1-13
「たっだいま!、コウちゃんいる?」
「おかえり。」
バリッと煎餅を齧り、ソファで寝っ転がりながらテレビを観ている俺の前に、ニヤけ顏でやって来た姉が、
「ねぇコウちゃん。私に言うことあるでしょ?」
言い方にちょっとイラっとしてしまったが。助かったのは事実なのでお礼くらいはちゃんと言っておこう。
「あぁ、あのさ、電話ワンコールで出るとか正直引いたんですけど。ちょっと気持ち悪って思った。後、いろいろと助かったよ。ありがと。」
「えー、ちょっとお姉ちゃん複雑なんですけど。素直に喜べないんですけど。お姉ちゃんがどんだけ苦労したか、演劇部の人から衣装借りるのは楽だったけど、職員室に侵入して没収品ボックスからブリーチ取ってくるのとっても大変だったんだけど〜。」
「はいはい、ありがとさんって言ってるじゃん。」
テレビの続きが気になっていたので、態勢を少しズらして覗き込んだ。
が、すかさず顔の前に姉の顔がくる。
「あの後始末も大変だったんだよ。あのヤンキー達が帰ってから全校放送で、ただいまの演劇部による実演。〝黄金の獅子の系譜〜僕らは仲間と今の中で〜〝をご覧いただきありがとうございました。って誤魔化してあげたんだからね。ほら姉ちゃんにもっと感謝して。もっと敬って。」
「冷蔵庫にプリン買っといた。」
「プリン!ヒィヤッフォ!そこまでしてくれなくて良かったに。いや〜、さすが我が弟だわ。ごめんね、なんかせびったみたいで。本当にそんなつもりなんて無かったのに〜。」
姉は目の色を輝かせて冷蔵庫に向かった。
ちょろいな。そしてうざいな。
そして口にスプーンを咥えながら戻ってきた。
「でもさ、コウちゃん。あの時あの子が場に流されなかったらどうしてたの。わざとおかしなテンションにして正しい判断が出来なく誘導してたのは分かったけど、ちょっと成功率は高くない様な気がしたんだけどな。」
さすが我が姉、そこまで見破っていたとは。確かに成功率は高くない。人の気持ちなんて分かるわけもない。
でもそれは本当に些細なこと。
だって俺には、
「主人公補正ががあるから、失敗はしないだろ。」
「それもそうね。コウちゃんもいい加減慣れてきたのね。」
主人公補正
主人公がいかなる危機に陥っても決して敗北はしないような、主人公にとって都合が良くなる状況になる補正のこと。
俺らの一族は代々この能力が備わっているらしい。
この一見とても素晴らしいと思われる能力、
本当に大事なものは守れなかったこの忌々しい能力。
俺はこの世界の主人公である事を捨てた。
そして誰かと同じ様に平凡で目立たないただの人になろうと決めた。
そうすれば、あの子がまた戻って来てくれるのだろうと、またあの頃の笑顔で微笑んでくれるのだろうと、一方通行の希望を信じて。
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