第16話 無知


「あはははは。

 まあそうだよね。

 フランス料理と言っても

 家庭料理、宮廷料理など様々な分野が

 あってね。

 また時代の流れでヌーヴェルキュイジーヌ

 だの分子調理だったりが入ってくる。

 その流れの中で僕らは仕事をしているん

 だ。」


祐司は自分の無知さを改めて感じていた。

奢っていた自分、余裕だと思い始めていた自分が恥ずかしくなっていた。


「口に合わなかったかい?

 フランス料理の伝統的技法をつかいながら

 モダンに仕立ててるから。

 クラシックなのが好きな人からは

 意見がわかれることもあるし、、」


「い、いえ、、ちがくて。。。」

祐司は言葉に困った。

頭での理解が追いついていないのである。


「なんというか、別世界でした。

 自分は何も知らなかったんだと思いました。。

 ごちそうさまでした。

 お支払いはどうすればいいですか?」


祐司はそそくさと帰りの支度をする。

もうこの場には自分は場違いだと感じていた。

一刻も早くこのアウェイな空間から逃げたかった。


「これはもう太田から貰ってるから。

 またいつでも食べにおいで!

 太田によろしく!」


そう言って栗生は握手を求めてくる。

差し出された右手は厚みがあり

その雰囲気に圧倒された。


『ありがとうございました。』


そう言われて扉越しに挨拶をされているのを尻目に急ぎ足で去っていく祐司であった。

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