第20話 厨二なモブ
「今日はありがとうございました」
「こちらこそ」
実行委員長同士が握手を交わす二人。あちらの実行委員が全員で見送りに来てくれたが坂本典礼はここにはいない。流石に俺の前にはそう簡単には出てこれないだろう。
ようやく帰れるのだが、これからが勝負といったところでもある。相手がどう動くかは完全に予想することができないが大体は分かる。
今日から動いてくるとは考えにくいな……。明日から皆ノ色高校付近を張り付いて、俺と火原火蓮を狙うだろう。
俺の方にヘイトは向きつつはあると思うのだが、火原火蓮を先に見つければ先にそっちに手を出すかもしれない。だとするなら、また送り迎え作戦を発動するしかない。変な噂がさらに加速する可能性があるが、気にしない。
皆ノ色高校の実行員たちは頭を下げ校門に背を向ける。しかし、俺は直ぐには帰らなかった。
「すいません。誰か俺と連絡先を交換してくれませんか?」
両校の実行員が俺に視線を向ける。何故という疑問をこちらに向けていることは簡単に予想がつく。
「あの、ほら、何と言うか……。この高校素晴らしいから色々もっと知りたいんです」
一単色高校の実行委員は互いに顔を見合わせる。断る理由はないが、だからと言って断らない理由もないといった感じだ。
しかし、そこで福本成美は笑顔で携帯を出してくれた。
「私が交換しますよ。わが校の事を知りたい方に断る理由はありません」
「ありがとうございます」
電話番号を交換した。これにはそこまで凄い意味があると言うわけではないが、念のためと言うか、確認のためだ。
交換が終わるとお互いに番号を確認して顔を合わせる。
「ありがとうございます」
「いえいえ、いつでも連絡していただいて構いませんから」
……ええ子や。と言うか結構かわいいかもしれない。この子も
『ifストーリー』にしか出てこなくあまりぱっとしない子だったが……って馬鹿か俺は! そんなことを考えている暇は無いだろう!!
って馬鹿か俺は! そんなことを考えている暇は無いだろう!!
まず、精神年齢的にこんなこと考えるのはダメだろう。転生しても倫理観は壊さないようにしないと。携帯をしまい再び頭を下げる。
「本当に今日はありがとうございました」
「こちらこそ」
◆◆◆
何とか合同会議は無事に終わり、帰りの道を実行委員は適度に並びながら歩く。隣に火原火蓮が来て、興味深そうに聞いた。
「そんなにあの高校が気に入ったの? 確かに図書室にラノベが置いてあったのは良かったと思うけど……」
「ええ、とですね。……まぁ雰囲気がどことなく気に入りました。はい……」
「ふーん。確かに雰囲気は良かったわね」
適度に誤魔化しながら、疑問にスラスラと答えていく。普通はこんなことしないだろと思われるかもしれないが、それで少しでも有利になれるなら別にいいと思う。
あ、相手の女子実行委員長の連絡先を聞いたの、うちのクラスにバレたらめんどくさそうだな。特に佐々本を筆頭にシャーペンがダーツの矢のように飛んでくる可能性がある。死にはしないだろうが、あまり痛いのは勘弁だな。
駅に着いた後電車に乗り、再び電車に揺られながら学校に到着するまでひたすら待つ。携帯をいじる者、ラノベを読む者、睡眠をとる者様々だが、俺はなんとなく気を張っていた。
どう考えても居ないとは思うが、坂本典礼がここに居たらいつでも水鉄砲を出せるように準備をしているのである。正直、タイマンなら勝てる可能性が大いにある。だがしかし、不意打ちを喰らえば、それがひっくり返る可能性も無きにしも非ず。ここは……ジッと辺りを警戒する。
ん!? あそこにいるフード被った男、坂本か? ジッと見つめてしまう。
すると、肩が軽くポンと叩かれる。
「ちょっと、人をジロジロ見るのやめなさい」
「すいません。何か怪しくて……」
「ダイジョブよ。あの人貴方を狙うエージェントでも何でもないから……」
完全に厨二病認定されてるな。そう言うと再び彼女はラノベに目を移した。その時ちょうど駅に着きフードを被った男が降りた。
どうやら、ただの人間の様だな。紛らわしい。
ん? 今度はあそこに帽子を深くかぶった男がいるな。アイツはただの人間か?
