第45話 お泊まりアジ

 

 『魔装少女』の三人を家に泊めるというファンであれば夢のまた夢の様な展開になってしまった。緊張してきてソワソワが止まらない。


「夕食はどうしましょう?」

「私が作るわよ」

「あ、僕も手伝うよ」


三人が夕食の相談をしている。時刻は六時三十分を過ぎている。大分お腹が空いてきた。


「火蓮先輩は無視するとして萌黄先輩はどのくらいお料理できますか?」

「ちょ、無視は酷くない?」

「僕は一通りできるよ」

「それは頼もしいですね。二人で協力して作りましょう」

「私も居るわよ!」

「火蓮先輩は料理が得意では無かったと思いますが……」

「フフフ、あれから特訓に特訓を重ねてカレーが作れるようになったのよ!!!」


ドヤ顔で胸を張りどうだと言わんばかりの貫禄を出す。意外と言わんばかりの表情を銀堂コハクは浮かべた。


「そ、そうですか……意外ですね。カレーが作れるようになってたんですか……」「フフフ。言ったでしょ? 日々進歩するって?」

「でしたら三人で作りますか?」


彼女達は互いにうなずき合い夕食を三人で作ることが確定したらしい。何という贅沢だろうか? 『魔装少女』の初期メンバー三人のスペシャル料理。いくら出しても足りない位の価値がある


「十六夜君、何か食べたいものはありますか?」

「そうですね。何でもいいですかね?」


彼女達の料理ならポテトチップの海苔塩味をご飯に混ぜて、そこにマヨネーズを入れて混ぜたものを五百万円だと言われも喜んで食べるだろう。端的に言うとどんなものでもありがたい。


「何でもいいが一番困るんですよ?」

「そ、そうですか?」


た、確かにそうだな。三人の料理を食べることが出来、さらに何を食べるか決められる。俺って幸運だな。


「では、カレーでお願いします」

「十六夜君、いつもカレー食べてませんか?」

「確かに十六夜はいつもカレー食べてるわね」

「僕が観察してた時もずっとカレーだった」

「いえ、偶にハヤシライスとかシチュー食べてますよ?」


カレーが好きと言うことは一切否定はしないが毎日カレーを食べてるというわけじゃない。

「同じような物じゃないですか。十六夜君栄養のバランスを考えてください」

「あ、はい」

「全く……家では普段何を食べてるんですか?」

「まぁ、色々ですかね? から揚げとか春巻きとか……」

「……ちょっと、失礼します」


銀堂コハクが何を感じ取ったのか、冷蔵庫の仲を開ける。上段の扉を開き中を見る。ケチャップとかマヨネーズと言った調味料。麦茶や水である飲み物が多く入っている場所だ。


「……」


中段を開く。あそこは野菜とか入れる場所なんだが俺はキャベツの千切り、キュウリをちょっとしか食べないからあんまり野菜は入っていないな。


次に下段を開く。ジッと観察をしている。あそこは冷凍食品とかを入れているところだな。


「……」


彼女は閉じてジッと俺を見た。


「十六夜君。もっと健康に気を遣いましょう」

「え?」

「野菜が全然入っていません。上は多少の調味料とウインナー、ベーコンと言った加工食品。下は冷凍食品のオンパレード。食べるのが悪いというわけではありませんがおそらく十六夜君はこれしか食べていないのでは?」

「そ、そうです」

「加工食品ばかり食べていると体の健康状態が崩れます。もっと、バランスよく手作り料理も食べないといけません」


彼女以外の二人も同意を示す。


「そうね、十六夜もっと気を遣わないと……まぁ、私はパパにバランスのいい手作り料理を作ってもらってるだけだけど……」

「コハクちゃんの言うとおりだよ。加工食品の食べ過ぎは良くないね」


火原火蓮の後半の言葉は良く聞こえないが二人とも心配してくれているようだ。俺は一人暮らしで料理もあまりしないから必然的に簡単に食べられる食品に手を出してしまうんだよな。


「今日は私が献立を立てます。しかし、この食材ではバランスの良い食事は作れません。作り置きもしたいので現在食材が足りません」

「そ、そうですか」

「今からスーパーに行って食材を買いましょう」

「マジですか? もうすぐ七時ですが……」

「……食材を買いましょう」

「あ、はい」


彼女の貫禄に押されてスーパーに行くことになった。ゆ、幽霊とかが怖いんじゃなかったのか?


