2-3
「わぁ〜、すごっい!」
耳ににまとわりつくガヤガヤ音を劈いてその声は直接脳に響くように聞こえた。
只今我々は県内最大級のショッピングモールを訪れている。
着る服が無い事で悩んでいるならもう買ってしまった方が早いと結論に至り、一度ヨウを家に戻し、ありったけの金を持って来いと指示したのだ。
そして今に至るのだが
「すごっい!あぁ〜、このコップかわいい!あっこっちも!」
現状、見慣れた制服で金髪のポニーテールを揺らしながら、あっち行ったりこっち行ったりしながらさっきから「すっごい!」を連発している。
「おい。目的忘れてないよな。」
「ねぇねぇねぇねぇ!見てあのワンちゃんすっごいかわいいよ!」
「あのなぁ、…確かに可愛「ほらっ公一。早く行くよ。目的忘れてないよね。」
「…。」
「ねぇ公一!あれ何?なんかすごっいよ!行こ!」
先程からこの様に店内を駆け回るヨウを追いかけているのだが、こいつ移動速度が尋常じゃなく速いため追いつくのに必死である。
横っ腹が痛い。もうやだ。
まあ、しかし金色の尻尾が揺れるたびになんか、こう、追っかけたくなるのは何なんだろうか。思いっきりガシッと掌で掴んで見たい衝動に駆られてしまう。
猫じゃらしで遊んでしまう猫の気持ちが今なら分かる。これが狩猟本能。
そうか俺にも野生の本能が残っていたのか。
そんな馬鹿な事を考えていると目の前の獲物の揺れが収まった。
「ねぇ、公一あれ何⁉︎」
どうやらショッピングモールの広場で何かイベントを行っているらしい。
広場の中央には複数の机が並べられており、その上には何やら複数の枠が描かれているマットが敷かれている。そしてその机を挟みに小さな少年から大きなお友達まで幅広い年代の人達が向かい合って座っていた。
そしてその更に奥にはこじんまりとしたステージがあり、その上にはキラキラ光る全身緑タイツにあちこちに鎧の様な装飾、そして胸の辺りに大きな文字で、『瞬』と書かれており、大きなサングラスを掛けたものすごいツンツン頭の青年と、似たような格好をした全身ピンクの体型からは女性と思われる小柄な人が立っている。
「お前ら盛り上がってるかい!本日この大会の司会を務めるカードマスター瞬だ。みんな知ってるよな!今日は絶好のデュエル日和だ。お互いの技を盗みまくって更なる高みへチェケラ!」
「「「チェケラ!」」」
会場の大きなお友達の低音が広場一帯に響き渡る。
「あれはな、カードゲームの大会だ。懐かしいな。」
「そうなんだ。公一もあれやってたの?」
「まあな。ちょうどあれが流行ったのが小学生の時で同い年の子はみんな持ってたぞ。」
「じゃあ公一も参加すれば良いのに。」
「嫌な事思い出させるなよ。昔大晦日に母ちゃんに全部捨てられたよ。あの時自分で掃除していればなぁ…。」
何で母ちゃんって何も聞かず勝手に捨てるのかね。折角の俺の最強デッキ…。親に敵意を抱いたのは後にも先にもこの一度きりである。
「お母さんはきっと公一の為を思ってそんな事をしたんだよ。だって将来あんなちょっと気持ち悪いのにのになるかもしれなかったんだよ。」
ヨウの口から放たれた綺麗な澄んだ声が、場の男どもの低音をすり抜け会場全体に響いた。
そして次の瞬間時が止まったかのような静寂が場を支配する。
先程の猛りも何処へやら会場の猛者共は生気をな失ったかのように俯いている。
まるで屍のようだ。
「…気持ち悪い…。」
「俺、これ今日で辞めるわ…。」
「ねぇ君。良かったらこの最強カード君にあげるよ。もう僕には必要無いものだから…。」
会場の至る所からボヤキ加減の沈んだ声音がボソボソと聞こえてくる。
お前らメンタル弱すぎだろ。豆腐レベルじゃないか。
なんか目も当てられなくなってきた。
「ヨウ、行くぞ。」
一刻も早くこの場を離れたいと自然と足が早くなる。
「待ってよ〜。」
後ろから聞こえるローファーのコツコツという音が付いてきてる音を確かめながら、振り向かずに歩く。
「ねぇ、公一、やっぱり私お母さんは悪く無いと思うの。だってさ…」
えっ?それまだ続くの?
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