第40話 再び回顧するアジフライ

 問。娘に無理やりキスをしようとして、さらにパンツ見てしまった場合、その娘の親に会うときどのような顔をすればいいか?


 回答。分からない……。だって、どうすればいいか分からなくない? パンツはまだバレてないけど、無理やりキスをしようとしたんだよ?


 ヤバいでしょ? 普通だったら二度と関わるなって言うくらいだと思う。これで、キス事件がバレてなかったら多少行きやすい。あくまで多少であるが。そもそも、女の子の家に行ってその子の両親と顔を合わせるって事態が気まずい。


 行きたくねぇ……。絶対変な奴って思われてるよ……。公認? 絶対嘘だ。

ちょっと、熱い言葉を言ったけど実は娘に冗談とは言えキスをしようとした変態。


『あんた達がやり直せるって信じてるんだよ。なら、貴方も信じてやれよ。貴方が貴方達が一番信じなきゃいけないのは火原火蓮じゃないのか? 彼女がやり直せるって信じてるだけでもう一度やり直して、一から家族を作る理由になるんじゃないのか?』


こんな熱いセリフを言って実は、キスだぜ? 娘にキスしようとしたんだぜ? 恥ずかしさと気まずさでどうにかなりそう。殴られたりするかも。


……手土産でも、持っていくか。うん、そうしよう。


「あの、先輩」

「今更行かないはダメって言ったでしょ?」

「そうじゃなくて、何か手土産でも……」

「ああ、そういう事。気にしなくていいわよ。こっちが呼んだんだし」

「いえいえいえいえいえいえいえいえ、お邪魔するわけですから、断固として買います」

「そ、そう? そこまで言うなら」


良し! これで雀の涙ほどではあるが夫妻から、変な目で見られないぞ。ほんとに少しだが。


「それでは、行きましょう」

「あ、うん」


移動中。先ずは、お饅頭屋さん。専門店らしいのだが薄皮饅頭とか、中身がこしあん、粒あん。どれも美味しそうだが……。


「あ、これ、美味しそうじゃない。パパもママもお饅頭好きだし、これでいいんじゃない?」

「うーん……」


 確かに、どれも美味しそうだ。だが、こんな安物でいいのか? もう、ちょっと良い感じのが良い。高めのやつ。お、良いの発見。これにしよう。他のより高いけど、大した額じゃないし


「よし、これにしましょう」

「ええ? これでいいと思うけど……。それ、ちょっと高くない? 数もあんま入ってないし」

「これくらいがいいでしょう。二つ買います」

「そう……」



これで、多少機嫌が良くなりますように……。


「じゃあ、そろそろ私の家に……」

「あ、その前に」

「?」

「ハムとか買って行きましょう」

「まだ買うの!?」


ハム、ソーセージ、饅頭、メロン、を買って火原家に向かう。物で釣るわけではないがこれくらい買った方がいい。娘にとんでもない事をしたわけだからな。


◆◆◆



彼女の家に着いた。


「ちょっと、待ってて……」

「あ、はい」


彼女は一足先に家の中に入って行った。僅かな時間が経つと、彼女の大声が聞こえてきた。


『ちょっと!!! これはダメーーーー!!!! 何これ!? ヘンテコ家族って思われるじゃん!!!!!! ダメダメ!! 絶対ダメ!!!』


何だ? 何があるんだ? かなりの大事だな、これは。帰っていいか? 


そんな事を考えていると家のドアが開く。彼女が暗い顔出てきた。


「どうぞ、おあがりください……」

「だ、大丈夫ですか?」

「ええ、とりあえず……その、最近のパパとママはちょっと、ユニークって言うか、そんな感じだから。だけど、凄い優しくて良い人だから。誤解しないでね?」

「え、はい」


彼女に念押しされて家の中に入って行く。綺麗で清潔感のある内装。落ち着いていた気品がある。廊下を渡ってリビングと思われる部屋のドアの前で彼女は止まった。


「十六夜にパパとママも感謝してる。勿論私も。でも、感謝がぶっ飛んでると思うから……あまり、変に思わないでね?」

「はい、二度も念押ししなくて大丈夫ですよ?」

「それでも、たりないのよ……」

「え?」

「とりあえず、ようこそ、火原家へ」


彼女はちょっと、がっくりしながら扉を開けた。そこには……


『welcome 黒田十六夜様!! 大感謝祭!!』


大きめの看板の様な物がぶら下がっており、紙で出来たわっかを繋いだ輪飾り。ペーパーフラワー。くす玉のある。クリスマスですら、こんな飾りつけはしないだろって言うくらい豪華な部屋になっていた。