「あの、幽霊とかは……」

「四人も居れば寄ってこないでしょう。さぁ、早い所スーパーに行きましょう」

「そうですか」



四人でスーパーに行くことになった。


◆◆◆



 店内は僅かに人が居るが仕事帰りの社会人が多く見受けられる。そんな中俺達は野菜売り場に居た。この時間に高校生は流石に居ないから良かったな、また見られたら変な噂が経つところだ。俺は良いんだが彼女たちまで火の粉が飛ぶと流石にな……


「この野菜は色が悪いですね」

「コハクちゃんこっちのいい感じじゃない?」

「そうですね、それにしましょう」


料理が出来、野菜を見る目のある二人がカートに乗せているカゴに次々と野菜を入れていく。俺と火原火蓮は何もできず置いてけぼりだ。


「……やっぱり、私って女子力低い?」

「そんなことは無いですよ」

「そうよね……低くないわよね……」


彼女は気まずそうにそう告げると二人の後を俺と一緒に追う。何とも言えない時間が続く。二人は今度は肉を見てテキパキとカゴに入れる。火原火蓮はがっくり肩を落とす。


「うう、二人について行けない……」

「先輩、気にしないでください」

「で、でも」

「前にも言いましたがやっぱり萌えですよ。先輩の料理下手とかを気にしてモンモンする感じがとんでもない萌えなんです。これはあの二人には出来ない先輩だけの特別な魅力です」

「そ、そうだったわね。うっかり自分の属性の利点を見失ってたわ……ここで多少のリードを見せられても他で挽回できるわよね。ありがとう十六夜」

「いえいえ、自分の属性を分かってもらえて良かったです」


属性とかメタ発言だが彼女なら問題ないだろう。彼女は気分良さそうに俺と二人の後をつける。するとお菓子コーナーから一人の男が出てきた。


「あ、六道先生お疲れ様です」

「ああ、黒田……と二年の火原か……」

「あ、はい。ど、どうも」


急に眼をキョロキョロさせる。初見はきついな。シュンと彼女は小さくなり俺の後ろに隠れる。


「黒田、ネットの事だが閉鎖になったそうだ」

「あ、そうなんですか」

「犯人は分からないがこんど学校側からのお便りを全学級に配布する。とりあえずはそれで様子を見ることになる」

「色々すみません」

「気にするな。お前が謝る必要はない」


いや、貫禄あるな……しかし、彼のカゴの中にはシュークリーム十個、プリン十個、生クリーム、アイス、ホットケーキミックス。見た目に反して可愛らしい。物語上でも記載されていたが彼は甘党だ。見た目とのギャップがある為初めてこの事実を知ると驚きを抑えることはできないだろう。


