第44話 自宅に泊めるアジ

 

「エッグ……ヒッグ……うぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁっぁあああああああ!!!!」

「男の子でしょ。もう泣き止みなさい」

「十六夜君、ちり紙です」

「あじ、がどう、ごじゃいあまあうあす」


 火蓮ちゃんが頭を撫で、コハクちゃんがちり紙を差しだす。彼はちり紙を受け取ると鼻をかむ。かれこれ一時間以上泣きっぱなしだ。えっと……滅茶苦茶良い人って言う事で良いのかな? きっとそうなのだろう。



僕のことなのに僕より泣いて僕をよりも僕を心配してくれている。今までこんな男とはあった事がない。

今までにない男である彼に少し、彼に興味が湧いた。


その後、三十分して彼は泣き止んだ。


◆◆◆


「す、すいません。俺が結局一番泣いちゃって……」

「いいわよ、それだけ優しいって事なんだから」

「そうです、そこが十六夜君の魅力です」

「僕の為に泣いてくれたんだから謝ることは無いよ」


ち、ちくしょう! 恥ずかしいじゃないか!! 鼻水垂れ流して号泣って!!

あんな感動的場面を見せられたら泣いちまうよ!! 


火原火蓮と銀堂コハクの真っすぐな性格の分かる素晴らしい相談だった。やっぱりかっけえな! おい!


しかし、恥ずかしい事には変わりない。俺の方が精神的に上なのに……。火原火蓮に頭なでなでされて、銀堂コハクにちり紙渡して貰って……お得だな。最高だな。特に頭ナデナデ最高だな。流れでしてもらったが母性溢れる安心感があった。そして、彼女にしてもらった事に光栄で素晴らしい経験で感動してまた感極まってしまうというループ。


子供でもあそこまで泣かない。黒歴史だな……最近、黒歴史がドンドン増えてるような……


 まぁ、黄川萌黄の寂しさとかが無くなったから良かったんだけど……。

本来、黄川萌黄の孤独の告白『ストーリー』では正月に行われる。その頃には『魔装少女』として戦う内に仲間意識が良くなり自分から告白するのだ。そこで、銀堂コハク、火原火蓮、四人目も悩みや過去を言い合い絆が深まる。


突っ走り過ぎてかなり前倒しで行ってしまったが、まぁ、大丈夫だろう。絆とか親密度はいくらあっても困らない。


「あ、大分外が暗くなってますね」

「そうね」

「そうですね」

「そうだね」


夜道に美女三人を解き放つというのも如何なものか? 全員を自宅に送るのは出来ないし。俺が悩んでいると……


「十六夜君。……夜道を一人で帰るのは危ないので泊めてくれませんか?」


と、泊めて欲しいだと!!!!!! う、嘘だろ……。こんな美女を家に泊めるだって!? ど、どうしましょう!?


「はぁ、何言ってんのよ!?」

「コハクちゃん、若い男女が一つ屋根の下はダメじゃないかな?」

「銀堂さん、流石に、それは……」

「夜道は危ないです。こんな時間に私を夜道に放り込むつもりですか?」

「その言い方は……」


そんな言い方をされるともう何も言えない。しかし、泊めるのも……ダメじゃないか? 万が一間違いがあれば……


「泊めてください……」

「うっ、で、でも」


そ、そんな目で言われたら。彼女の瞳は少し揺れていた。そして、媚びるようにしている声。しかし、泊めないぞ。俺は!!


「もしかしたら、また変な人に付きまとわれるかもしれない……私、怖いです……」

「うぐぐぐ、そ、そうですね……」

「騙されないで! 十六夜! しっかりして!」

「コハクちゃんって演技派なんだね……」

「でも、怖いって……言ってますし……どうすれば……」



 前回の事で過剰に恐怖があるのも仕方ない。そこで一人で返すのはダメだろう。嘘と言う可能性もあるが関係ない。あの雰囲気の彼女に言われたら何とかしたいという選択肢しかないのだ。しかし、どうするのが正解なのか……


「だったら、タクシーとか呼べばいいじゃない! 何なら私のパパにお願いして家まで二人とも車で送ってあげるわよ!!」

「チッ、余計な事を……」


そ、そうか、うっかりしていた。何かしてあげたいが家に泊めるのはダメだよな……。他にも手段はあったんだな。


「十六夜君……」


そんな甘えた声と目はヤバいって……だが、も、もうその手は食わないぞ……次こそはハッキリと断ってやる


「銀堂さん、ごめんなさ……」

「十六夜君。実は最近隣の部屋から変な音がして……私、怖いです……」

「……うぐぐぐ、しかし、あ、いや、でも……」

「だから、しっかりして!!! こんなの秒でわかる嘘じゃない!!」

「コハクちゃんて結構あざといんだね……」


確かに嘘かもしれない。その可能性があるのは勿論分かっている。しかし、もしかしたら本当かもしれないという可能性も無くはない。それで彼女が怖がっているなら何とかしたい、しかし、泊めるのは……



