第33話 お弁当を作ってもらったアジフライ
女の子に挟まれて上手く立ち回る秘訣を、ラブコメ主人公から教えてもらいたい。ヒロイン達の仲を良好に保つ。さらには、何だかんだ言いながらも、互いを信用させる。どうしたらあんな離れ業を、流れ作業でできるのだろうか?
学校のベンチで二人の美少女に挟まれ、傍目には羨まれる状況のはずなのに、女の戦いのトロフィーにされてしまっては下手に喜ぶこともできない。
「それじゃあ、私からね!!」
火原火蓮が可愛らしい赤い箱を開ける。中には唐揚げ、スクランブルエッグ、シュウマイ、たこ焼き。最後の二つは冷凍食品だと思うが、それでもよく出来ている。多少の粗っぽさあるが、そこが良いのだ。手作り弁当という感じがして。
「どう? 美味しそうでしょ?」
「ええ、とっても美味しそうですね」
「ま、まぁ、早起きして作ったから当然だけどね」
このちょっと照れてる感じが可愛い。ツンな感じの子が照れるのって可愛いという世界の真理、さらに料理ができないのに頑張って作ってくれたことで更に可愛さがアップするという相乗効果であり世界の真理。
二つの真理により可愛さの極限状態の彼女。
「それでは、次に私が」
しかし、それを上からハンマーで叩き潰すと言わんばかりのラスボス感。銀堂コハク。
彼女はおもむろに重箱を取り出す。
「な、なによ。それ!!」
「お弁当箱ですが? 何か?」
「おせちでも作ってきたの!? 普通そんなのに入れてこないでしょ!!!」
「え? そうなんですか?」
「分かってるくせに。とぼけやがって……」
重箱とは。ありがたいことこの上ないのだが、明らかに火原火蓮のマウントを取りにきている。
俺としては凄い嬉しい。男の夢が具現化して目の前にあるのだから。
だが、ライバルへの当て擦りという意味合いを思うと、素直に喜べない。今は、不仲を少しでも解消したいのだ。
銀堂コハクが重箱を開ける。中を見た瞬間、俺と火原火蓮は唖然とした。
「ちょっと気合が入りすぎてしまいましたが、女の子ならこれくらい普通ですよね?」
から揚げ、バンバーグ、ポテト、エビフライ、オムレツ、サラダ、カレーピラフ。彩が良く更に万人受けする料理が全部入ったお子様ランチ。
ゴクリと生唾を呑むほど美味そうだった。
「……」
火原火蓮は自分のお弁当と彼女のお弁当を見比べる。相手が悪かった。
人気投票、常勝不敗。常に一位。完璧すぎる彼女。
「それでは早速お弁当対決始めましょうか」
「ぅぅ……。そ、そうね」
火原火蓮は敗北を悟り、小さく縮こまる。銀堂コハクもこの時点で勝利を確信してる顔。
「じゃあ、その火原先輩のから頂きます」
「うん……召し上がれ」
唐揚げを箸で掴み口の中に入れる。うん、美味しい。少し焦げてるけど、焦げって嫌いじゃないから全然いける。
「美味しいです。手間がかかってる感じがして」
「あ、うん、ありがとう」
「えっと、じゃあほかのも」
「あ、うん」
銀堂コハクの料理を見せられた後だと、どう反応をしていいか分からないんだが。
あああ!! 凄い美味しい!!! なんて言えない。白々しいったらありゃしない。
「美味しかったです」
「そう、よかった」
気不味い。火原火蓮の作った弁当は美味かったが、次は私のを食べて美味しいと言ってくれという銀堂コハクのオーラがヒシヒシと迫ってきており、手放しで褒められない。
「じゃあ、次は私ですね!!」
「うん、、」
彼女の方が美味しいんだろうが、今回は無理やり両者引き分けに持ち込もう。不仲を直すのはこの状況では無理だ。少なくとも現状維持にしなくては……。
唐揚げを口に入れる。冷めてるのに柔らかい。そして、美味しい。……う、美味すぎる。
やっぱり彼女は完璧超人だな。
「他のも食べてください。美味しく出来ましたから」
「うん、それじゃあ遠慮なく」
ハンバーグ美味いよ……何だよこれ。とんでもねぇぞ。
「オムレツも食べてください」
「はい」
箸でオムレツを割ると中から黄身がとろけ出る。半熟かよ。こんなの美味しくないわけないだろ!!
