第3話 悠花


「暑いっす、、」

何度目だろう。

厨房内でシェフが近づく度に言う。

野球部の炎天下の熱さとは違うのだ。

洗浄機マシーンがあるので、楽なのだが

蒸し暑い。そして火を使っているのでクーラーは回っていても暑い。

洗浄機は初めて使ったが、このお店ではお皿を軽く洗い、流して、専用のラックに並べる。

マシーンにお皿を並べたラックいれると

中で熱いお湯で洗っているので開けると

熱気が凄いのだ。

その蒸し蒸しした熱さが祐司の体力を奪う。

そんな彼だが、じつは楽しみが2つある。

1つ目は賄いの時間だ。

初日に驚いたのは彼の大好きなメニューでもあるクリームコロッケが出た時だ。

母は料理が苦手ではないが、揚げ物は嫌いだ。

家中油臭くなるのと、処理が面倒だからだ。

なので、スーパーのクリームコロッケを食べてきた祐司にとって衝撃的な旨さだった。

そしてもう一つはアルバイトのホールスタッフの悠花さんである。

160cmほど、近所の大学に通う20歳の女性である。

きれいな黒髪はセミロングで仕事中は結んでいる。

鼻はすーっと高く、目はくっきりしている。

Dカップほどの胸の膨らみとスタイルは良い。(本人談)

何より、今まで嗅いだことのない良い匂いがするのだ。

ホールスタッフのおばちゃん達からは不評らしいが、シェフが許しているらしい。

しかも夏場で暑いのもあり、仕事着のシャツからブラ紐がうっすらと見える時がある。

思春期の野郎からすれば堪らないひと時である。

「おーい!何ぼーっとしてんだ!!

早く洗い物終わらせろー!!」

シェフからの一言で現実に引き戻される。

シェフは40過ぎの、髭がダンディな方である。

スタッフ間の裏ではムッシュと呼ばれている。

英語でいうところのミスターという意味らしい。

確かに貫禄がある。


ドンっ!

食べ終えたお皿が下がってきた。

悠花さんが小休憩で水分補給をし始める。

その姿も美しく祐司は見惚れていた。

だが意外とシャイな彼は直視をせず、野球部で培った間接視野で見ている。変態だ。

「ねぇねえ。祐司くんは何でここでバイトしてるの?」

急に話しかけられ、すこし声が裏返りながらも咄嗟に

「自分料理人に憧れてるんっす!」

と言ってしまった。

「へぇー。そうなんだ。

カッコいいね!私ね、料理つくってくれる人好きなの。今度何かつくってね!」

単細胞な彼にはその一言で世界が変わるのに十分であった。

彼は料理人になろうと決心するのであった。

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