第21話 電話をするモブ

 俺は家に帰った後、電話を火原火蓮にかける。まだ時間的には起きているはずなので、何回か振動して彼女につながる。


「もしもし」

「どうしたの?」


 彼女は特になんともないように、いきなりこちらに要件を聞いてきた。明日朝向かいに行きますと言ったら、どんな反応をするだろう? また、厨二病的行動ととられる可能性もあるが、そこは考えない。


「明日なんですけど先輩を迎えに行っていいですか?」

「え? なんで?」

「最近物騒なので……」

「大丈夫よ。登校するくらい」


 まぁ、こういう風に返されるよな。別に登校くらい一人で行けると考えるのが普通だし、高校生だもんな。だが、引き下がらん。



「いえいえ、物騒ですから」

「いや、だから大じょう……」

「物騒ですから」

「本当に大丈夫」

「万が一がありますから」

「分かった……。何考えてるか分からないけど分かった。明日家に七時半くらいに来て」


 ふうー、なんとかオーケーを貰ったぞ。貰えなくても行くつもりだったが、流石にそれはホラーだから何としても避けたかったのが本音。


「はい。それじゃあおやすみなさい」

「おやすみ」



 プツンと携帯の通話が切れた。手のかかる後輩だとでも思われた可能性が十二分にあり得る。と言うか、そういう口調だった。


 彼女は今何をしていたのだろうか? 考えても仕方ないが、恐らく父親と食事でもしてたんだろうな。


 ……母親の方はまだ帰っていない時間だな。夫婦仲は確か……。


 俺の考える事じゃなかったな。明日の準備をして早く寝るか。火原火蓮の家に寄るから、いつもより早起きしないと間に合わないしな。




◆◆◆






 目覚まし時計が鳴り響く。私は重い瞼を開けて、耳に響く爆音をどうにかするべく手探りで時計の音を止めるボタンを押す。まだ完全に起きていない体が少し重く感じられるが、鞭打ってベッドから起き上がる。二階にある自室から出て下に向かう。


 下では既にパパとママが起きていて、パパは朝ごはんを作って、ママはもう仕事へ行く準備を殆ど終えているだろう。


 リビングのドアを開けて中に入る。


「おはよう。火蓮」

「おはよう」


 パパとママが私に挨拶をし照れた。二人とも笑顔だが私がここに入るまではどうだっとのだろう……。


「おはよう。パパそれにママ」


 テーブルに用意されている朝ごはんを座って食べ始める。パパは洗い物をして、ママは私に向かい合う場所に座っている。


「「……」」


 会話が無い。忙しい朝だから話す暇もないのかもしれない。


「私もう行くわ」

「あ、うん。いってらっしゃいママ」

「……先に行くわ」

「……分かった」



 これくらいしか話すことがない程、二人の溝が広がってしまったのだろうか。それに対して何も言えない私はなんなんだろうか。臆病な私は怖くて言えない。


 もし、二人の仲が悪いことを私が指摘して、それが肯定で返ってきた時は一気に家族の仲が崩れだしてしまうのではないかと思うと動けない。


 そのまま離婚なんかになって、バラバラになってしまうのが一番怖い。それなら今のままでもいい。こんな形でも家族でいられるのなら……。


◆◆◆




「おはようございます」

「おはよう、本当に来たのね……」


 

 髪型をいつものツインテールにして制服に着替えた後外に出ると、最近仲が良く、体育祭の実行委員も一緒にやっている後輩の黒田十六夜が待って居た。



 昨日朝学校まで送って行くと言っていたが、本当に来るとは思わなかった。この後輩は最初は趣味が合って凄く話しやすく良かったのだが、まさかの厨二病という精神病を持っていたことが発覚した。


 もちろんそういうのは嫌いではない。だが将来彼が苦労すると思った私は、何とか直してあげたいと思い何度か注意をしたのだが、効果なし。一日でどうにかなる問題ではないとは思うのだが、やり続けることで良くなるだろう。これから毎日ビシバシ注意していくつもりだ。




「それ、止めなさい」

「それは無理です」


 朝からいきなり突っ込むべきポイントを見つけてしまった。前後左右警戒しながら私をボディーガードするように立ち回るのだ。恥ずかしいんだけど……。どう考えてもおかしい。



 普通に周りでざわざわ騒がれてるし、子供に指差されるし、何と戦っている想定をしているのだろう。異世界から来た魔人とか? デスゲームに参加している設定なのか?



