第42話 私欲な夢に浸る銀

 放課後が来てしまった……。本日の授業は何故かいつもより数段早く終わった気がする。帰りのホームルームも終わり、席に座りながら項垂れていると教室のドアが開いて俺を呼ぶ声が聞こえる。


「十六夜。萌黄が話したいことあるって」


 ざわざわと教室内が騒ぎ出す。この現象に慣れ始めている自分がいる事に戦慄を禁じ得ない。火原火蓮と黄川萌黄。この学内で三本の指に入る美女。


 まだ、火原火蓮はセクハラ……事故の事は知らないようだな。この後、どうなるのか見当もつかない。ただ、恐ろしいことになることは確かだ。


「はい……今行きます」


トボトボと彼女達がが待つドア付近に近づいて行く。火原は笑顔だが黄川は怪しみの目を向ける。そこに銀堂コハクも参戦。


「ちょっと、待ってください。十六夜君に用ってなんですか?」

「ああ、そう言えば萌黄はアンタにも用があるって」

「私にも? ……用って何ですか? 萌黄先輩?」

「ここじゃあ、あれだから一旦外に行かない? あんまり大声で言う事でもないし……」

「まぁ、良いですけど……。また、十六夜君に何か失礼な事を……?」

「だ、ダイジョブだよ……そ、その、ちょっと確認したいことがあるだけでそれを二人にも……き、聞いてほしくて……」


銀堂は先日の勘違い事件の様なことにならないか心配の様で圧力を黄川に掛ける。黄川は物凄いびくびくしながら、目を逸らしながら話を続けた。確かに、かなり怖い。


顔は凄い可愛いのだが目の奥に深い闇を一瞬だけ、見た気がした。本当に一瞬だがから勘違いかもしれないが。


「落ち着きなさい。取りあえず、ここでは話させないんだから喫茶店にでも行かない?」

「そうですね、そこで問い詰めればいいだけですから」

「そ、そうだね。喫茶店に行こう……」


火原が止めてくれたから銀堂が一旦引いたがこの後は喫茶店か……。不安を覚えながらも俺は喫茶店へ向かった。


◆◆◆


喫茶店についてしまった。火原火蓮と以前話して直ぐに別れた喫茶店だ。


「いらっしゃいませ。あ! この間の! 仲直り出来たんですね!」

「ええ、まぁ、一応そんな感じですかね……。あの、この間はお店の雰囲気悪くしてすいませんでした」

「十六夜じゃなく私が悪くしたんです。すいませんでした」


俺と火原、二人で謝罪する。あの時は混乱していたため謝罪できなかったが本来ならあの時すべきだった。


「気にしないでいいですよ。仲直り出来て良かったですね」

「はい、ありがとうございます」

「ありがとうございます!」


以前の事を謝罪してから席に向かう。店内には数人のお客さんがいる。美女三人に驚きの視線だ。


ハーレムとでも思われてるのかな? そんなことは一切ないんだが……。俺とは釣り合いが全く付かないとんでもない人達なのだ、ハーレムとかそんな気は一切わかない。


「じゃあ、私が十六夜の隣座るから二人はそっち側に座って」

「何言ってるんですか! 仕方ないから私が一緒に座るんです!」


未だにツンデレが残っている銀堂コハク。可愛いな。いつものお嬢様的な感じが一番だが偶にはこういうのも全然ありだ。火原火蓮のヤンデレも良かったのだがちょっと恐怖が大きかった。


これ以上、落ち着いた店内の雰囲気を壊すのは他のお客さんが困ってしまうかも……


「ありだな」

「コーヒーが美味い」

「美女の喧嘩とコーヒーってあうな」


あ、逆に満足してるんですね。でも、これ以上二人を喧嘩させるわけにもいかないので止めるのだが。


「ええっと、二人とも店内ですから落ち着きましょう」

「じゃあ、十六夜が決めなさいよ。私を選んだら、仕方ないから座ってあげてもいいわよ」

「そうです。決めてください。もし、私を選べば、し、仕方ないから隣に座ってあげます」

「……」


どうしよう。どっちを選んでも……敢えて、黄川萌黄を……。チラリと彼女を見た


「ッ!」


彼女はブンブンと頭を何度も振った。そこに自分を巻き込むなと言う意思表示がとんでもなく伝わってきた。流石に彼女を巻き込むのはダメだな。逆にこじれそうだし。なら、どうすれば……


「あのー、お冷持ってきました」


店員さんがお冷を持ってテーブルの上に置く。未だに座らない為、迷惑だったかもしれな。


「「「「ありがとうございます」」」」

「いえいえ」


店員さんがお冷を置く。そして、


「席が決まらないならくじで決めたらいいと思いますよ。ほら、ここに割りばしが四本あります。短いのと長いのでペアです。中々決まらないならこういうのもありですよ」


とんでもない助っ人だ。俺が困って、決めきれないのを見て手を差し伸べてくれたのではないか?