「ようこそ、十六夜君」

「よく来たね、さ、座って」


火原夫妻が満面の笑顔で出迎えてくれた。ちょっと、何が起こってるのか分からない。


「えっと?」

「とりあえず、座って……何も言わずに……」


彼女も頭を抱えながら座るように促す。テーブルの上には料理がすでに出来上がっていた。赤飯と鯛。その他もろもろ。から揚げ、サラダ


「あ、その、つまらないものですが」

「まぁ、気遣いの塊のような子ね!!」

「失われし大和魂を宿しているんだね!!」


……そ、そんな褒めるか? っていうか、キス事件の事は別にいいのか? あんまり気にしている感じじゃないが……


「……とりあえず、座って……」

「大丈夫ですか?」

「どう見える?」

「大丈夫な感じではないですね」

「でしょ? ほら、席について」

「あ、はい」


彼女に促されるまま席に着く。火原夫妻を向き合い、火原火蓮が隣に着く。


「あ、すいません。その前に手洗いとうがいしてきていいですか?」

「当たり前の事を当たり前にこなすのは鬼才ね」

「そうだね」

「……」


彼女も無言で洗面台に向かった。



「何か、思ってた感じとは違いますね」

「変って思うかもしれないけど、変じゃないのよ!! 本当に!! 二人とも世界一やさしいの……。二人とも十六夜に感謝してるだけだから嫌な感情は抱かないで欲しい」

「大丈夫ですよ。ちょっと、好感度が高すぎるような感じもしますが……先輩の両親なんですから変な人ではない位は容易に想像できます。」

「そ、そう……ありがとう」

「いえ、早いとこ手を洗って行きましょう。俺お腹空いちゃって」

「うん、行こう」


◆◆◆



よ、良かった。パパとママが変人に思われなくて。流石にあそこまでされたら引かれるかと思ったけど良かった。


最初はあの飾りつけはダメと思ったけどパパとママがせっかく作ったものだし、無理に片付けるのは出来ない。かと言ってあのまま通せば十六夜が私たち家族を変人と思って、嫌うかと思ってしまった。私は十六夜に私達三人共、好きになって欲しい。

だから、変に気を遣ってしまったけど……


まぁ、あの十六夜がそんな事を気にするはずないわよね!! ああ、本当に杞憂!!!!!


もう、パパとママも褒め過ぎ!! 普通はあれやったら引かれるわよ!! 


まぁ、大海より深い懐を持って、魔眼並みの観察眼を持っている十六夜だから大丈夫だったけどね!! 


◆◆◆


 結局、一発殴られることなく、食事するだけだった。食事はどれも絶品で素晴らしい物だった。帰る為に玄関で靴を履きながらそんな事を考える。帰り送って行くと言われたが断った。一人で帰れるし、迷惑をかけたくもない。


 あの夫妻だが、やっぱり褒め過ぎな気がする。最初にお吸い物に口をつけたのだが、汁から食べるのが礼儀らしくそれも褒められた。後、質問も凄い。両親の事も聞かれたな。夏休み、お盆の予定とか。


 何だかんだ充実した食事であった。それに、大分家族の距離が近くなっていた気がする。それが確認できただけで、安心した。


「それでは、ご馳走様でした。失礼します」

「いつでも婿に……じゃなかった遊びに来てもらって構わないわ」

「そうだね、孫の顔……じゃなかった君の顔が見たいからいつでも遊びにきてもって構わないよ」

「え? あ、はい。失礼します」


取りあえず家を出た。かなりとんでもないことを言っていた気がするが気のせいだろう。きっとそうだろう。火原火蓮は外まで着いてきてくれた。


「送ってく?」

「いえ、大丈夫ですよ」

「今日はありがとう。楽しかった」

「こちらこそ、楽しかったです。料理もおいしかったですし」

「そう、良かった」


彼女は一呼吸おいた。風が吹き僅かに紙が揺れる。月明かりが彼女を少し照らす。


「ねぇ」

「どうしました?」

「アイツとはどんな感じなの?」

「アイツ?」

「コハク……教室とかで……」

「偶に話したり、話さなかったりですかね? クラスメイト結構居ますから、銀堂さんも他の女子生徒と話したりしてますよ。特に野口夏子さんって言う女子生徒とよく話すのを見ますね」

