第32話 占い師

 一年生の団体競技が滞りなく終了し、午前の部が締めくくられた。午後の部には、二年生、三年生の競技が控えている。


 俺達一年Aクラスは、クラス対抗の綱引きで勝利を収めた。個人、団体ともに、気持ちよく競技に挑めたと思う。




 実行委員にも短い昼休憩が与えられ、ようやく腰を落ち着けることができた。さて、俺には、体育祭以外にも考えなければならないことがある。




 俺は『ifストーリー』を前世で読んでいたが、三巻まで。そこから先は分からないがあるとしても残り一巻。そこから先はあり得ない。

 全てのバッドエンドは同一世界での出来事だと、作者が明言している。第一巻の時点で銀堂コハクが死んだ場合、五人目の魔装少女にバッドエンドは起こり得ない。だから、残り二人を救えば解決ということになる。




 黄川萌黄のバッドエンドは知っているが、その先である


”四人目” 


 この四人目については全く分からない。


 既刊の『ストーリー』、『ifストーリー』は買い集めたが、俺は全てを知っているわけではない。


 銀堂コハク、火原火蓮、黄川萌黄。彼女達については過去の話まで網羅しているが、発売中止になった『ifストーリー』の内容はどうしても分からない。


 住んでいる場所は大体把握できているが、どんな結末が待っているのか分からないため、四人目を守り抜く難易度はとんでもなく高い。


 完璧な方法で二人の少女を救ったと言い切る自信はないが、結果的にはそこそことは言える……よな? もっと上手く物事を運べたかもしれないが、俺にはあれが精一杯。何とかなっていると思いたい。

 しかし、それは『ifストーリー』の知識があったからだ。


 俺は四人目の行末を知らない。本来の『ストーリー』では皆ノ色高校に転校してくるが、『ifストーリー』ではどうなのだろうか?


 引っ越してきた後か、それとも黄川萌黄のバッドエンド直後か。これについては判断のしようがない。


 ただ、彼女の現在の住まいについては予想がつく。黄川萌黄の事件を解決した後すぐに向かおう、と考えていたのだが……

 しかし、想定外の『占い師』の存在。『ストーリー』に関わりはないが、そんな人物がいても不思議ではない。なにせ、この世界はファンタジーなのだ。今の所殆ど味わっていないが、まごうことなくファンタジー。


 妖怪、都市伝説、その他色々実在する。野口夏子も並外れた直観力を持つ『超能力者』だ。あと、この皆ノ色高校にも七不思議が存在する。俺は幽霊とかはマジで嫌いだが、超能力は羨ましい。

 まぁ、件の占い師にも流石にデメリット、弱点はあるに違いない。協力してくれると言うのだから、直接尋ねればいい。これ以上悩む必要はないか。


 考え過ぎも良くない。行動する方が大事。早速、電話しよう。一体どんな人なのか?