「ウソって言う証拠はあるんですか?」

「うぐ、だ、だったら私の家泊めてあげるわよ」

「それは一番ないです」

「はぁ!? 失礼にもほどがあるんだけど!?」

「得体のしれない人の家には泊まるわけにいかないという常識的判断です」

「誰が得体知れないって!? だったら私は十六夜の家に得体のしれない奴を置いては置けないわ。十六夜を守る為に私も泊まる!!」

「何言ってるんですか!? ダメですよ!?」

「得体のしれない奴が泊まるから仕方ないわね。こればっかりは!」



ギャーギャー二人が言い争っている。先ほどまでのあの絆の強さみたいなのは何処へ行ってしまったのだろうか? ずっとあの感じで居て欲しかったんだが……


「僕は帰ろうかな。お邪魔だろうし……」

「お邪魔ではないですが大丈夫ですか? 夜道は危ないですよ?」

「……ありがとう、大丈夫だよ」

「そうですか……」


黄川萌黄はリビングのドアに向って行く。何ならタクシーを呼んであげよう。お金は俺が出して……考えているうちに彼女は帰る為にドアに手をかけようとして……


「どうせ、怖いなんて嘘なんでしょう!? 隣の部屋から変な音って言うのも絶対嘘!」

「嘘じゃないです! 最近この辺りは幽霊が出るらしいんですよ!! それも怖いんです!!」


ピタッと彼女のドアにかけようとしていた手が止まった。そのまま、数秒フリーズ。


「嘘つくんじゃないわよ!!」

「本当です!! とんでもない幽霊がこの町のあちこちに!!」

「聞いたことないわ!!!」


二人の怒声が響き渡る中、黄川萌黄がドアの方に向いていた体をこちらに向けなおした。そして、苦笑いしながら顔を蒼くしながら告げた。


「ぼ、僕も泊ろうかな?」

「「はぁぁぁぁぁ!?」」

「ほら、やっぱりこの時期のこの時間は女の子は外に出てはいけないって言う条例があるし……」

「ないわよ」

「そ、それじゃあ……あ! それにこの町には女の子は外に出てはいけないって言う古来からの習わしもあるし……」

「聞いたことないですよ」

「と、とにかく二人が泊まるなら僕も泊まる。ほら、あれだから……そう! 

若い男女が一つ屋根の下はダメだよ。風紀があれだから! 間違いが起きたら大変だし、風紀があれだから! 万が一に備えて風紀を僕は守る!」

「萌黄先輩って風紀凄く気にしますね……風紀委員なのですか?」

「え? あ、えっと……図書委員です……」


恐らくだが幽霊が怖いんだろう。黄川萌黄は虫と幽霊が苦手だからな。怖がるのも仕方ない。普段は一切そういうのは考えないようにしているが一度考えるとしばらく色んなものに怯えてしまうんだよな。


「と、とにかく二人の内どちらかでも泊まるなら僕も泊まる!! け、決定事項だから!!」

「も、萌黄まで……」

「私の計画が……」


 もしかして三人がと、泊まるのか? 夢みたいな展開だがこれは……良いのかな? 超美人であり、『魔装少女』の初期メンバーの三人が俺の家に……光栄だけどこれでいいのか? 


 倫理的には……でも銀堂コハクは怖いって言ってるし、黄川萌黄も一人暮らしだから一人は怖いだろうし、ここで火原火蓮だけ泊まるのはダメって言うのも……。えっと、どうするのが正解なんだ。冷静に考えてみよう。



「ううっ……仕方ないですね。三人で泊まりましょう」

「そうね……それでいいわ」

「うん、そうだね。良かった四人も居れば怖くな……」


 色々悩まざるを得ない。ここで一体何が正解なのか。分からないぞ。俺は……


「そういうわけですので十六夜君。お世話になります」

「よろしく、十六夜」

「あ、その、よろしく……」

「えっと、その……」


未だに悩みが解決せず答えが完璧に出せない。


「いいですよね?」

「いいわよね?」

「いいかな?」

「あ、どうぞ。むさくるしい所ですが……」


この三人に言われたら泊めるしかないな。悩みとかは吹き飛んだ。まぁ、手とか出さなければ問題ないし。これで絆とかが深まれば尚良いから泊めてもいいよね? 学校の生徒とかにはバレない様にいつもより早く出て……


色々、考えるが俺は賢者の如く達観していればいい。と言う事だ。



◆◆◆











  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る