再び肩がパシッと叩かれる。
「だから、人をジロジロ見るの禁止!」
「ちょっと待ってください。一応危険がないか確かめないと」
「……重症ね」
これくらいの勘違いなど痛くも痒くもない。ないったらないのだ。
結局あの人も危険な人ではなかった。学校付近の最寄り駅に着いた後、全員で降りてそこで解散となった。
◆◆◆
「先輩送って行きますよ」
「え? いいわよ。家くらい一人で帰れるわ」
「いえ、折角ですから!」
「結構遠いわよ」
「大丈夫です!」
そこまで言うならと、彼女は再び駅の中に入って行った。一単色高校の方向とは逆の方向に家があるらしい。住んでる家までは完璧に把握はしてないからな。
明日からは再びストーカー……ではなく護衛を開始しないといけない。その為に家を把握することは必要条件。
再び電車に揺られること四十分ほど。とある駅に降りる。電車に乗ってる間も気を張って色んな人を見ていたら、火原火蓮に何度も注意された。それでも俺が止めないので、最終的にしびれを切らして頭を結構な強さで一発バシーンといかれた。
「先輩怒らないでくださいよ」
「怒るわよ。何度言っても止めないんだから」
「あれは嫌な予感がしたから仕方ないんですよ」
そう言うと彼女は頭を抱えて一旦歩みを止めた。そして俺としっかり目を合わせて呆れた表情をする。
「あのね、十六夜。厨二病は卒業しなさい。アニメとかでもそういうキャラはよく見たし、本でもよく読んだ。だから私はそういうの嫌いじゃない。でも社会的に見た時に貴方はすごく痛いわ。そして普通にヤバい人に見える。」
「……」
「いい? 現実と妄想の区別はつけなさい。そうじゃないと将来苦労するわ。人生の先輩としてアドバイスしとく」
後にファンタジーのような力を使って戦う人にそんなこと言われても、あんまり心に来ないな。それに俺の方が先輩だし。前世持ちだし。
「俺別に厨二病ではないんですよ」
「いいえ。貴方は厨二病よ。妄想が区別できてないわ。」
俺の行動が不気味だったのが悪いから、仕方はない。もう彼女の表情が犯人を追い詰めた探偵くらい自信を持ってるから、これ以上否定しても無意味だろう。
「取りあえず家まで送りますから歩き出しましょう」
「そうね。歩きながらでも話は出来るからそうしましょう」
その後も、彼女の家に着くまで永遠と厨二病から卒業するようにとアドバイスを承った。
夕暮れに照らされながら、彼女はとある一軒家の前で足を止めた。二階建ての立派な家だ。
「ここが私の家。一応ありがとう。送ってくれて。でも私が言った事忘れちゃダメよ」
「はい。分かりました」
明日の朝迎えに来るのは後で連絡でも取ればいいかと思い、今は言わないことにした。彼女を送った事だし、帰ろうと後ろに足を向けた。
「それでは、また明日」
「気を付けて帰りなさいよ」
もう一度一礼してその場を後にした。彼女の言った通り家までは多少距離有ったので、自宅に帰る頃には辺りは真っ暗になっていた。
◆◆◆
「ただいま」
私は十六夜に送ってもらった後、彼の姿を少し見送り家に入った。ただいまと言っても返ってこないのは分かってはいるが、何となくそう言った。もう少ししたらパパが帰ってくるだろう。その後はママ。
今日はみんなで食べれるだろうか? それともいつも通りパパと二人で食べるのだろうか?
ママは忙しいから九時ごろじゃないと帰ってこない。パパは忙しくないわけじゃないけど家で仕事の残りをする。
最近は二人が話すところをあまり見ない。二人は同じ職場で働いているし、そこで沢山話しているから家で話す必要がないと思いたいが、違う気がする。
忙しいから中々皆で一緒に居る時間が出来ないと言う二人に、本当は意図的に時間をずらしているんじゃないのと言えたらどれだけいいか。そんなことを言える勇気が私にあれば……。
私は言い出せない。本当はずっと前から気付いていた。何かが食い違って、そして二人がすれ違い始めていることに。でも、ずっと見て見ぬふりをして、気付かないふりをしてそこから逃げていた。そして、今もそう。
もしかしたら、このままじゃ……。家族はバラバラになってしまうんじゃないか? そう思うたびに、その考えを誤魔化す。そうじゃないと、そんなわけないと。
私が誤魔化して逃げてるうちに、二人はドンドンすれ違う。私は気付いていても何もできない。
お願い、勇気をください。誰か、誰でもいいから。
また、皆で仲良く……。
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