 何度も何度も注意しても、それを止める事はなかった。途中で聞き分けのできない子にはお仕置きをしようと思って頭を叩いたが、全く気にしない。こいつを私は止めることができないと思い、恥ずかしさでどうにかなりそうな気持を抑えて、電車に乗り学校までの道のりを歩いた。




 学校に着くと、私はここに来るまでの羞恥心の恨みをぶつけるように十六夜を睨みつけた。


「次あれやったら承知しないわよ……」

「覚えておきます」

「はぁ~。急になんか疲れるわね」


 前までは気楽に話せる友達くらいに思っていたが、今では何をするか分からない手のかかる後輩がいるような気分だ。



 その後、学校に入って私たちは別れた。



◆◆◆



 一年Aクラスの連中に朝から時情聴取をされた。話題は二つ。昨日の一単色高校の実行委員長の電話番号の件と朝から火原火蓮と一緒に登校してきた件だ。


 適当に理由をつけて弁明をしたが、なかなか納得する連中でもなく朝から散々な目に遭った。銀堂コハクもチラチラこっちを見て何かを訴えるような目線を送ってきたため、一日中落ち着ける時間が無かった。



 今日は実行委員が無いためすぐに帰れるが、火原火蓮を守る為護衛を再びしなくてはならない。色々言われてはいるが、諦めてもらおう。多少の恥なんて溝にでも捨てておいてほしい。



 俺は念のため、ある人に昼休みに電話をかけていた。


『もしもし、昨日お世話になった黒田です』

『昨日はこちらこそお世話になりました。それで何か聞きたいことがあるんですか?』


 学校の事が聞きたいということで連絡先を交換したので、俺に何か質問があるという前提であちらは対応する。


『あの、今日って坂本は……じゃなかった坂本先生は学校に来てますか?』

『え? ああ、えーと今日はお休みだったと思いすよ。確か体調不良だったと聞いてはいたのですが、それが聞きたいことですか?』

『はい。それだけなので失礼します』

『ええ? それだけ……ですか。学校の事……いえ、分かりました。失礼します』


 俺の聞きたいことは学校の事だが、少しずれたことを聞いたかもしれない。一応学校に居ないということは確認できた。これにより何処かで俺達を見ているのは確定事項。すぐに動き出すのは分かってはいたが、気持ち的にいるのが確定してる方が俺としてもやりやすく、集中力もさらに上がる。


 朝もそれっぽい奴は見たのだが、直ぐに隠れたのでよく見えずに見逃してしまった。すぐに来たらその場で相対したのだが。仕方ないが、やっぱりあれがそうなのだろう。


 アイツの事だ。すぐにでも俺達を襲いに来るだろう。男の俺が居るから、武器を持って人通りのないところでこちらに来るのは想定できる。俺もやるべきことは完璧だ。辞書は四冊服の下に入れたし、激辛水鉄砲も満タンで用意している。しかも、四個!!



 火原火蓮に持たせて万が一の事を考えたからだ。前回は銀堂コハクがまさかの現場に居たのでストーカーに刺された。まぁ、辞典のおかげで無事だったのだが、今回もすべて俺の思い通りに行かない事も考え……彼女にこれを預けて逃げてもらう。



 俺がやられた場合。彼女には逃げてもらわないといけない。勿論、負けるつもりなんて微塵もない。しかし、世の中なんでもかんでも俺の筋書き通りにはならないということを前回学んだ。


 念を入れても何も不利益な事は無いだろう。





 学校の玄関で私の後輩である黒田十六夜が待って居た。先ほどメールが届き、今日も家まで送って行くと言うのだ。別に厨二行動をしなければ嫌でも何でもないので、厨二行動をしなことを条件に承諾した。




「待たせたわね」

「いえ、待ってませんからお気になさらず」



 私たちは二人で並びながら校門を出て帰りの道を歩き始めた。そこでだ。再び厨二行動が目立つ。


「や・く・そ・く!!!」


 結構強めの口調で私が彼に指を差しながら告げた。なんだかんだ言って私も厨二が嫌いではない為、どこか注意が甘くなってしまうから彼はこれを止めないのかもしれない。


「しましたっけ????」


 覚えてるくせに白々しく嘘をつく。本当に手のかかる後輩だ。


 ここ最近はずっと一緒に居て十六夜にこんな一面があることは昨日初めて知った。ただの私と一緒のオタクでごく普通かと思っていたらそうでもない。

 何か不思議のやつだ。今まで会ったことあるようで無い。何処にでも居そうで居ない。


 どこか他者とは違う独特なオーラを持っている気さえする……。

 私も厨二っぽい事思ってるわね。やめにしましょう、これを考えるのは。




 しばらく歩いていると、十六夜は前後左右を見るのを止めた。顔が緊張感を持ったというか何というか。額にも汗をかき手も震えていた。


 どうしたの? と聞き返そうと思ったが、その必要はなかった。理由が分かったからだ。


 後ろから誰かがつけてきている。気のせいかもしれないが、さっきも同じようなフードを被った人を見た気がする。


 ストーカー? 一体なぜ? 目的は私? それとも十六夜? 


 しばらく歩いていたが、やっぱりついてきている。


「ねぇ。誰かつけてない?」

「……つけてますね……先輩はこのまま駅に向かって家に帰ってください」

「え?」

「俺が何とか引き付けますからお先に帰ってください」

「それと、これ」

「水鉄砲?」

「激辛水入りです。もしの時は使ってください」

「で、でも、十六夜が……」

「早く行ってください」


 そういうと十六夜は足を止めた。私も止めようとしたが、十六夜が首を振ったのでそのまま走り出した。


 あのストーカーは十六夜が目的? 本当に誰かに狙われていた?


 此処で逃げていいのか? ずっと逃げてばかり……。


 家族からも、大事な後輩が何かに巻き込まれてるかもしれない時も……。


 私は卑怯者で意気地なしだ。それがどうしようもなく嫌になる。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る