総職系男子
天神 運徳
世界の交わった後の資料より抜粋
西暦2000年を過ぎて日本で最初に元号が新しくなって幾年月。
なんの前触れもなく世界から善悪問わず、人間の積み重ねてきたものが消えた。
身近な物で言えば衣食住。
建築物や自動車が消え、衣類や靴が消え、生鮮食品や保存食だけでなく、品種改良された作物や動物も消滅してしまった。
遠いもので言えば破壊された環境が石炭文明以前に戻り、砂漠が緑化し、大気が浄化され、絶滅させてきた動植物が蘇った。
しかし生物(細菌)兵器や毒ガスや核爆弾等の科学兵器も消滅していたのは幸いだっただろう。
でなければ、この日地球上の生命体は滅んでいたかもしれない。
全ての陸地が細かく分裂し移動を開始、丸1日かけて赤道を中心にバラバラに集合し新たな大陸を作り上げた。
同じ国でも新大陸の一部になった場所が違うので100メートル以内に100以上の違う国籍を持った人達が集まっていたりする。
人間にあった変化は耳が細長かったり動物の物だったりする異世界人が現れ、世界中の言語が統一された。
金銀茶黒と異なる髪色と肌色をした人達が集まって情報を集め合っているのに、中には耳が特徴的だったり長い尾を持った人達まで混じっているのに、認識は違えどちゃんと会話は成立しているのだから。
それと異世界人の話しだと人間には例外なく天職と現職が与えられている。
これはゲームシステムに近く年若い者ほど早くに理解していった。
天職、基本的に本人にも知り得ない就くと最高のパフォーマンスを発揮できる職業。
現職、現在の職業でこれを成長させる事で自身の能力が高まっていく。
種族、竜人、獣人、エルフ、ドワーフ等のファンタジーあるあるな見た目と特徴の種族で、異世界人の並人と地球人は同一で差はない。
種族差はあれど鍛えられる肉体と精神には自ずと限界があり、不足分をそれ以上に与えてくれるのが職業になる。
なぜ職業が必要となってくるのか?
モンスター、異世界人が現れた数時間後、突如出現した異形の生物。
数こそ少なかったがその身体能力は野生の猛獣をも上回り、人間をエサとして見ないながらも無差別に殺害して回る歩く小災害である。
このモンスターと戦い勝ち生き残るために、神々が人間に授けたとされるのがこの天職と現職……職業の力だった。
世界の交わった後の人々の明暗を分けたのは、どれだけ聡明か愚かかだった。
聡明な者は世界の変化への理解を後回しにして、異世界人を受け入れ話しを聞きモンスターより生き残るために動き出した。
賛同者……仲間を集め身近な材料から武器や防具を作り、水や食料、安全な拠点を作れる場所を探し旅立った。
愚か者は全てを否定し受け入れなかった。
変化を受け入れず異世界人のしわざと言い何もせず、現れたモンスターに襲われ死者を出し、それでも現実から目を反らしヒステリックに泣き叫び……
中には恐怖に駆られたり、現実逃避している場合じゃないと逃げ出した者も居る。
そういった者達は集合と離散を繰り返しながら、聡明な者が率いる集団に参加して生き延びた者もいた。
人間がいち動物と同じにまで落とされ世界は生き難くなったと言えよう。
それでも私達人間は集団を形成し、知識と知恵を出し合って、職業の力を借りながらもこれまで生きてきた。
ならばこれからも全員一丸となって力を合わせれば、この人間に厳しくなった世界でも生き続けられるだろう、私はそう確信している。
だがそれも目の前にあるダンジョンを安定して冒険できるようになればの話しだ。
ダンジョンを放置すれば中からモンスターが出てきて、人間を殺し死体を持ち去りダンジョンに吸収させるのだから。
我々人類が生き残るには野良のモンスターに注意を払うよりも、多くのダンジョンを潰す事の方が何倍も重要なのだから。
こうしている間にもどこかでダンジョンが発生し、誰かがダンジョンを踏破して潰している事だろう。
今夜はもう寝よう、明日は私達が冒険をする番なのだから。
著 世界に名を奪われた地球人
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