 スマホに番号を打込み、発信。呼び出し音が5回。繋がった。



「お主が黒田十六夜か?」

「はい。そうです。初めまして」

「愛から連絡先を聞いて我に連絡を寄越したということは分かっておる。要件を言うのじゃ」


 何か。喋り方が独独だな。一人称我。なんとかじゃ。じゃって……。っとそんな場合じゃない。何から聞こうか……。


 うーん。どの程度占いができるか聞いてみるか。


「えっと、占いができるんですよね?」

「一応な」

「どの程度分かるんですか?」

「知らん」

「え? 知らないんですか?」


 自分の能力なのに分からないのか? でも、何でも分かるって言われなくて逆に安心したかも。そう言われたら、裏ボスかもしれないと警戒しただろう。


「我の占いは絶対に当たるが何でもかんでも見えたり、分かったりするものではない」

「もっと分かりやすくお願いしてもいいですか?」

「まず、我の占いは占う相手の顔と占う条件を我が知らなくてはならない」

「それから何ですか?」

「後は結果が出るまで待つのみじゃ」


 簡単すぎる!!! 緩いな、占い。そんなことで占いができるのかよ。チートもいいところだな。俺も欲しいな、チート。


 心眼とか、封印されし右手とか。アカシックレコードとか無理だよな。あれば、あっさりバッドエンド解決できたのだがな。無い物ねだりしてもしょうがない。


「凄いですね。それは。当たりすぎて田舎に引きこもりになるのも納得です」

「まぁの」


 結構自信満々の感じの人だな。まぁのってそんな言い方初めて聞いた。だけど、その自信も納得の能力。


 この人に協力してもらえれば……


 ”四人目”のバッドエンドでも大分有利に立ち回れる。


「あの、占ってほしいことがあるのですが……」

「構わんぞ、ただ、その前にこの占いのデメリットを話しておこう」

「あ、はい」


 あって当然だな。こんな破格な力だ。とんでもないデメリットがあるに違いない。


「我の占いの結果が出る時間はランダムじゃ。そして、結果に関してもな。情報量に差異があるとき、抽象的に見える時、鮮明に見える時。鮮明に見えても使えない時。変な感じで見える時。様々ということじゃ」


 おお、何か本格的……なのか? 変な感じ? 使えない時?


「あの、変な感じってどんな感じですか?」

「そうじゃの……お天気ニュースのような感じで見えたり、いきなり動物で見えたりする感じかの」



 急に頼りなく思えてきたんだが、大丈夫だよな? 怪しいな。もっと詳しく聞いておこう。


「時間がランダムと言っていましたけどそれについては?」

「そのまんまじゃ。三秒だったり、一年後だったり。するの」


 するの、じゃねぇ!!! 一年後とか終わってんだろ!!!


「抽象的に見えると言っていましたがそれについては?」

「色で見えたり、動物で見えたりするからの」

「鮮明に見えても使えない時というのは?」

「自転車のカギのありかを占ったら町の何処かにあると出るイメージじゃ」




 つ、使えねぇ……。なんだこの占い師? とんでもねぇ助っ人が来たぜって感じだった時の気持ちを返してくれ!!! しょうもないわ!! 


だった時の感じを返してくれ!!! しょうもないわ!! 

 いや、待てよ。こんないい加減な占いなのにどうして俺の現状が分かったんだ?

もしや、何かとんでもない秘密が……?



「あの、俺と俺の現状についてかなり鮮明に知ってたようですが、どうしてそんなに知ってたのですか? 流石に今の話を聞いただけだと占いで分かったという感じがしないのですが?」

「ふむ、そこに気づいたか」


 何かとんでもない秘密が出てくる感じだ。一体どんな秘密が!?


「実はの、お主を占うときだけ、異常に調子が良かったんじゃ」

「は?」

「お主の占いの結果。最初に未来、その後過去を条件にして見たがどちらも三秒ででよった。しかも結構情報量が多くな。ちょっとビビったの笑」

「いや、笑い事じゃないですよ。俺とんでもない凄い占い師かと思って期待してたのに何ですか!?」

「わりぃ、すまん笑」

「ふざけんなよ!! 凄い助っ人かと思ったら何なんですか!! 占いが当たりすぎて田舎に引きこもってるじゃなかったんですか!?」

「ああ、それなんじゃが普通に実家に帰りたかったから帰っただけじゃ。愛に謝っといてくれ、見栄張ってごめんと笑」

「ごめんじゃないわ!! マジかよ!! 高校の時から同級生なのにこんな詰まらん嘘に気づかないとか、うちの母さんもやばいな!!」

!!」


 確かに天然だが、三下占い師のお粗末な嘘も見抜けない程騙されやすいとは思わなかった。


「愛は悪くないぞ。何故なら高校の時、毎日、愛の自転車のカギをわざと隠して占いで見つけた感じにしておったからの。我を信じてしまうのも無理ないの」

「とんでもねぇわ!!! 最悪だ……希望だったのに……」

「ふむ、一応お主の未来と過去は多少見せて貰ったからの。事情は全てとは言わないが分かっておる。我に何かできる事があればいってみよ。雀の涙ほどじゃが、できる事があるかもしれん。」

「ちなみに俺の占いはどんな感じで出たんですか? 結果は聞きましたけど、実際はどう見えたか気になったんで一応聞きます」

「最初は愛に言われた通り未来を条件にしたのじゃ。愛は未だに我がとんでもない占い師と信じていたからの。それっぽい感じで占って、実はたいしたことのない占い師だとカミングアウトしようと思っていたのじゃ」


