第2話 総職系男子 VS オーガ

 オーガとの戦闘は思ったより苦戦しなかった。

 丸太という大振りで超重量な武器は、振り下ろすか薙ぎ払うしか攻撃方法がないから、至極読みやすい。


「んなわきゃ、ねーだろー! こっちとら喧嘩ゼロ戦の無害中学生だったんだぞ、恐怖してないだけでまだマシなんだよ。攻撃読めるほど戦闘慣れなんてしてねえよ!!」


 それでもオーガの攻撃は止まらず接近を許さず、無理でも回避しなけりゃ気持ちの悪いミンチのできあがりだ、避け続けるしかねえ。


 △△▽▽◁▷◁▷


 あれから僅か数分。


「クッソ、俺の方が先に疲れて来やがった」


 考えてみれば当然だ。

 象かそれ以上にタフでデカいゴリラが居たとして、そいつが人間の中学生より劣る身体能力だろうか。

 完全な作戦ミスだ、もう時間稼ぎは無駄でしかないから、さっさと次の作戦を決めなきゃいけない。


 逃げる。

 間違いなく追いつかれて殺される。

 走る速さもスタミナも俺の何十倍もあるだろうから愚策だ。


 戦う。

 例の全力の一撃ブレイブストライクに命を賭けて死ぬ気で丸太を掻い潜って、どてっ腹にデカいの1発ブチかますしかない


「なあおい、さっきの美少女、まだ居るか。居るなら返事をしてくれ」

「はい、居ます」

「遠くからでいい、そのできの悪い武器を投げてコイツの注意を一瞬でいいから引いてくれないか? 俺はその隙に駆け寄って腹にデカい切り札ブチかますからよ」


「信じても、いいですか」

「どのみち俺は確実にコイツに殺される、あんたを囮に逃げても追いつかれてな。だけどあんたはこのまま、俺を囮にしたまま逃げれは生き残れる可能性は少しだがある。だから1つ助言しよう、人生において大事な決断は自分で決めろって、奪われた思い出の中の誰かが言ってたんだよ」


 俺は名前だけでなく思い出の中の人物がどういった相手だったかまで失っている。

 それについて何も思わないでもないが、それも生きていればこそだ。

 だから今は、目の前の敵を全力でぶっ倒す事だけを考えろ!


「わかりました、貴方は自分の左に向かってください。私は右からこれを投げます」

「応!」


 作戦が決まり走り出した瞬間、確かにオーガがニヤリと笑ったのを見た。

 確実に失敗する。

 あれは俺達の会話を理解して利用する気だ。

 このまま走り続けたら俺の横をすり抜けて、オーガは先にあの金髪美乳美少女から殺しに行くだろう。


 現にオーガの右足は俺じゃなくて美少女の方を向いている。

 当然俺の追いつける確率は皆無だ。

 走り出されたら。


「ここしかねえ! うおおおおおお!!」


 咄嗟に叫びオーガへと向きを変えて走る。

 ここで俺達に運が向いてきた。

 オーガは更に罠を仕掛ける程の知能はなくて、予想外の俺の突進に対して速さで劣る丸太を捨てて、拳で殴りかかってきた。


「ええーい!」


 俺とオーガの予想外の行動を察した美少女が機転を効かせて、素早く曲投げをして石武器をオーガの背中へと投げつけヒットさせたのだ。

 大した威力でなくとも弱点の多い背中側に敵が居る。

 そんな風にでも考えたのかオーガの拳の軌道が僅かに乱れ速度を落とした。

 オーガの親指がこめかみを掠するのも気にせずに懐へと飛び込むと、地面を強く踏みしめ右の拳を振り上げた。


全力の一撃ブレイブストライク!!」


 俺の拳はオーガの腹に直撃すると、その体を5メートル以上も真上に吹き飛ばし樹上付近で消滅させた。

 勝利に浸る間もなく全力の一撃ブレイブストライクの消費により生命力等が失われた俺は、拳の勢いに引かれるように前のめりに倒れ伏した。


 視線の先には投げた石武器と何かを拾い、体に樹皮を纏った美少女が居た。

 ゲームなら美少女が拾ったのはドロップアイテムだろう。

 オーガからなら角、牙、爪、皮か革といった武器や防具の材料……素材だろう。


 拾い終えた彼女は歩いて来ると俺と手前2歩の位置で止まった。

 右手に石武器を持ち、見上げる角度的に開いてない観音様が見えた気がした。


「なんまんだぶ、なんまんだぶ。ありがとうございます、ありがとうございます」


 なんだか満足してしまい、疲労もあってかおれの意識はそこで途絶えた。

 我が死に際に一変の悔いなし。

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