◆


 

 今日の訓練は中々ハードであり、収穫も大きい物だった。先ずは魔法人形オートマタを使った実戦形式の訓練。『ストーリー』でも使われたものなのだが本来より高性能になっている。


 理由は俺の魔力をかなり使っているからだ。彼女達のパーフェクトな育成の為にはやはり対人戦闘は欠かせない。しかし、実戦はあまりに危険である。と言うことでこの魔法人形である。

 人型で武器も自由自在。実戦に限りなく近い。これをやっていけば危険を冒さずに彼女達は確実にレベルアップができる。『ストーリー』の彼女達よりだいぶやる気があるようで毎日訓練をすると言い出した。


 今のうちにやれることはやっておかないと。彼女達が楽できるように少しでも辛い目に遭わない様に。


 いつか、俺では追いつけない程に彼女達とは差ができる。


 そんな事を考えながらリビングに向かうとこの時点ですでにいい匂いが漂ってくる。夕食に期待しながらリビングに入ると何やらメルが騒いでいた……。


 そして、黄川萌黄ががっくり肩を落としていた。これは……もしかして、七不思議イベントか? 彼女達の最初のコメディであり若干のホラー回だ。俺もニヤニヤしながら読んでいたのを覚えている。特に怖がる黄川萌黄が可愛すぎる神回。


「なぁなぁ、この後皆で七不思議を調べに学校に行くんや! 行くやろ!? 行くやろ!?」


 メルがピョンピョン跳ねて喜んでいる。彼女は研究者だから探求心があるのだが、こういった誰かと一緒に行くとか遊ぶとか大好きなんだよな……。


 だけど、黄川萌黄が幽霊的な物が苦手だから今回は止めた方がいいのかもしれない。俺が苦手だからとか言って。


「俺、そう言った事が苦手なので止めときませんか?」


 そう言った瞬間。ぱぁっと顔が明るくなる黄川萌黄。しかし、メルが顔を暗くする。


「ええ……行こうや……」

「ぼ、僕が行くから元気出して!!」


 黄川萌黄が自分から行くことを推奨する。彼女は俺と同じで女の子の泣き顔に弱い。そして、彼女は幽霊が怖い事とか絶対に言わず見栄を張る。


 『ストーリー』ではまず火原火蓮が話をする。銀堂コハクの家に住み着いたメルに魚雷人を倒した後、魔族の事とかを詳しく聞いているときにいきなり七不思議の話が始まりメルが興味を持ち仕方なく全員で行くという流れだ。現在の流れは『ストーリー』とは若干違う部分もあるんだろうけど大体こんな感じだろう。

 どうしたものか……このイベントは若干のオカルト要素が入ってはいるが、怪我を負うとかそういうのはない。しかし黄川萌黄は怖がる。一方でメルは行きたくて仕方ない。それに彼女は既に行くと言ってしまった。何だかんだ覚悟も決まっている顔つき……俺が行かないと言っても黄川萌黄はメルの為に行くだろう。


 ここは、彼女の威厳を保つために全く怖い要素がない七不思議探検にするか……。




 ――それにこういった展開になることはある程度想定していたのでオカルト要素は既に取り除いている。その為ただ暗い校舎を皆で歩くというだけになる。


 このイベント……七不思議と言っているが一つしか不思議要素無し。皆ノ色高校三階の音楽室にある肖像画の中から人が出て動き出すのだ。そしてピアノを弾く。さらに追いかけてくる!!


 ――なので、昨日の朝に肖像画を盗み既に焼却炉に入れてある。


 『魔装少女』の『ファンブック』に、あの肖像画の中から出てくるのは幽霊ですが肖像画さえ焼けば魂が消滅がしますと書いてあったからな。さらにあの肖像画はいつから皆ノ色高校にあるか不明と言う設定らしい。


 だから、まぁ燃やしてもいいだろう……本当はダメだろうけど……。


「俺も行きます」

「ええんか!?」

「十六夜君無理しないでください!」

「そうよ! 怖いのに無理はダメ!」


二人が気を遣っているが大丈夫だ。


「大丈夫ですよ。五人も居れば幽霊なんて怖くないですから」



こうしてホラー要素を排除した七不思議探検が始まった。

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