 この占い師。とんでもないな。からかい癖とでも言うべきか。しかもそれに俺も惑わされたのが恥ずかしい。



「そしたら、めっちゃ上手くいったのじゃ。さっき言った通り、様々な形で未来が見えての。最初はお主が我に電話をかけるシーンが鮮明に。だから愛に電話番号を渡したのじゃ。それっぽい雰囲気も出ると思っての」


 滅茶苦茶しょうもない。そんな下らん理由かよ。


「その後はかなり抽象的じゃが、お主の周りを様々な色がまとわりついているのが見えたのじゃ。女とは言ったがお嫁さんとは一言も言っておらんのに、愛は勝手にお嫁さんだとか言っておったがそんなこと我は知らん。期待しておったろうにすまんの」

「いえ、別に」

「お主の年頃では結構盛んな妄想をしてしまったじゃろうに。愛には後で我からきつく言っておこう笑」


 そういうことは普通、勘違いさせてしまった直後に言うんだよ。こいつ絶対面白がって言わなかったな。


「そして、その後調子がいいから過去もついでに見たのじゃ。さっきも言ったが三秒で抽象的じゃが見えての、お主が二つの綺麗な色の泥みたいなのを払ったのが見えたからこれは驚いた物じゃ」

「そんなにですか?」

「ああいうのは既に決められた運命のような物での。普通はあらがえん事柄じゃ」

「そうなんですか」

「そうじゃ。小さいころにペットを占った時、偶々泥が見えたことがあっての。その泥が濃くなり我のペットを飲み込むと死んでしまったのじゃ。そういうのを人間を含め数えるほどだが何度も見たの」

「そうですか」


 見えてしまっても何もできずに結果を迎えてしまうのは辛いな。


「数えるほどしか見たことがないからの、直感的じゃが、あれは普通ではどうしようもない物。だからこそ、驚いたのじゃ。それを二つも払った者がいる事に。そして、さらにそこから二つも泥を払う者が居る事に」

「そうだったんですか」

「うむ。そういうことじゃ。まぁ、我はそこまで凄い占い師ではないが、調子が良くて色々見えたということじゃ。期待させてすまんの」

「いえ」

「言い忘れておった。我がお主を見通しやすかったわけじゃが調子が良いだけでなく、お主にも原因があるかもしれん」

「え? 本当ですか?」


 もしや、俺の隠された力だろうか? だとするなら今後使っていきたい。


「恐らく運がいいんじゃろう」

「え? 運?」

「占いは言って見ればガチャ的要素もあるからの。運が良いお主は結果が出やすかったのかもしれん」

「ガチャですか?」

「情報量に差異があり、あらゆることが不安定。これはガチャじゃ、そうは思わんか?」

「まぁ、そうなのかな?」


 何とも言えないな。上手く言っているようで言えてない感じがする。と言うかこの人結構緩いな。今更だが。


「うむ。そうじゃ。さて、他に聞きたいこと、占ってほしいことはあるかの?」

「えっと、大海の青について占って貰えませんか? 彼女の泥について知りたくて」

「それは、難しいかもしれんの」

「何でですか?」

「その者の顔を見ておらんからじゃ。言ったであろう。顔を見ないといけないと。その顔の者の未来、過去、所有物。その他もろもろ、見るのには顔じゃ。大海の青はあくまでお主の占いで関係があるから少し出た程度。その者について詳しく知りたいなら顔が必要じゃ。まぁ、占いがどんな感じになるかはまた、別問題じゃが」

「なるほど。多分近いうちに何か頼みごとをすると思います。その時は引き受けてもらえますか?」

「構わん。愛の子ならいつでも歓迎じゃ」


 なんだ、良い人じゃないか。最初はふざけた人かと思ったけど、この人もいろいろ苦労してるのに協力を惜しまないなんて。


「ありがとうございます。それでは一度失礼しますね」

「うむ、分かった。それと愛に謝っといてくれ。高校時代のカギの件と見栄を張った件」

「分かりました。それでは、また」

「またの」


 さて、色々決まったことだし、一回背中を伸ばしてリラックスをしよう。なんだかんだ気を張っていたしな。さて、この後は、あ、手作り弁当か。


「十六夜君」

「十六夜」


 ベンチの後から声がする。俺が電話をしてたから待ってくれたのだろう。この後、お弁当対決か。どんな感じになるのだろうか? できるだけ二人の仲を取り持ちたいところだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る