「それでは俺は帰るぞ。また明日学校でな」

「はい、さようなら」

「さ、さようなら」


火原火蓮はずっと俺の後ろに居たが六道先生が帰ると後ろから飛び出し、いつもの感じに戻る。


「あの人、甘党なのね。何というか意外ね……」

「ああ、確かに初見だとそう思うでしょうね」

「何その言い方?」

「気にしないでください。ちょっとミスりました。それより二人を追いましょう」

「ああ、うん」


話してるうちに二人は先に行ってしまったので俺達は急いで彼女達の元へ向かった。


◆◆◆



「ああ!! もう、危ないですよ!!」

「うっさいわね!!」

「手が切れないか心配なんです!! 包丁返してください!!」

「出来るから!!」

「お、落ち着いて……二人とも危ないよ」


夕食のメインはトマト煮込みのロールキャベツらしい。他にはきんぴらごぼう、ヒジキ、チヂミと言ったものを作ると言っていた。ソファーに座って眺めているが絵になるな。


出来るまで何も言わず座っていてくれと言われている。何ができるか楽しみだが喧嘩している二人を止めるべきだろうか。


「だったら私が手を抑えて教えますから暴れないでください。手が切れたら大変ですから」

「え、あ、そう? じゃ、じゃあお願いしようかな?」

「はぁー、本当はやりたくないのですが怪我されても困りますから仕方なくやるんですよ? それに、十六夜君の家のキッチンを貴方の血で汚すわけにはいけないですから」

「あ、うん、サンキュー……」

「当たり前ですが猫の手にしてください。知ってると思いますがニンジンは固いですから押すように切るんです。こんな感じに……」

「……そう」

「感触を覚えてください。貴方の包丁使いは危なっかしいですから」

「うっ! パパにも言われた……」


心配する必要はなかったかな。銀堂コハクは後ろに回り両方の手を抑えて享受する。


ニンジンを切り終えると今度は豚肉、ニラなどを切って行く。暫くすると全ての食材を二人は切り終えた。黄川萌黄はその間にトマト缶などを使ってトマト煮を作っていた。


「今度はキャベツにタネを包みます。手伝ってください」

「うん……ありがとうね?」

「お礼を言われるすじあいはありません。貴方の為ではなく十六夜君に迷惑をかけない為にやっただけです」

「そう……だとしても勉強になったありがとう」

「……包み方を教えるのでよく見ておいてください」



お? ここに来て一気に二人の距離が縮まったんじゃないか? 最近ぎすぎすが多かった時もあったが何だかんだ二人の距離が縮んでるのかもな……


「こうです」

「こう?」

「合ってます。その感じで包んでください」

「おけ」


◆◆◆




 テーブルに料理が並びいい匂いが漂ってくる。トマト煮のロールキャベツ、きんぴらごぼう、豚肉の入ったチヂミ、ヒジキ、お味噌汁、白米。滅茶苦茶豪華じゃないか


「美味しそうですね……皆さんありがとうございます」

「気にしないでください。お泊まりさせていただくのでこれくらい当然です」

「そうよ、気にしなくていいわよ」

「二人の言うとおりだね」


早速だが頂こう。


「食べていいですか?」


「「「召し上がれ」」」


「頂きます」


ロールキャベツにかぶりつく。トマトの酸味と溢れる肉汁がたまらない。


「うめぇ」

「それは良かったです」

「そうね」

「そうだね」

「味付けは萌黄先輩なんですよ」

「凄く美味しいです」

「お口にあったようでなによりだよ」


テレビ映した方が良いかな? 会話とかも増えるし。リモコンを押してテレビをつける。


「何かみたいの有りますか?」

「いえ、特には……」

「私もないけど」


とりあえずつけたテレビにはとある映像が流れていた。


『都市伝説シリーズ』


「夏子さんが良く面白いって言ってる番組ですね」


銀堂コハクが番組を見て感想をこぼす。俺はあんまりこういうの好きではないのだが、彼女の会話の話題になるならこのままでも……したいところだが黄川萌黄は苦手だったな。怖さに悶えるシーンは可愛いくて萌えがあるが無理に見せる事もない。少し、萌シーンを見たいという気持ちもあるのだが……


「あ、すいません。見たいって言ってる様なものですね……でもこういったのは苦手な方が居ると思うので他の番組にしましょう」

「私は気にしないわよ」

「あ、その、ぼ、僕も気にしないよ……」


嘘だな。俺も苦手だし、ここは一肌脱ぐか……


「すいません。俺こういうの苦手で……」

「そうなんですか!! すいません、直ぐに他の番組にしてください!」

「可愛いところもあるのね、十六夜」

「アハハ、苦手なら仕方ないね! さっさと回して、回して!」


チャンネルを回してトークショーを映す。それを見ながら夕食を三人と共にした。世界一有意義な時間だった。



◆◆◆



お風呂が沸いた。三人を先に入れるべきだろう。パジャマは俺の母のを貸すことにした。


「お先にどうぞ」

「しかし、一番風呂は十六夜君の方が……」

「お客様ですからお先にどうぞ」

「そうですか? ではお先に失礼します」

「悪いわね」


男が入った風呂は抵抗あるだろうから当然の行動だ。


「悪いね。寝巻まで貸して貰って……」

「黄川先輩もあまり恩を感じなくていいんですよ? これくらい」

「僕の場合は特に色々あったわけだし」

「それくらい大したことではいないですから。それよりお風呂どうぞ」

「ありがとうね」



三人が風呂場に行った。『魔装少女』でこういうお風呂入るときは黄川が暴走して抱き着いたり触りまくったりするのを火原が止めるが今回はどうなんだろうな……。



◆◆◆



「ちょっと、アンタ……大きすぎない?」


私はつい声に出してしまった。私より一つ下のくせに生意気なほど大きい。いや、私より大きいのは分かってはいたが流石にこれはダメじゃないか?