「くじ引き……まぁ、ずっとこのままって訳にもいかないわよね……本当は十六夜にスパっと決めて欲しいけど……」

「本当は十六夜君にスパっと決めて欲しい所ですが、十六夜君はこういう時は決めきれないですし……」


二人そろって俺に目線を訴えるように目線を向ける。……この二人仲がいいのか?


「はい、それじゃあどうぞ」


店員さんの手の中にある割りばしを四人全員で引く。結果は……


「嘘……何で?」

「何でアンタと一緒なのよ!」

「それはこっちのセリフです!」


俺と黄川が短い割りばし。火原と銀堂が長い割りばしを引いた。取りあえず席に着く。俺が黄川の隣で窓側。向かい側は火原が窓側でその隣に銀堂と言った感じだ。


「とりあえず、注文しましょうか……」

「ちょっと、私が見てるじゃない!」

「私が見てるんです!!」

「……」


ツンデレーズがメニューの取り合い。黄川はメニューを眺めている。二つしかない為、分けて見るしかない


「あ、パフェ」

「太るわよ」

「は?」

「あ?」

「太りませんよ、ちょっとくらい食べても。逆に貴方はもっと食べたほうがいいのでは? まっさら体系なんですから?」

「うっさいわね……」


そう言うと火原は銀堂のわき腹つまんだ


「ちょ、ちょっと、何するんですか?」

「大分皮下脂肪がついてるみたいよ? 豚さん?」

「あ?」

「は?」


収集が付かない。



「俺、このブラックコーヒーにしますね! 黄川先輩はどうします!?」

「え? あ、じゃあ、ココアで……」

「それじゃあ、もういいですよね? これ使ってください!」


メニューを渡す。これで一旦二人を分断できる。この二人を仲良くさせたいとずっと思っているのだが全く進展しない。


二人はそれぞれ、メニューを眺め始め決めたようなので店員さんを呼ぶ。


「ご注文はお決まりになりましたか?」

「僕はココアでお願いします」

「私はパフェでお願いします」

「私はオレンジジュースでお願いします」

「俺はブラックコーヒーでお願いします」


店員さんが注文を取り去って行く。そうすると再び喧嘩になるわけで……


「カロリーの過剰摂取」

「幼児体系」

「豚」

「ぺったん」

「もう、やめましょう!? 他のお客さんも居るわけですし!」


「「た、確かに」」


ようやく、二人のスイッチがオフになったようだ。


「他のお客さんの居る前でこんなことをするなんてはしたないわよね」

「そうですね。迷惑ですしやめましょう」


周りのお客さんたちは少し残念がっているが落ち着いてくれた。


「そう言えば、萌黄。用って何?」

「確認したいことがあると言っていましたが?」


一息つく暇もなくイベントが次から次へとやってくる。さて、お願い神様。俺を助けてくれ


「二人って、彼にエッチな事とかされたことない?」

「ええ!?」

「きゅ、急になによ!?」

「大事な事だから聞かせて欲しい」


二人は何て言うんだ……。


「な、ないですよ。私は……」

「私も無いわ……」


よ、良かった~。二人ともありがとう!! これで誤解は解けたよ!! 多分。


「そ、そうなんだ。……じゃあ、今日のあれも偶然の事故って事なのかな……どうなんだろう……」

「事故ってなんですか?」

「私も気になる」


あ、なんか雲行きが怪しくなってきたような……


「ああ、うん、あのさ、今日、彼に触られたんだよね……」

「「…………何を?」」

「その、胸を……」

「「ドウイウコト?」」



二人揃ってハイライトが消えた目を俺に向けた。


「えっと、わざとかわざとじゃないか僕には判断できないし。もしかしたら、二人もどさくさに紛れて痴漢とかされてないか心配になったから二人にいろいろ意見を聞こうと思ったんだけど……」

「「ドウイウコト?」」


黄川の話は全く入っていないのか。こちらしか見ない。机の下をくぐってこちらに来ると二人は逃がさないと言わんばかりに肩をそれぞれ掴むとグイッと顔を近づけた。


「じ、事故なん、で、す」

「「ホントウニ?」」

「ひゃ、ひゃい……」

「一から十まで全部聞かせていただきましょうか? 火蓮先輩もそう思いますよね?」

「そうね。全部聞きたいわ……」


「ウソはつかないでくださいね?」

「もし、ついたら……」

「わ、分かってます!!」


この後、一時間かけて誤解を何とか解いた。状況説明を十回以上してようやく納得してくれた。蜂が襲ってきて偶然が重なり、事故が起こってしまった事。ブラックコーヒーは味がしなかった。






