第1話 初日
ある日世界が激変した。
激しい地震と音に目覚めると人工物が服すら消えていて、瞬く間に夜が昼になり夏場以上に気温が高く熱くなった。
2階で寝ていたはずなのに地面で寝ていたし、落下したはずなのにどこにも痛みがなかった。
夢か確認しようと顔を殴ると痛かったし、自分や家族の事を思い出そうとすると何も覚えていなかった。
シバ。
おそらくかつての名前からつけられただろう今の俺の名前。
だと思う。
なぜと言われても、自分の名前として納得できたからとしか言いようがないが、無理矢理あだ名をつけたらこうなるか程度には納得できた。
てんしょく……
うん? 転職って、俺まだ中3になったばっかで推薦受験のシーズンですらないから……いや、もう元学生か。
これ夢じゃなさそうだし、突っ立ってたって飯は出てこないし、水も探さなきゃ明日明後日には死ぬかもしれない。
そうしょくけいだんし……
「おおい、誰が女子コミュ障だ! 俺だって彼女欲しいんだよ!!」
聞こえた侮辱のような声に反応して叫ぶも、辺りは木々に囲まれて人の気配なんてわからない。
「まったく、誰かが草食系男子だよ、俺だって、俺だってー!!」
直後、頭ん中に何か閃いたような、アイデアが降りてきた時のような、あの鮮明な感覚が訪れた。
「なん、だ……これ」
天職 総職系男子
職業修得を極端に容易にする
職業全てを同時に現職にする
職業による能力変化は増減全てが適用される
現職は全て同時に育つ
現職 勇者
不撓不屈 どんな時もマイナス感情に囚われなくなる
???
転職じゃなくて天職?
私の天職はアイドルです! とかのあの天職か?
んで、現職。これはまあ、現在の職業って事だろう。
なぜか中学生でも学生でもなくて、勇者なんだけどな。
なに、俺って魔王とか魔神を倒せって貧弱装備とはした金だけ渡されて、自転車操業だっけ? あれでモンスター倒して以下略しなきゃならない運命だとか?
ともあれこの
要は放置しても死なないギリギリまで衰弱する代わりに繰り出す攻撃なんだろ?
モンスターが居るらしい世界に全裸で放り込まれたってのに、初手瀕死攻撃したら次の徘徊モンスターに襲われて死亡確定じゃんかよ!
せめて
それでも初手が超格上のモンスターで、逃げられずに使っても勝てるかどうかまでなら、覚悟を決めて使うしかない、よな……
「スゥーハァー……よし!」
深呼吸して無理矢理少しだけでも落ち着くと、周囲を見渡して。
1歩を踏み出した。
生木の枝を折って鋭かった物を残して突く用の武器としていくつか持ち歩く。
狂暴な野犬とかなら、なんとか追い払えるくらいには使えるはずだ。
モンスター相手でも目を狙えばワンチャンあるかもだしな。
手頃な石と木に巻き付いていた蔓を使って、石器のハンマー? 斧? を作ってみた。
武器職人
「おっ?」
頭をよぎる謎の声は天職総職系男子のものなのかも知れない……声自体は俺の声なんだけどな。
声によれば武器を作ったから武器職人の職業を得たらしい。
武器職人
魔力で武器を加工できる
鑑定(物)
手作り石武器に魔力を流してみる。
上手くいかない。
そもそも魔力はゲーム的になら理解できる。
野菜の星の人類戦士達が使う気の魔法バージョンだろ?
体力の代わりに精神力を消費して魔法に変換して放つやつ。
「ファイア、サンダー、アイス、ストーム」
叫んでみても魔法は使えない。
どうやら勇者は勇者(笑)だったらしい、魔法剣士的なポジションではなく、調子に乗ってザマァされるタイプなのかもしれない。
俺は強い勇者だから何をしてもいいんだ、とかにならないように自重しなければ。
武器職人も魔力に関しても後回しにして、次を作る。
石武器で木を縦に近い斜めに殴り樹皮を剥ぐ。
木をぐるりと回るように剥いだ樹皮をつるで腰に巻いて、何度も調整しながら落ちないように工夫した。
服飾職人
新たな職業の内容は武器職人の服飾版だった。
同じ素材で手甲も作ってみたら防具職人と武具職人が手に入ったがこれも割愛。
武具職人は武器職人と防具職人の、両方の上位職業なのだろうか?
考え込んだり検証している暇はない。
勇者(笑)の効果なのか、かなり体が頑丈になっているらしく、疲れないし裸足なのに最初から足の裏が痛くない。
これは勇者から(笑)を取るべきだろう。
鑑定(物)を使いながら森と呼べる木々の中を歩く。
中には美味そうな果実なのに毒、寄生虫、病原菌等の食べられない理由で放置した物も多い。
逆にその辺に生えている下草の茎の中身が栄養豊富で樹液? を吸うだけで100キロカロリーになったりするので異世界侮れない。
ガサッ。
物音にバッと振り向くと腰まで届く金髪を持った同年代より少し上の年代だろうBかCカップくらいの白人系美乳美少女が全裸で手で1部を……いや、ある意味3部分を隠して立っていた。
俺は全力で美少女の下へと走ると右足を彼女の左足側に着いて抱きかかえると、押し倒すようにして左へ全力で飛んだ。
ドーンという轟音と共に、彼女の立っていた場所には丸太が叩きつけられていて、土煙の晴れた奥からは鬼が、いやファンタジー風に言うならオーガが現れた。
初日に美少女と強敵ってさ、これもうホントに(笑)じゃなくて勇者の王道展開なんだけど。
美少女を立たせて木の後ろに隠す。
「いきなり逃げるとあいつに狙われるから、俺が戦って注意を引いてから静かに走って逃げるんだ」
丸太を武器として扱う知性があるからどこまで通用するかわからないけど、考えなしに逃げ出すよりかはマシだろうと美少女に告げる。
オーガから視線は離せないので姿は見えないが、小さくはいと返事が聞こえてきた。
彼女がヒーラーだといいなと考えながら石武器を捨てて、邪魔な樹皮装備も一緒に後ろに投げる。
蔓で巻いただけだから戦闘すると脱げて邪魔になると思ったからだ。
「それ、あげるよ……行くぜこのクソ生物、人間様の強さと恐ろしさ、その魂に刻んで死にさらせやゴラァ!!」
恐怖はないがそもそも侮れる敵ではない。
叫ぶ事でアドレナリンを発生させて、僅かでも肉体の脳内リミッターが外れれば勝機に繋がるかもしれない。
膝下を集中的に攻撃して、3メートルはある頭を下げさせて目を抉り取る。
あの美少女が善良じゃなかったら、もしくはヒーラーじゃなかったら。
一瞬でそこまでの可能性を考えながら再び丸太を振りかざすオーガに向けて走り出した。
「せいぜい俺をいたぶってくれよなぁ!!」
どんなに汚くても情けなくてもいい、生きるために全力を尽くす。
今日からそれが俺の生き方だ!
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