学校指定のワイシャツを脱ぎ露わになった彼女の下着姿。白いブラを使っているが問題はそこに収められているとんでもない兵器。谷間の線が長い事、長い事。


「まぁ、そうかもしれませんね……」

「コハクちゃんってF?」

「いえ、Eです。でも、最近このブラもきつくなってきました」

「ほぼF何だね……何というか……触っていもいい?」

「そ、それはちょっと……」

「一回だけ。ほんのちょこっとでいいから……」


萌黄が親指と人差し指で少しだけと言うのをアピールする。そういう萌黄は黄いろの下着をつけている。こ、こいつも中々大きい。せ、線が結構長い……


「ええ? ……本当にちょこっとだけなら。まぁ、良いですけど……」

「それじゃあ、失礼して」


萌黄がコハクの手で掴んだ。その後、驚愕の顔をする……


「何……これ……やわっこくて、ほんのりあったかくて……大きい餅を持ってるみたい……」


何度も掴んだり離したりを繰り返す。そ、そんなに凄いんだ……。


「あ、あの、もういいですよね?」

「……」

「あの、返事を……」

「!」


萌黄は今度は両手で揉み始めた。たわわを揉みしだかす。


「んあっ! あ、ん!」

「こ、これはしゅごい、しゅごいよ」

「話が、ちが、んっ!」

「止めなさい!」


ぱちんと萌黄の頭を叩く。流石にこれはやりすぎだと思う。止めなくてはいけない。


「少しって言ったのに、話が、違います……」

「ご、ごめん。つい……」


コハクは両腕で上半身を守るように覆い膝を床に着けた。萌黄は少し名残惜しそうにしたものの素直に謝罪をする


揉んでるの見て思ったが確かに柔らかそうだ。指が肌にめり込んで埋まってしまうかと錯覚したほど……


「もう、変態さんは嫌いです」

「うう、ごめん。でも、何かコハクちゃんに変態って言われてもあんまり不快感はないのが不思議……」

「その辺にしときなさい。脱衣所で騒いでないで早くお風呂に入りましょう。十六夜が後に控えてるんだから」


私がそう言うと二人も頷いた。



◆◆◆



バスタオルを上半身に巻いて私達は十六夜の家のふろに入る。浴槽の蓋を取ると湯気が立ち上り室内の温度が少し上がったような気がする


「ねぇ、コハクちゃん、もう一回だけ、もう一回だけだから。ね?」

「嫌です」

「萌黄、その辺にしときなさい」

「でも、凄いんだよ? 触り心地が? もう、虜になったちゃう感じなんだ」

「そ、そんなに凄いの?」


と、虜? ちょっと気になるわね……女の萌黄でもこんなになるって事は相当なんだろうけど男だったらどうなるんだろう?