◆◆◆






 結局、事故なんだろう。二人にはそんな行為は及んでいないようだし、状況説明を何度もする彼を見て、話を聞いているうちに確かにその通りだと納得できなくもない。

 火蓮ちゃんとコハクちゃん。二人は仲が悪そうに見えて仲が良さそうだ。お互いに共感しあって仲間のように見える。僕とは違う。あの喫茶店で感じた疎外感。

 

 彼に好意を持っていた二人。僕には共感は出来ない。


 僕は他の女の子とはずれている。今日の事で自分がずれてる感情が強くなった。ネット、噂に惑わされ現実との区別ができない。僕は普通じゃない。背も高いし、偏見もある。考え方も体つきも他の人とは大きく……


”ズレテイル”


寂しい……。このまま、僕は一人ぼっち?



いけない。あまり考えないようにしよう。これを考えしだすと歯止めが利かない。永遠に負のスパイラルだ。偶にふと考える事があるが毎回、何も得るものはない。ただ、負の印象を自分に抱くだけ。


今日はもう寝よう。



◆◆◆



全く十六夜君は……一体どんなラッキースケベですか? ラッキースケベと言う言葉は最近覚えた。


でも、良かった。誤解で。


 もし、誤解では無かったらどうなっていたか。私自身も想像ができない。まぁ、十六夜君はそんなことをする人ではないと信じていたが……念のため疑っただけだ。


 今日はもう寝ましょうか。私はベッドに横になり目を閉じた。





 目を開けると、通学路に制服を着て歩いていた。あれ? さっきまで寝てたような気がするけど……。何処か体がフアフアするような不思議な感覚。


「銀堂さん!!」


 この声は十六夜君。すぐに分かった。


「十六夜君。おはようございます」

「おはようございます。もし、良かったら俺と学校行きませんか?」


い、十六夜君から誘ってくるなんて……久しぶりで若干緊張してしまう。


「全然、良いですよ……」

「やった!!!! それじゃあ、行きましょう!!」


 彼は私の手を握った。えええええ!? せ、積極的過ぎませんか!?

 そのまま、二人で学校までの道を歩く。凄い恥ずかしい……。周りの人達も凄い見てる。


 学校に着いても手離さなかった。教室についてようやく彼は名残惜しそうに手を離した。

 も、もう、何なんですか!? いつもと違いすぎませんか!? 嬉しいですけど! 嬉しいですけど!


 彼は自らの席に戻って行き……その時、急に景色が切り替わった。夕日に照らされた学校の屋上にいつの間にか私は立っていた。目の前には十六夜君が強い瞳を私に向けている。


「銀堂さん、俺と付き合ってください!」


ど、どないしたん!!!!??? 何これ!? 夢みたい!!!


「は、はい。こちらこそ、よ、よろしくお願いします……」


つ、付き合うならやらないといけない事がある。


「あの、十六夜君。まずスマホのパスワードを教えて貰えますか?」

「良いですよ! パスワードは0721です!!」

「ありがとうございます。後、明日からはお弁当を作ってくるので、食堂では食べないでくださいね?」

「はい! はい! はい!」

「後、他の女の子と話すのも控えてください。話すときは私に許可を取ってからと言うのを約束してください」

「はい! はい! はい!」

「それじゃあ、不束者ですがよろしくお願いします……」

「はい!はい!はい!はい! よろしくお願いします!」


やった!! と、特別な関係!? ミジンコ程に僅かだが付き合うための条件をつけてしまった。でも、十六夜君から付き合ってほしいと言ったわけだからなんの問題もない。十六夜君は……私の彼氏は急に私の目の前に来た。


「付き合ったので、キスしていいですか?」

「えええ!? 急すぎませんか!?」

「それじゃあ、早速」

「ちょっと、心の……」


彼は私を抱き寄せて唇を……



◆◆◆



ピピピピピピ!!!!!!



私はベッドから飛び起きた。目覚まし時計の音が室内に鳴り響く。ゆ、夢? 

後、三秒目覚ましが遅ければ……あのまま……


そう考えると頬が熱くなる。本当はあれくらい十六夜君から来て欲しい。だって、いつも私から色々誘うけど恥ずかしいから。彼には乙女心をもっと分かって欲しい。少し、頬を膨らませてしまう。


僅かに彼に対する不満だ。でも、あの夢は良い夢だった。



――いつか夢を現実に……








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