第31話 手順ミス

 確か昨日は浄化した辺りで意識が怪しくなって、最後にありったけの食料を出して気絶したんだっけか?


「おはようシバ。ふふふ、君の恋人達が浮気相手を連れてきたじゃなくて、これで負担が減らせられるとか喜んでいたみたいだが、ここの運営はそれほど逼迫ひっぱくしていたのか?」


 なんだ、どっかで聞いた覚えのあるようなないような。


「シバ、まだ寝ぼけてる」

「ほら、まずは顔を洗って目を覚ましてから考えるといい」

「はい、タオルですよ」


 外に出ると裸の男女が大勢居てそれぞれ何か仕事をしているみたいだ。

 水入れてた箱は空か、この人数じゃ仕方ない、水は箱じゃなくてプールサイズで作るか。

 規格知らないから居岩で25メートル四方深さ1メートルで作り直して、中でウォータータワーを発動しては解除して水にしていった。

 桶で水を汲んで地面に置いて何度か顔を洗って……この異常事態に気付いた。

 もう慌てても無意味なので開き直ってタオルで顔を拭いて、寝ぼけは回復か状態回復で治るのかなあなんて現実逃避しなから家まで戻った。


「傷女、エルネシア達は居るか?」

「おや、もう私は名前を忘れられたのか? レオーナだ見知りおきを。恋人殿達ならダンジョンへ赴いて皆の食料を集めておいでだぞ」


「悪いな、知らないだろうがあれから結構経ってるんだよ、並の頭でちょっとしか話してない相手の名前を覚えてるなんてできねえよ。2人についてはわかった。それとレオーナここはダンジョン探索用の休憩所で、本来の家は別の場所にある。10キロ程度ダンジョンから離れてはいるが、万一モンスターが出てきた時でも守りやすいようになっているから、そっちで暮らそう。持てるだけ物を持たせて石の道を行ってくれ、俺は先に走って100人で生活できるように3人用から家を増やしてくる」


「了解した、だったらゼオラとヴェルカを、ああエルフとタオルを連れて行ってはくれないか? 役立つかもしれない」

「わかった、2人は先に外へ、それともう1人の名前は?」

「アマルディア」


 本人から紹介があった。


「アマルディアだな、なるべく早く全員の名前と顔を一致させるように努力するよ」


 外ではゼオラと……ヴェルカだっけが待っていた。

 待たせたと言って変身する。


「変……身! 2人共背中に乗れ」


 その場で伏せて2人を乗せる。


「ゆっくり走るが落ちないように毛を掴んでおけ」

「あ、ああ」

「わかりましたっ」


 考えたらタイプもプロポーションも違う美女2人に、背中に馬乗りされてるんだよな。自分でさせたんだけど。

 変な趣味に目覚めませんようにと神に祈りながら、歩きはや歩きとゆっくり加速して2人が耐えられるギリギリを狙わずに、到着後に余裕のある行動ができるだろう速度を維持した。

 ヘロヘロで動けないとかになったら回復させる魔力か時間の無駄だからな。


 △△▽▽◁▷◁▷


 家に着くと2人を降ろして変身解除、家も防壁も全て解除して消滅させる。

 後の事も考えて最初から区画整理をしておこうとおも……青汁草? の畑から草も全て倉庫へ収納しておかないとな。

 あれだけ放置しても枯れないとか、流石青汁を作るだけの事はある、凄い生命力だ。


 東西に走る主要道路を村のメインストリートにして……大通りで複数の地区とか区画に分けて、小道を生活に使う道にするか。

 槍……は置いてきちまったか、石剣で地面にアイデアを描いてゼオラ達に意見を求める。


「どうよ?」

「私には大都市作りまで視野に入れた開拓にしか見えないが、これなら鍛冶屋等は住宅街から離れた場所に仕事場を持てるんじゃないか」

「でも先に井戸を掘らないと道が歪んだりしないかな?」

「なるほど水か、2人はなんとかできるか?」

「精霊に問いかければ答えてくれよう」

「わかった、早速頼む」

「ふふっ、任されましょう」


 その後、計画はさらに変更の予感がした。


「山?」

「ええ、精霊が言うにはここからかなり北に山を作ってもらえるなら、そこから川を流そうと」

「作るのは構わないが俺にそんな魔法はないぞ?」

「……私を介して貴方が魔力をくれるなら、精霊達が自分で作ると言っているが、どうだろうか」

「オーケーだ、さっさと移動して始めちまおう、2人共また背中に乗れ、変……身!」


「この辺りで止めてくれ」


 しばらく走るとゼオラから停止の声がかかったので停止して2人を降ろす。


「これからどうする、この姿はモンスターのものだが精霊とは相性が悪くはないか?」

「……大丈夫、大事なのは本質だからどちらでも構わないよ。シバ殿はそのままリラックスして居てくれるだけでいい」

「リラックスね」


 魔力切れになる可能性もあるので、そのまま仰向けになって寝転んだ。

 ワァーオ、ナイスアングルゥ!!

 しかし惜しいが目を閉じてリラックスのために思考を放棄する。


 では失礼してと言ってゼオラが腹に座ってきたので、ヴェルカにも手招きして座らせる。

 ボーッと見てると魔力がガンガン吸い取られているのと同時に、遠くの地面が隆起して雲を超える大山脈になってしまった。

 当然のように魔力はゼロになっていて、なぜか体力まで残り3割を切ってるんだが?

 ゼオラに問いただしてみると。


「精霊からは、今後山から得られる恵みを思えばシナヤスシナヤスと。すまない、私にはこのシナヤスと言うのは意味が理解できなかった」


「なんで精霊がゲーム用語知ってんだよ……ああゼオラは問題ないから、シナヤスってのは俺の故郷の言葉で、死ななかったんだから安いもんよとか、死ななきゃ安かったみたいな言葉が省略された略語でな、多分今回は餓死者をや乾いて死ぬ者を出さずに済むなら魔力と体力くらい安いものでしょ、とかだろうな」


「君は凄いな、精霊達がほぼ正解と言っているぞ」

「凄い、相手の言葉も聞こえてないのに、そこまで意思を汲み取れるなんて」


 流石に疲れたんで魔力切れもあって寝た。

 見上げた空は青かった。


 △△▽▽◁▷◁▷


 目覚めると魔力だけでなく体力までも空になっていて、生命力まで半分使われていた。

 あの凶熊の生命力を半分使ったって、どんだけだよ!

 代わりに山は森に覆われ東側には大河ができていた。

 寝てから30分しか経ってないのかよ、なのに森と大河、精霊ってのは敵に回したら恐ろしいもんなんだな。


「ん? 目が覚めたか」

「おはよう」


 流石に2人は俺の腹には座っておらず、側で立って待っていたようだ。

 ナイスアングルゥ!!

 じゃなくて、無理矢理体を起こして2人を背中に乗せ歩きながら質問していく。


「ゼオラ、精霊は何か言ってるか?」

「地下水脈と井戸と下水道も作ってあげる、シナヤスシナヤス、だそうだ」

「このあと100人分の家が必要なんだよ、だから明日まで待ってろ」

「精霊達が喜び叫んでどこかへ散っていったな」

「あのっシバ君、みんなの渡る橋が先じゃないかな!?」

「あっ……先に避難生活できるようにしてから山作るんだった」


 素人が計画性を意識して無計画に良案を実行しまくるからこうなるんだの典型だった。

 まさか自分がやっちまうなんて……

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