その時、十六夜の顔が浮かんだ。そして、とんでもないイメージも


『あん♡ 十六夜君激し過ぎます♡』

『我慢できないよ。はぁ、はぁ』

『狼さんになっちゃいましたね♡』

『うう、ぎ、銀堂さん』


いや、そんなことは無いだろうけど、起こるはず無いだろうけど……け、研究の為にも……


「ちょっと、失礼するわね」


私は彼女の胸に手を伸ばす。ガッと掴むと……頭を鈍器で殴られたくらいの衝撃だった。私も自分のを触るときがあるが比べ物にならない。餅だ。これは餅だ。

しかし、正月に食べるような餅とは次元が違う程柔らかい。そして、沸々と怒りと言うか嫉妬と言うか複雑な物が私に湧いてきた。


「あ、貴方まで……」

「火蓮ちゃん……どう? 触り心地は?」

「……餅。とんでもない餅」

「だよね!? とんでもないよね?」

「ムカつく、ムカつく」

「な、何なんですか? 貴方達は? こ、後輩の胸を揉みしだいて……」

「私をムカつかせた罰として暫く揉みまくる……」

「な、何ですか!? その罰は!?」

「じゃあ、僕は依存させた罰として揉む」

「どんな罰ですか!? お二人ともおかしいですよ!」


『嗚呼んん、ちょっと、あ、嗚呼、嗚呼ん、らめええええええっ』


彼女の甲高い声が風呂場に響き渡る。反響する声が私たちを刺激する。しばらく彼女はされるがままだった。


◆◆◆


全員が体と髪を洗い湯船に入っている。


「悪かったわよ。今度ジュース奢るから機嫌直しなさい」

「僕は揚げパンを奢るよ」

「そんな問題じゃありません!! 女性同士だからと言ってセクハラにならない訳ではないですからね!」

「ごめん」

「ごめんね」


コハクは大分不機嫌になってしまった。されるがままになった後の彼女は体が火照りエロかった。その後、怒りの形相。謝っても中々許してくれない。



「ば、罰として貴方のも触らせていただきます」


コハクは私に向かってビシッと指を向けた。


「嫌とは言わせません! ほら、万歳してください!」

「さ、流石にそれは……ちょっとハズイ……」

「関係ないです、さぁさぁ万歳してください!! じゃないと警察です!! 万歳するまで許しません」

「わ、分かったわよ」

「火蓮ちゃんのも僕揉みたいかも……」



私は恥ずかしいが両手を上に掲げた。バスタオルで隠れているが何処が恥ずかしくなる。お風呂に入っているのだから体温が上がるのは当たり前だがさらに熱くなる気がした。


「それでは失礼しますね。言っときますけど私が良いというまでそのままですから……ね!」

「ふぁえ、あん!」

「なるほど……A、いやB? うーん、大分小振りですがBはある……のでしょうか?」

「も、もっとやさし、んんん!」

「貴方の指図は受けません。暫く恥ずかしさとくすぐったさに悶えて頂きます」

「もう、だ、だめ」

「萌黄先輩、腕が下がってきているので抑えてあげてください」

「うん、分かった」

「ちょ、ちょっと萌黄」

「ごめん、その姿は萌えるからもっと見たい」




腕を抑えられ抵抗できない


「フフフ、さぁ、お仕置きタイムスタート……」


『ら、らめめめめっめめぇぇぇっぇぇっぇ』



今度は私の甲高い声が室内響き渡った……




◆◆◆


「はぁ、はぁ。や、やり過ぎよ」

「フフフ、イーブンですよ。さて、最後は……」

「ぼ、僕? 良いよ。バッチこい!」


コハクは萌黄の方を向くが萌黄はあんまり嫌そうにしない。と言うか喜ぶんじゃないかな? コハクもそれを感じたようでどうしたものかと考える素振りをする事数秒、何かを思いついたように笑った。


「萌黄先輩への罰が決定しました」

「何? コハクちゃん?」

「私の話を聞くだけです」

「そ、それだけ?」

「はい」

「ちょっとコハク流石に贔屓が過ぎるんじゃない?」


コハクと私は犬猿の仲と言っても過言ではない、しかし、ここまで罰が違うとなるとちょっと文句を言いたくなってしまう。


「贔屓ではありません。ちゃんとした罰です。それでは萌黄先輩よく聞いてくださいね? 途中で話を聞かなかったり、耳をふさいだりしたら最初からやり直しです」

「え? あ、うん。分かったけど一体何を……」


コハクは雰囲気を少し暗くして話を始めた。


「これは私が親友の夏子さんから聞いた話なのですが……」

「え? も、もしかして……」


コハクの雰囲気、そして最初の語り方からコハクの話す内容が怪談であることを察してしまったらしい。コハクも気づいてたのね。萌黄が怖い系が苦手だって。


まぁ、都市伝説の番組の時の反応を見れば誰でも分かるか



「小学校の裏の墓地に……」

「た、タイム!! 何で僕だけ!? 揉んでよ!! 僕の胸を! 火蓮ちゃんより大分揉み心地は良いから!」


ほほう、言ってくれるわね。萌黄……


「コハク続けて」

「勿論です」

「ううう」

「萌黄先輩、罰はしっかり受けてもらいますからね? でないと永遠にこの話を貴方の前で話し続けます」

「ひ、ヒィィ……」



この後、萌黄はお風呂なのに顔を蒼くして震えながら話を聞き続けた。コハクはかなり根に持つタイプと言う事が良く分かった。



◆◆◆



今頃、三人は何してるのかなぁ……結構入ってから経つと思うんだが。俺は時計を見た。もうすぐ十時を超える。入ったのは九時だから一時間くらい女の子なら普通なのか?