口に入れる。卵!!! うめぇ。黄身が口の中で溢れてる!!
「エビフライもサラダも良く出来てますよ。どんどん食べてくださいね」
「あ、はい」
両方とも大変おいしゅうございました。カレーピラフも絶品だった。以前にカレーが好きと言ったから作って来てくれたのだろう。全ての品を一口ずつ頂いたので、結果を発表しないといけない。
「どうですか!? 十六夜君。どちらのお弁当が良かったですか!?」
「そ、そうだね……」
ハッキリ言ってしまった方が良いのかもしれないとも思うが、さて、どういって誤魔化そうか。美味しさだけなら銀堂コハクの圧勝だが、優劣をつけるのも……何か、嫌な感じがするし。
「え、えっと」
「アンタの勝ちよ……」
「「え?」」
火原火蓮が自分のお弁当を見ながらそう告げた。
「私の負け。勝負にすらなってなかったわ。恥ずかしい。もしかしたら勝てるかもって思ってたのが」
「火原先輩そんなこと……」
「気を使わなくていいわ。あっちのお弁当に比べたら私のなんて霞んで当然。大したことのない弁当だし」
彼女は声を震わせながらそう言った。そのまま自分の弁当に蓋をしようとして……
「ちょっと待った!!!」
俺は彼女のお弁当を取り上げる。
「ちょ、返してよ。あっちのお弁当の勝ちで美味しいんだから私のなんて食べなくていいじゃない」
「いいえ。返しません。そして、俺の独断と偏見によって審議した結果。勝負引き分けとなります」
「「えええ!!??」」
予想外の判定に、二人とも驚きの声を上げる。
「十六夜。気なんて使わないで!! そっちのほうが嫌なの!!!」
「気なんて使っていません。厳正なる独断と偏見による結果です」
「どうしたらあのお弁当と私のが引き分けになるの!!」
彼女の疑問はもっともだろう。だが、引き分けだ。
「確かにお弁当の味だけを評価するなら銀堂さんの勝利だったのかもしれない」
「やっぱり、そうよね……」
「でも、この勝負味だけじゃ決まらない!!! 勝敗を決めるのは俺だから俺の基準、十六夜特別ポイントが存在する!!!」
「「十六夜特別ポイント!?」」
二人は再び驚きに声を上げる。普通はこんなこと料理の勝負に持ち込まないだろうが、審判は俺なので関係ない。
「イエス。まず火原先輩にお聞きします。本当に家事を毎日するんですか?」
「え? そ、そうよ。偶にサボっちゃうかな? うん」
「そうですか。では、それを聞いたうえで先輩の評価に移ります。先輩のお弁当ですが味や見た目ではどうしたも銀堂さんの弁当に劣ります」
「そうよね……」
「しかし、同時に勝っているポイントがあります。それは何処だともいますか?」
「え? 何処かしら?? 」
「先輩は本当にラノベや漫画を読んでるんですか! そのポイントは普段家事もやらず家ではごろごろして、脱いだ服をその辺に置いているだらしない人がお弁当を作るというギャップポイントですよ!!!!」
「た、確かに。いや、わ、私家事するわよ。服だって脱ぎ捨てるなんて……しないわ」
「先輩は超だらしなくて、家事なんて全くできないのは大体想像ができますから誤魔化さなくて結構です」
「し、失礼な」
彼女がだらしないオタク系美女という事は知っている。本、グッズはしっかりと管理しているが、服は脱ぎ散らかしだし、家事なんて全くできないのを俺は知っている。
だからこそ、ギャップポイントが高い。
「先輩のお弁当はギャップと努力によって構成された、銀堂さんのお弁当にも勝るとも劣らない素晴らしい弁当。よって引き分けです」
「説得力はあるわね。料理下手な女の子が作るときって何か可愛いし萌えがあるわね」
「その通りです。先輩みたいな、ツンデレ、だらしない、家事なんて全くできない女と言う三拍子そろった子がお弁当を作るというだけで、それは三ツ星シェフが作った料理と同じ位価値があるんです!!!」