「……よく見てるのね」

「そんなに、見てないですよ……」


一瞬、彼女から表情が消えた。声も冷たくなり、ゾクッ!! と背筋が反応してしまう。潜在的な力を感じさせる雰囲気が彼女からは感じられた


「見てるんだ。そんなに……私の事は最近、ほったらかしなのに……」

「ええ? そ、そんなこと……」

「前は、十六夜から色々誘ってきたのに……何で? 何で? 最近は構ってくれないの? 貴方から来てくれないの?」

「あ、えっと」


俺は一歩下がってしまった。何が起きてるんだ? さっきまで優しい雰囲気だったのに急に極寒のような場所に転移させられた気分だ。


「何で? 何で? 何で? 何で? 何で? 何で? 何で?」

「ちょっと……先輩」

「何で逃げるの? 嫌い? 私が嫌い? そうなの? 嫌いなの?」


俺は思わず尻もちをついてしまった。こ、怖すぎる……リアルヤンデレ。初めて見た。急すぎないか!? 


「ご、ごめんさ、さい。すい、い、ません」


体が震えてしまう。声も正常に出ない。極寒に居るように震えが止まらない。止めようとしても止まらない。


「あ、ご、ごめん。そこまで、怖がらせるつもりじゃなかったんだけど……」

「え?」


急に彼女はいつものような雰囲気に戻った。


「な、何で?」

「えっと、本当にごめん。ちょっと、ヤンデレをやってみたかっただけなんだけど、悪ふざけが過ぎたかも……ごめん」

「よ、よかった。冗談だったんですか……マジで怖かったです」

「そ、そんなに? ごめんね? と言うかごめんなさい」

「大丈夫ですよ。リアルヤンデレを味わえた貴重な経験と思えば大したことはないです」

「ごめんね」


彼女は手を伸ばした、それを掴んで足に力を入れて立つ。いやー、冗談で良かったですね。いや、かなり怖かった。


「大丈夫ですよ」

「ごめん……」

「いや、大丈夫ですって」

「調子に乗り過ぎた。あんなに怖がらせて……最低よね……」

「そ、そんなに落ち込まなくていいですよ! 結構、需要有りでしたし、先輩の知らない面が知れて良かったです!」

「そう……」


 す、すごい気にしていらっしゃる。ちょっと、ビックリはしたけど、俺も冗談でキスとかしようとしたから。まぁ、相殺位だよね?


「もし、それでも気にしてるなら、あのツンデレで元気一杯な先輩に戻ってください。あの先輩が一番素敵で一緒に居て楽しいですから。俺も冗談でキスとかしようとしましたし、両成敗ですよ」

「…………か、勘違いしないでよね! 別に十六夜の為に元気になるんじゃないんだから! このまま落ち込んでるとパパとママが気にするから仕方なく元気なるだけなんだからね!!」

「そうそう、その感じです。ヤンデレは先輩のイメージじゃないですよ」

「ありがとう。今後はツンデレで行くわ」

「はい」



やっぱり、素直で一緒に居て楽しいな。表情がころころ変わって話も結構合うから飽きがない。小説読んでるときはこんな女の子と話してみたいなと思ってたから、この日常が幸せなんだよな。


「それじゃあ、俺は帰りますね」

「うん」

「それでは、また明日」

「また明日」


よし、帰るか。それにしても火原家は随分『ストーリー』と変わったな。夫妻は仲良さそうだし。火原火蓮もヤンデレを演じるとは……。ちょっと、怖かったが可愛い事には変わりない。だが、俺はツンデレの方が好きなんだよな。


色々、考えながらも一人駅に向かう。この世界。色々変わり始めている気がする。それが良いか、悪いか、それはわからない。





◆◆◆


 ――やっぱり、優しいわね


 十六夜のことになると、最近我を忘れてしまう。暴走してしまう。迷惑をかけているかもしれない。でも、抑えられないこの気持ち。


 ――好きだ。私は


 自分勝手かもしれないけど、私の事も好きになって欲しい。これからはアピールの方法を変えないといけない。ツンデレの私が一番って言ってたわね。そして、ヤンデレ好きではなかった。今後はツンデレで行こう。今日、彼を更に知れた。


 彼が一番好きな私でこれからはアピールしよう。









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