第3話 2人の休憩と自己紹介

 目が覚めた、つまり俺はまだ生きている。

 俺にはまだ思い出せる直線がある、こんなに嬉しい事はない。


「気が付きました?」


 仰向けに寝かされていたようで、視線を向けると美少女が胸を隠すのに樹皮を上げているので、可愛いお尻が半分以上見えていた。


「生きてるって、ホント素晴らしい……」


 俺が気を失っている間と同じく周囲を警戒しているのか、美少女は俺に背を向けたまま適度に歩き回っている。

 その度に柔らかな白桃が姿を変え、プリンプリンと運動している。


「ええそうですね、この度は助けていただいて、本当にありがとうございました。周辺の警戒をしたままなので、背中越しで申し訳ありませんが」


 俺の言葉をオーガを倒して生き残ったからだと勘違いしているみたいだけど、都合がよいので訂正しない。


「聞きたい事は色々あるけど、寝て少しは回復できた。飲める水と隠れられる場所を探そう、もう1戦しろと言われてももう切り札のアレは使えないからな」


「そうしましょう……って、大丈夫ですか? 立てますか? 肩、貸しましょうか?」

わりい、貸してもらえるか」

「はい……んっしょっと」


 俺より少し目線が下に来る美少女に肩を借りて、宛もなく森を歩く。


「後ろは無理でも左右は確認しながら進もう」

「ええ、わかりました」


 美少女は左手で俺の左手首を持ち右手で腰を支えてくれているせいで、歩く振動で樹皮が少し落ちて小振りなお尻で止まっているらしい。

 あえて視線は向けないが、多分魅惑の粒が視野の少し下に見えるはずだ。


「いい住処になる場所が見つかるまでは物を、集めながら服や武器道具なんかを充実させていく事になると思う」

「ええ」


「鑑定(物)ってのを持ってるし、食料、飲める水の判断、装備の材料なんかの判断。手先もある程度器用だと思ってるから、素人だけど作るのもなんとかなると思う」

「凄い、オーガを一撃で倒す戦闘力があるのに、他にも多才なんですね」


「当然君にも、できる事と寝る時俺と交代して見張りはしてもらうつもりだから、そこんとこよろしく」

「はい、これでも騎士ですから、今回のオーガ相手には装備がなくて不覚を取りましたけど、剣と盾と甲冑があればあの程度の相手には負けませんよ」


「野生生活から金属加工まで、個人でこの森でやる気かよ。武具は木や石を組み合わせて作るのが限界だろうな」

「あー、そうでした。言われてみれば……少し考えればわかる事なのに、すみません、どうやら私も少し疲れてきたみたいです」


「だったら無理せず休もうか」

「そうしましょう。無理して疲れ切った状態でモンスターと接敵したら、今の装備じゃかてませんから」


 俺達は木を背もたれにして、互いに木の反対側に腰を下ろした。

 こうすれば隣り合わせより広く、視野を確保できると教えてくれた。

 眠りそうになる意識を繋ぎ止めるために会話を続ける。


「そう言えば自己紹介がまだだったな、俺はシバ、地球の日本って国で生まれた15になったばかりの学生……だった。昨日まで日本に居たのに地震……地面が激しく揺れる自然現象に起きたらこの森に居たんだ」