「褒めてるの? それ? なんかイライラしてきたんだけど」
「もちろん褒めてます。というわけで引き分けということでこの勝負は終わりです。素敵なお弁当二人ともありがとうございました」
咄嗟に浮かんだ考えにしては良く出来てるんじゃないか? 本当は不仲をどうにかしたかったが、今回は間が悪い。次の機会にするしかないな。
「何ですか? それ?」
「え?」
「十六夜君!!!」
銀堂コハクが突然声を張り上げるので、驚きに身が竦む。
「どうしてですか!!! どう考えても私の勝ちではないですか!!! あんな初心者が作ったお遊戯会みたいなお弁当がどうして、私のお弁当に勝るとも劣らないですか?!!!!」
「そ、それはギャップって言うか……」
「そんなの評価基準には入りません!!! 私がどれだけ苦労してこのお弁当を作ったと思いますか!!! から揚げが好きだっていうから二度あげして美味しくして、ハンバーグは普段なら買わない高い豚と牛をミックスして、エビフライ、サラダだっていい食材をこれでもかと使って!!! オムレツも半熟!!! カレーピラフなんて、カレーが好きだって言ってたけど流石にお弁当にそのまま入れるのはどうかなって思ってピラフにして入れたのに!!!!」
「何で引き分けなんですか!!! 納得できません!!!」
……思ってのと違う。次こそ勝利を掴んで見せます。みたいな感じでこの場は流れるかと思ったのに。
「いや、えっと」
「引き分けなの。十六夜がそう言ったんだから納得しなさいよ」
「絶対私の方が良いお弁当なんです!!! 貴方のなんて三歳児でも作れますよ!!! から揚げ焦げてるし、スクランブルエッグ? 卵焼きも出来なくて、冷凍食品も入れてるじゃないですか!!! そんな低次元のお弁当が引き分けのはずないんです!!!」
「残念ね。でも、引き分け!!!」
「グぬぬぬ。十六夜君!! もう一回審議してください!! このままでは終われません!!」
なんか結局カオスになってしまった。銀堂コハクめっちゃディスるし。
えっと、上手く纏めないといけない。
「あ、えっと銀堂さんのも星三つだよ……」
「五つって言って貰えないと納得できません!!!」
「その味と見た目は銀堂さんが良かったで……」
「でも、引き分けなんですよね!?」
「はい」
「何でですか!!!!」
「でも、味と見た目は世界一ですよ!! いや、宇宙一ですよ!!!」
「でも、引き分けなんですよね!?」
「はい」
「何でですか!?」
申し訳ないが、今回は引き分け。確かに料理の質などは銀堂コハクの勝ちだが、独断と偏見だから引き分け。これが一番摩擦が少ないよね? そうだよね?
ちょっと不安になってきた。
「銀堂さんのお弁当は本当に素晴らしい物だった。こんなお弁当を食べれたことが奇跡であり幸運だ!!! 本当にめっちゃくちゃよかった!!!」
「でも、引き分けなんですよね!!」
「引き分けって言うんじゃなくて、えっと。両方勝ち!!」
「同じですよ!!!!」
上手く誤魔化せない。失敗したかもしれない。でも、火原火蓮を悲しい顔にしておくことも、やはりできない。結局、俺は八方美人になりきれないクズだよ。
二人とも何というか憧れだった凄い人だから、できれば仲良くさせたかった。でも、それが難しそうだから、摩擦を最小限にするつもりだったのに上手くいかなかった。こんなことなら、勝負を有耶無耶にしないほうが良かったかもしれない。
「もっと食べてください!! そうすれば考えも変わるはずです!!」
「十六夜。結論は変えないわよね? 一度言った事を取り消すのは最低のする事よ」
さーて、午後も実行委員頑張るか!! その前に二人前のお弁当を楽しく食べよう。
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