そこら辺は良く分からないが三人が仲良く入っているなら良しとしよう。リビングのドアが開きパジャマ姿の三人が入ってきた。


銀堂コハクはほくほく顔でエロい。火原火蓮はツインテールはしていないためコハクの様なロングヘアー。黄川萌黄は……どうした? 顔がとんでもないくらい蒼いんだが……


「ごめんなさい、十六夜君。長居してしまって」

「悪かったわね。十六夜」

「いいんですよ……それより黄川先輩は……」

「気にしないでください。ちょっとお話しただけですから」

「そうなんですか?」

「そうです」

「ああ、そうですか……」


気にしなくていいのか? 少し聞くくらいなら


「大丈夫ですか? 黄川先輩?」

「……ダイジョブに見える?」

「いえ……見えません」

「だろうね。まぁ、気にしなくていいよ。ううう、眠れるかな、今日……」


察した大方怖い話でもされたのだろう。ええっと、どうするべきか?


「十六夜君、萌黄先輩のこれは罰なんです。私もかなりの事をされたのでイーブンなんです。十六夜君は気にせずお風呂に入ってください」

「ああ、そうですか……」



そう言えばこんな話があったな。暴走した黄川先輩にお灸を据える為に怖い話をするって内容が。まぁ、これは何だかんだ仲良くなっている証とも言えるから良いかもしれないが……今日眠れるか?


黄川萌黄は心霊系が大の苦手。それがチャームポイントでもあるのだが弱点ともいえる。そこを突かれたな。


「ささ、十六夜君お風呂にどうぞ」

「はい、それでは……」


俺はお風呂に向って行った。黄川萌黄は大丈夫か?


◆◆◆


お風呂に入った。


彼女達が入ったお風呂……べ、別に何とも思ってないんだから!! 


……キモいな。さっさと入って上がろう。



髪と体を洗い湯船に念入りに浸かった後、ふろ場を出た。



◆◆◆



時刻は十一時近い。もう、良い子は寝る時間だ


「三人は客間を使ってください。布団三枚敷いてあるので」

「何から何まですいません」

「ありがとうね」

「……どうも」

「あそこの部屋です」


その後、話を少しした後三人を部屋の間でまで送った。



「それではおやすみなさい」

「また、明日ね」


二人は部屋に入って行く。黄川萌黄も続いて入ろうとする。

黄川萌黄大丈夫か? フォローしておくか。良い睡眠が出来ないと健康にかかわるらしいからな。


「黄川先輩ダイジョブですか?」

「ダイジョブだよ」

「あの、この家にはお化けとかいませんよ。俺ずっと一人暮らししてますが心霊現象は一度も起きてません」

「そう、なんだ」

「それとこれどうぞ」

「これは連絡先?」

「メールと電話番号です。夜おトイレ行きたくなったら怖くて先輩は一人で行けないと思うので連絡してください」

「な! 何言ってるの! そ、そんなことないから。し、失礼だよ!!」

「そうですか、ではその連絡先はいりませんね」


俺が彼女に渡した連絡先を書いてある紙を奪おうとすると、彼女はスッと取られない様に引いた


「い、一応、貰っておくよ」

「そうですか。それではおやすみなさい」

「お休み……」



彼女は部屋の中に入って行った。ちょっと不機嫌そうにしながら。さてと俺も二階の自室に行くか……


◆◆◆



深夜。寝ている俺のそばにあるスマホが鳴った。


そこに書いてあったのは


『起きてる? 起きてるなら、言いづらいんだけど……部屋の前まで来てくれないかな?』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る