「私の名前はエルネシアで、年は同じく今年で15になります。シバさんより少しだけ年下ですね。私は、いえ私達はこことは別の世界に居ました」


 エルネシアの彼女の話しは荒唐無稽だった。

 だが俺が日本から異世界転移したなんて考えも常識ではありえない。

 正解不正解の考察は後回しにして、今は話しの続きに耳を傾けよう。


「私は生まれた世界でモンスターハンターギルドの職員をしているシングルマザーの母に育てられ、沢山のハンター達を見て育ち増した」


 △△▽▽◁▷◁▷


 私の見てきたハンターは、考えなしのバカには務まりません。

 どんなに仲間が良くても先走って大怪我して引退するか、助からずにその場で死んでしまいます。


 生まれた頃からそんな光景を見て育ったからでしょうか、私はモンスターを倒して生き残る力を、ミスをしないための慎重さと知識を求めました。

 だからでしょうか、12で弱小モンスター相手に始めたハンター生活なのに、3年足らずで戦士から騎士にまで登りつめたんですよ、凄いでしょう。


 だけど私は同じ人間相手には、仲間相手には慎重さを忘れていました。

 今となって自覚していますが私は頭に乗っていました。

 私の嫌いなタイプのハンターと同じく、仲間内で1番強いからって鼻につく態度を取っていました。


 彼等彼女等はそれが我慢ならなかったのでしょう、私の誕生日付近に私達にとっては大型の狩猟計画が立ち上がっていました。

 計画の最中じゃ祝えないから、今祝っちゃおうよ。

 そう言われて嬉しかったので、私は素直に彼等に感謝しました。


 でも幸せはそこまででした。

 私の使うカップに痺れ薬が塗られていました。

 動けなくなった私を彼等は罵倒し、連れてきていた奴隷商人に売り払ったのです。

 私は奴隷商人を主人とした奴隷に落とされ、元仲間達はかなりの金額を受け取っていました。

 15間近で騎士になった処女ですからね、顔やプロポーションを度外視してもかなりの値段になったみたいでした。


 彼等の契約が終わった瞬間辺りが光に包まれ、気が付けば服と一緒に手足の枷が消えていて、裸で森に横たわっていました。


 初めて1人で森を、それも裸で歩いていたので人を見かけた時は驚き固まってしまいました。

 最近の運の悪さも重なってか、真後ろにオーガが忍び寄っていたみたいですし。

 走り寄られて押し倒された時は犯されるんじゃないかって、怖くて仕方がなかったんです。

 そこからはシバさんの知っての通り今に至ります。


 △△▽▽◁▷◁▷


 なるほどね。

 エルネシアの話しを聞きながら俺は、総職系男子にアクセスできないか試していた。

 少なくとも職業ゲットのタイミングで、その職業の名前と効果や能力を教えてくれるんだから、管理しやすいようにとか、思い出せるようにとかの便利機能があってもいいだろうにと。


 そうしたらあったあった、現職の一覧のみだけと見る能力が。


 現職

 勇者

 武器職人

 防具職人

 武具職人

 服飾職人

 道具職人


 ここまでは覚えてい……る? 道具職人?

 まあいいか。


 戦士

 これはオーガと戦ってる最中にゲットしたんだろう。


 迅戦士

 これは最後の踏み込みまでの猛ダッシュでゲットかな?


 魔法使い

 うええええええ! まだ30歳じゃないよ!? 15歳だよ!


 って、何! 処女だとぉ!!

 処女厨じゃないけど、むしろ経験豊富なお姉さんにリードされて経験を積んでから、磨いたテクニックで処女を……なんて考えた事もあったなー。

 モテなさ過ぎて夢で終わるかもって諦めかけてたけど。

 エルネシアも苦労したみたいだねえ、奴隷にするのは流石にやり過ぎだからな、元お仲間達。


 英雄

 今日から俺はユウキ・ヒデオさんだよー!

 ハッハッハー!

 じゃねえよ、どう考えてもあのオーガ、並じゃなかったんだよ。

 じゃないとレベル1っぽい勇者が英雄になるなんて不可能だからな?

 てかそれを一撃必殺した全力の一撃ブレイブストライクの威力あり過ぎー!!

 流石にコスト重々なだけはあるな。


「俺はどちらかと言えば女に対して奥手だからなー、気の効いた言葉なんて知らないし」

「そうなんですか? でも私を助けてくれてオーガに勝った貴方は、伝承に語られるヒーローみたいで格好よかったですよ」


 ドキンッ!

 いや、単なる偶然だよな。

 それにしても俺が格好よかったか、生きててよかったー!!

 よし、このまま変な下心を出さずにいこう。

 オラオラ系でもチャラ男でもない俺に訪れた千載一遇のチャンス。

 焦らず俺なりに親睦を深めていこう。

 だけど誰かに奪われるくらいなら、その前に力づくで奪ってみせる。

 なんてな。


「ありがとう、俺も初めて見た時からずっと、君の事は物語に出てくるお姫様みたいだって思ってるから。その、すっごい綺麗だし、好みのタイプだしな、ははは」

「っ!」


 それからしばらく、俺達の間に会話はなかった。

 会話に失敗したかと思いつつも、総職系男子と多数の現職について考えていた。

 空気は少し湿り気を帯び、空は暗くなり出しているのに気付かないまま。

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