1-12

「ふうぅ…。」


全身の痛みを溜息と一緒に吐き出したい気持ちは神様には届かなかったようで、先程から体のあちらこちらが悲鳴を上げている。アドレナリンで抑えられていたのであろう全身打撲の痛みが今頃にになって現れてきた。


  校内に戻ってから急いで更衣室に向かいカラコンを外し、シャワーで1日染ブリーチを落としてるところである。

しかし肩は上がらないし。ブリーチ全然落ちないし今度は口から悲鳴を上げたいぐらいである。

身体中のアザをみて、我ながら良くやったと褒めてやりたいぐらいだ。

やっとの思いで髪を洗い流し、いつもの格好に着替え、借りていた衣装を演劇部の部室に返し、その足で屋上へ向かった。


自然と早足になるのはなぜだろうか。自分でも驚くぐらいの速さで屋上に出る扉の前まで来てしまった。


「何て声掛けよ…。」  


 一瞬考え込んでしまったが、こうなったらなるようになれだと腹をくくりノブを回して勢いよく飛びたした。


「悪かったな。勝手なことして…。ってあれ?」


そこには先ほどの泣いていた少女の姿はもうなく、そのかわりに黒色の髪のカツラと見覚えのある眼鏡と黒いコンタクトが地面に並んで置いてあった。


「ったく。待ってろって言ったのに。」


何気無く地面に置いてあるカツラを手に取り鼻に当てた。


「こいつ、良いシャンプー使ってんな。」



教室に帰ってみるとなんだか人だかりができている。


「なにこれ?」


しかもよく見ると俺の席の周りも取り込まれていてしまって席につけないし。てか机に落書きとかしてないよね。みんなで寄ってたかってイタズラとかしてないよね…。


教室の中の唯一の居場所を失われた俺は残りわずかな休み時間をトイレに行くふりして過ごすことにし、教室を出た。


「待って‼︎」


廊下に出てすぐの所で聞き慣れた声に呼び止められ、その方に向き返る。


「さっきはありがと。私の為にあんな事までしてくれて。こんなに怪我して…。ごめんなさい私のせいで…。」


「俺が勝手したことだから気にすんな。それに友達は助け合うもんだろう。」


「友達…。そっか、私たち友達だもんね。じゃあ、もし公一が困った時私が助けてあげる。」


「それは頼もしいな。ってか名前…。」


「だって友達は下の名前で呼び合うんでしょ。」


「そうだな、じゃ、よろしく頼むよ。ヨウ。」


その言葉に屈託の無いすごく嬉しそうにはしゃぐ子供のような笑顔で返してくれた。


その顔に先程までの後悔に満ち、自分を卑下していたような暗い顔していた少女の面影は一つもない。


「早く戻ってやれよ、みんな待ってんじゃねぇの。あの人だかりの真ん中に居たのお前なんだろ。」


あの光景を目撃した瞬間は動揺していたが、落ち着いて会話を盗み聞きしていたら大体のことは把握できた。

確かにいきなりパツキンのお人形みたいな美少女が当たり前のように席に着いたんだ。

そりゃこうなるわな。まるで漫画かなんかの転校生みたいな扱いをうけていたし。男女関係なく凄い人だかりだった。


俺に促され、じゃまた後でと手を振り教室に戻る金髪美少女。


教室に入るか入らないかのところで、正直な感想を口走ってしまった。


「ヨウ、やっぱその方が可愛いぞ。」


俺も振り返り、再び目的地へ足を進めた。 


後ろの方でがしゃっと変な音が聞こえたが気にしない事にしておこう。

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